猫の召使い
お久しぶりで御座います。私の事をお覚えおいででしょうか。私は西の大陸、中央部に広がる森の御頭領様であります、カロンビーヌ様にお仕えしております。召使を務めております、猫獣人のナナカと申します。
森の奥深くにあるお屋敷の掃除に洗濯は勿論、侵入者の排除にも勤しんでおります。
私がここまで屋敷にあらゆる事を熟す様になったのは、実は最近の事となります。他にする者がいない、というのもありますが、私がすすんで仕事をしております。
昔私のご先祖様、とまではいきませんがお爺様より以前の代からこのお屋敷に仕えており、当時の頭領であるカロンビーヌ様のお父上様に拾われた事が働く切っ掛けだと聞いております。
元々は浮浪者だった私達猫獣人の一家は、住む場所も食べるものも無く途方に暮れて彷徨っていたところを拾われ、屋敷で働くことを条件に屋敷に住まわせてもらう様になったそうです。
仕事は当然楽ではありませんが、やっと定住出来る場所を手に入れ、私のご先祖様は大層恩義を受けて感謝し、永くこの屋敷に仕える事を誓ったのだそうです。
そして時が経ち、まだ私が年齢が二桁になってばかりの幼い頃、私も見習いの召使としての仕事をする様になりました。ですが、当時の私は仕事よりも遊ぶ事が大好きで、よく仕事をサボっては屋敷の中を走り回って大人達を大変困らせたものです。
「ナナカには困ったものだ。健康なのは良いが、全く仕事を覚えようとしないし、だからといって勉強が得意と言うわけでもない。」
「まるで野生の動物の様だ。今の所特別悪い事はしていないが、これでは使用人として務まるかどうか。」
そう大人たちによく言われたものです。
私も別段仕事が嫌いという訳ではありません。ただ遊ぶ事を優先した結果とだけ言っておきます。
そんな遊び盛りな私はある時、あるヒトと出会う事となります。それが当時の頭領様の子どもであるカロンビーヌ様です。
当時のカロンビーヌ様はとても内向的で、外に出るよりも中で大人しく読書や魔法の勉強を嗜むヒトでした。唯一外に出る時が、当時の頭領だったお父上様と庭に出る時くらいでした。
そもそもがカロンビーヌ様の家は庭師の家系であり、草花の世話を生業としていた事から屋敷の外は花が沢山咲いていました。そして庭にも溢れんばかりに花が咲き、花に興味が無くとも花を見ない日はありませんでした。
ある日の事、屋敷中を散策し尽くした私はある場所へと向かいました。そこは屋敷の中で唯一未だに足を踏み入れた事の無い、裏の庭へと続く扉でした。
父からも強く咎められ、やんちゃだった私も近寄る事の無かった場所ですが、そもそも誰も裏の庭には入ってはいけないという暗黙の決まりがあったので、その時の私はその言いつけを守っていましたが、ある日その扉へと続く廊下へと歩いて行くカロンビーヌ様の後ろ姿を見ました。
私はサボってばかりではいましたが、それでも見習いの使用人としてカロンビーヌ様とは顔を合わせてはいました。しかし、そんなに使用人として話し掛けても、挨拶を交わしても一言言うだけでそれ以上の声を聞く事がありません。見かける姿も本を読むか窓から外を見ている姿位しか見かけず、一体そういう人柄の人物なのか全く読めません。
だからこそ、私は気になりました。
私も、他の使用人さえも入れないという裏の庭へと行って何をしているのか。
そして私はある日、父の言いつけを破って裏の庭へと入る扉に手を付けました。
そして扉の先、そこにあった裏の庭は思っていた以上に、想像し難い場所でした。
表の玄関前の庭の花も種類が沢山で、とても美しい庭でしたが、今自分が居る庭は表側とは比べ物にならないものでした。
まず目に入ったのが大きな薔薇の花でした。深い赤色に目が留まると、何も思いつかなくなる程引き込まれてしましました。今まで自分が見てきた薔薇が粗悪品と思えてしまう程でした。語彙力があまりありませんので他に表現できる言葉が思いつかず残念です。
そんな美しい場所に見惚れながら足をデタラメに進めていくと、誰かに呼び止められ、そこで自分がヒトに黙ってこの場に踏み入った事を思い出しました。これは怒られてしまうと思いつつ、声のする方へとゆっくりと振り返りました。
「ここは私とお父様以外は立ち入り禁止のハズだぞ。」
弱々しくも凛とした中世的な声をしており、一瞬だけ相手がお嬢様である事を忘れる程でした。その時私はどう言い訳をしようか浅はかな考えを巡らせ、目線を泳がせていました。
「…まぁ良い。ヒマなら手伝ってもらう。ついて来なさい。」
お叱りを受けると思っていましたから、カロンビーヌ様からその様に言われて驚きました。
その時私はカロンビーヌ様がどのような方だったのかよく知っておりません。怒るか慌てるか、そんな風に予測していましたが、そのどれもが外れ、私は言われるままにカロンビーヌ様の後に着いて行きました。
そうしてついて行った先には、透明な板で張り付けられた様な建物が建っておりました。確かあれは硝子と呼ばれる素材だった筈のを覚えていました。
そんな硝子製の建物の扉をカロンビーヌ様は開けて中に入っていきました。私もその後に続き、きっと本来であればこの庭同様入る事の出来ない場所へと踏み進めていきます。そのためか私は入る前からずっと興奮していました。
そして硝子の建物の中、そこは外の庭とは同じで、でも違う光景となっていました。
目の前に広がるのは花畑でした。しかし、外の庭でも見たことの無い花で、白く大きな花弁が広がって円状のおしべが特徴です。
そんな白い花が沢山咲いている中、花畑の真ん中に誰かが佇んでいました。
そのヒトに向かってカリンビーヌ様は歩いて近づき、声を掛けました。
「おはよう、オルレア。今日は調子どう?」
話し掛けたそのヒトは振り返ります。その顔は見た目や佇まいと同様にとても儚げで、色は薄く白百合色の長い髪は地面に付くほど長く、その白さに反して目に色は紅く、白い色が紅色を引き立てて一層鮮やかに見せていました。
何よりもそのヒトの頭上にある花の蕾を見て、オルレアと呼ばれたヒトが妖精種の中でも最も珍しい樹花族であると、幼く勉強をサボりがちだった私にも判別出来ました。
「…アスターと呼べ。」
カロンビーヌ様が穏やかに話し掛けたのに反して、その樹花族はふくれっ面をしてカロンビーヌ様に言いました。オルレアがそのヒトの名前かと思いましたが、どうやらどうではない様です。
「またそんな…好い加減名前を気分で変えるのは止めなさい。」
「だって、オルレアって響きが好きじゃない。アスターの方がカッコ良いだろう?」
何やら二人で話し始めました。しかもアスターと名乗る樹花族はカロンビーヌ様に対して我が儘を言っておりました。次期頭領であるカロンビーヌ様に対してぞんざいな態度をとっている事が信じられず、私は目を見開き凝視してしまいました。
「あぁ、気にするな。この子はこの家の中で最も尊い方だ。私以上に態度と所作に気を付けなさい。」
言われても私は半分信じれずにいた。
親から教わったのは、カロンビーヌ様がこの屋敷のご息女であり、次期頭領である事。故に彼女こそがこの屋敷の中で一番尊い方である事。そういう話だった。
そんな彼女が他者に対して砕けた様な態度をとり、その相手は絶滅危惧種と呼ばれる種族ではありますが、そんな人物までも砕けた態度をして話し掛けられていて、とても話に聞いたものとは違い、とても同一人物とは思えませんでした。
それと同時に、胸の辺りにもやもやとした滾りを感じました。
当時の私は、どこか優越感を感じていました。誰も入れないと言われていた場所に、普段から人をひきつけない引きこもりな息女と遭遇に、そんな彼女との同行を許されて庭へと踏み入れた時から、どこかで自分は選ばれたのだと思っていました。
しかし、実際私が目にしたのは時期頭領が全く見知らぬ妖精と、昔からの友人であるかの様に戯れると言う光景でした。その時私は。
あぁ…この時の私はただの通りすがりでしかないのだ。
そう思い知ったのです。
近くにいるのに遠くに追いやられたような感覚に、私は一人で勝手に蚊帳の外に立たされた気分となったのです。元から私はこの屋敷に仕える召使で、かつ見習いの身でしかないと言うのに、随分と身勝手な勘違いをしていたのです。本当に当時の私は子どもだったと思います。
そんな落胆に浸る私でしたが、カロンビーヌ様がアスターと自称する妖精の相手を終えたのか、硝子製の建物から一緒に出て外の空気を吸って一息つくと、私の方へと振り返り言いました。
「ここで見たことは他言無用だ。それと…私が呼んだらまた来い。」
そう言うカロンビーヌ様の表情は、目を逸らしてどこか言いよどんでいる様にも見えました。
聞いた私は、その時再び胸の内に言い知れぬ高揚感感が湧き上がったのでした。今思えば、我ながら本当に単純な思考をしていたと思います。
やっぱり私は選ばれたんだ。二人の話をする事を見れたのは、特別な事なんだ。沈んだ気分が浮上した私はそんな妄想で浮足立った状態で次の機会を待ちわびていました。
自分が本当は無力な存在だと思い知るのは、たったの六時間だけで十分でした。
2
夜、眠っていると突然父に起こされて手を引かれ、どこかの倉庫に入れられて絶対に出るなと言いつけられてそのまま夜を明かしました。
次に入れられた倉庫の外に出たのは、父もカロンビーヌ様の父である頭領様も他の使用人も、手練れだった筈の見張りや護衛も皆亡骸になった後の事でした。
ヤったのは侵入者である密猟者でした。その犯人達はこの屋敷にいる『宝』とされる『花』が目当てでそれを守ろうと大勢亡くなったのだと聞きました。
そしてそんな犯罪者達は、皆カロンビーヌ様の魔法により亡き者にされたのだとも聞いた。
犯人がいなくなった事に安堵しつつも、私はカロンビーヌ様の様子が気になりましたが、しかしカロンビーヌ様がどうなったかは他者から話を聞く事しか出来ませんでした。
カロンビーヌ様はあれ以来部屋に引きこもり、外に全く出て来なくなったからです。
聞けばカロンビーヌ様が魔法を使って密猟者を退治したのは件の裏庭で、魔法を使った事でその場はヒドイ有様となり、血を苦手とする妖精種であるカロンビーヌ様とあの樹花族もまたヒドイ状態になっていたとか。
意識を失い、下手をすれば後遺症が残っていかもしれないと聞き、私は自分の頭を叩きたくなりました。
何安堵しているんだ!カロンビーヌ様が大変な目に遭っていると言うのに、そんな時自分は倉庫という安全な場所に籠って何もしていないではないか!
特別扱いされたと勘違いした直後のこの自分の体たらくさに、幼いながらも自分自身が情けなく、泣きたくなりましたが、しかし私以上に苦しい思いをしている事に気付きました。
気になりカロンビーヌ様の部屋の前まで来た時に聞こえた、嗚咽の様な鼻を啜る様な音を獣人の耳に入り、私は何故か無性にその場から離れたくなり、廊下を走っていきました。
本来であれば廊下を走れば誰か大人が注意してくるのですが、もう注意して来る大人はおらず、残ったのは被害に憔悴しこれから先に悩む弱った大人が数名いただけでした。
そんなヒトの少なくなった屋敷の中を走り、気付けば私はあの裏庭に入っていました。
庭は初めて入って来た時とは様変わりに、手入れがされなくなったせいで薔薇は萎れ、他の花も全て萎れたり枯れたりして、とても悲惨な光景が広がっていました。
私はふいにあの樹花族が気になり、硝子の建物へと近寄り中を覗きました。建物の中の花は無事で綺麗に咲いていましたが、心なしか元気が無いように見えました。そんな花の咲いている中、あの樹花族が花畑の中で横たわっているのが見えました。
私は急ぎ駆け寄り、息があるかを確認しました。上下に動く胸を見て、私は安堵の息を吐きましたが、しかし樹花族の様子を見てその安堵は消え去りました。
顔色は真っ青で血の気が無く、眉間にシワを寄せてとても具合が良いとは言えませんでした。私は急いで医者を呼ぼうとしましたが、すぐに止めました。
この屋敷内で医者と呼べるものはいない。正確にはその医者さえも亡き者となってしまっていました。それに医者がいたとしても、樹花族に対してどれだけ診れるか分かりません。
どうするか悩んでいると、何かが私の服の裾を引っ張るのを感じました。見ると横たわる樹花族が腕を伸ばして私の服を摘まんでいました。
「はぁ…はぁ…だっだいじょうぶ、だ。少し横になればすぐ良くなる。」
「いや、説得力ないよ!?」
思わず叫んでしまったが、今は樹花族の言葉を信じる他無かった。治療方法も何も知らない私にはそうする以外に自分に出来る事が無かったから。
樹花族、アスターの体勢を治してやった。おかげかアスターの様子が落ちつき、呼吸も整って来た様だった。
「部屋とかないの?」
「…知らないのかい?自分ら樹花族はこうして花畑をヒトで言う布団代わりにして寝ているのさ。」
儚げで今にも消えてしまいそうな印象を受けたが、芯の通った硬い声色で、女性というよりも中性的な男性と話していると錯覚してしまう。
「でも、すごく弱ってるんじゃないの?ひどい目に遭ったって聞いたし、ここじゃなくて、もう少し奥まった場所で」
「君は、自分らの事を知らないんだね。」
あぁそうだ。私は樹花族の事も、妖精の事も知らない。今までそういう勉強事から逃げてきたし、自分の事を優先して身近にいる妖精の事さえもちゃんと見ないできた。
心の中で自棄になりつつ、それでも目の前の妖精から目の離せずに私はその場に残って話を続けた。どうすることも出来ないと自分では分かり切っているのに、何かをしようとしている自分に今気付いた。
「自分は、知っているよ…君らの事。っと言っても、全て聞いた話なんだけどね。
屋敷で何か問題があったか、とか。召使がどんな事をしていて、どんな話をした、とかね。」
一体何の話をしているのか、気になって耳を傾けた。聞いていると、まるでそれは別の誰かの視点の話に思えた。
「君の事も聞いているよ。召使なのに、全く召使の仕事をしない、問題児だって大人たちが話していたと。でも…彼女は、そんな君を羨ましいと言っていたよ。自由で明るくて、『自分』とは正反対だって。」
「あっ待って!ねぇ、さっきから誰の話をしているの?」
気になって仕方なくて、私はつい話を割って聞いた。でも、なんとなく『誰』の事か分かってしまった。
「ロビーヌ…いや、君らが次期頭領だと呼んでいるお嬢様さ。
彼女、君が新しく入った召使だと聞いてから、ずっと君を気に掛けていたよ。」
ねている好きに水を掛けられた様な衝撃だった。まさかカロンビーヌ様が私に対してその様に思われていたとは、私自身思いもしなかった。
そんな事実による衝撃で驚く私を置いて、アスターは話を続けた。
「ロビーヌはね、内気でなかなかヒトと話を出来ない事を何時も悔いてて、努力はしていたんだ。でもなかなか実が結ばなくてね。おまけに自分の立場が立場だから、自分に寄りつくヒトもあまりいなくて、寂しそうにしていたよ。
だからあの日、君と会ったのは彼女にとっては正に衝撃だったらしいよ。今度会ったらちゃんと話そうって決めていたと言っていたし。
あっ、自分が言ったというのは内緒にしてくれるかい?この話、本当は誰にも言うなって言われていたし、彼女も恥ずかしがりやでね。そんなの気にしないで打ち明けてしまえば、仲良くなれるかもしれないのにさ。」
なんともお節介な事を言っているが、今の私にはこの樹花族に対してあれこれ言い返す気にはなれなかった。
私があの裏庭に忍び込む前から、カロンビーヌ様が私に気付いていた何て。いや、実際はいつの仔とかまでは分からないが、私がカロンビーヌ様の事を見ていた様に、彼女もまた私の事を見ていた。
てっきりカロンビーヌ様は、他の召使いの事など気に掛けていないものだと思っていた。いや、それこそ彼女が内気故にそう周りが思い込んでいただけの事なんだろう。
私など、そこらの召使いの一人に過ぎないと思っていた。私は選ばれたわけではないのだと思っていた。
私には、二人がそれだけの仲なのか知らない。でも、少なくともカロンビーヌ様が胸の内を打ち明ける相手がこの樹花族だけなのは確かだ。きっと私だって、もっと寄り添っていれば、何か変わっていたかもしれない。
思えば、カロンビーヌ様は時折窓の外を見ている事があった。きっとそれは、庭の花を気に掛けているのもあるが、同時に『外の世界』への憧れもあったのだろう。
しかし、そんな憧れていた『外の世界』は彼女を裏切り、心に深い傷を付けた。
そして私は、カロンビーヌ様が独りを好んでいる方だと思い込んで、勝手に突き放していた。
唯一カロンビーヌ様の事を理解している樹花族のアスターさえも傷付き、カロンビーヌ様は部屋に籠ってしまい二人は離れてしまった。
このままで良い訳が無い。
この屋敷だって、庭だって、いつまでも傷を残したままで良いわけがない。
だから決めた。今やっと決めた。
私は、この屋敷を直して見せる。でも一人では屋敷の隅々までは綺麗には出来ない。だから新しくヒトを雇おう。この際そこらの妖精でも良い。幸い屋敷は森の奥深い場所に立っているから、近くに翅を生やした小さな妖精である翅生族が沢山いる。彼らの魔法であれば、屋敷内の掃除だってなんとかなるだろう。
屋敷の掃除は妖精に任せて、私はこの庭を綺麗にしよう。以前見たままの庭には戻せないかもしれないが、それでももう出来ないからやらない、何て事は駄目だ。
「アスター…様、でしたっけ?話をしていただき、ありがとうございます。」
「…良いよ。あと、敬語は良いぞ。」
「いえっ慣れたいので、ぜひ使わせてくだ、いただきます。」
「そうか。」
話を終えて、アスター様は眠りに着いた。きっとまだ疲れが残っているのだろう。私が来たせいで無理をさせてしまい、申し訳なく思った。
とにかく今は、やるべき事をやらねばならない。
そうして私は、自分のすべき事へと向かい足を進めました。
それからは本当に大変でした。
雇った妖精達は皆自由奔放で、なかなか言う事を聞いてはくれませんでしたが、私が熱心に話していた為か、時間を掛けて屋敷内の仕事をしてくださりました。
私自身も、慣れない庭や花の手入れを手探りで進めていき、なんとか薔薇の花を数輪ほど咲かせるまでいきましたが、それでもあの時見た光景には程遠い出来でした。
本当ならもっと綺麗に咲かせたかった。でも、当時の私にはそれが精一杯でした。
そうして時が過ぎていくと、部屋に籠っていたカロンビーヌ様が何かをしている事にも気付きました。しかし、私からは何かを言う事も、知ったとしてもそれを止める事を出来なかったでしょう。
ただ思った事、願った事はカロンビーヌ様を助けたい。私の事を見ていてくださったあのか弱かったお方を、自分の手で少しでも手助けしたい。それだけでした。
そして結果は知っての通りです。見事にカロンビーヌ様の計画は失敗に終わり、しかしカロンビーヌ様が本当に願っていた事が叶い、アスター様ともまた会って話すまでになりました。
私はただ、計画の助長をしただけで何の助けにもなりませんでした。
結局私はあの時と同じく、何も無い所から二人の様子を見る事無く居ただけ
「そんな事ないです!」
話している途中で、話し相手であるヒトが割って入ってきました。
「カロンビーヌさんにとって、あなたの存在はきっと心の支えとなったはずです!カロンビーヌさんがあなたを見止めた時の様に、きっとあなたがいた事が、助けになったはずです!」
とても元気に、良く通る声で私を励ます。
「そう…だったら良いですね。」
「そうです!」
思えばこうして過去の事を第三者に話すのは初めてです。屋敷の事が外部に漏れない為でもあるが、きっと私自身が自分の失態と思える事件の事を他人に話す事を恥じていたのかもしれません。
だからでしょうか、話せて私は少し心が晴れた気がしました。話すかどうか本当は悩みましたが、きっともっと早くすべき事だったかもしれません。
とは言え、矢張り話し相手はちゃんと選ばなきゃいけません。そしてその話し相手の選択は、今回は功を成しました。
「何かあれば、また来てください。ベリー様。」
「いえっ!これもヒトとして当然の事ですから!」
そう言って彼女はまた元気な表情を見せた。
それを見て私は、以前見たカロンビーヌ様とアスター様が互いに見合っていた時の表情を思い出しました。




