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セヴァティアの剣術指南

 その日は本を読みに学校へ訪れていたのだが、丁度昼時で暇そうにしていたファイパと遭遇し、そのファイパから話しかけられた。 


「そういやさ、シュロの剣術の師匠ってどんなヒトなの?」


 言われてオレはげんなりした。


「いやなんで!?聞いただけだよ!?」

「…正直思い出したくない。」

「そんなに!?」


 ファイパは随分と大げさに驚いている様だが、きっとオレの今の表情がそれだけ疲弊ひへいして見えるのだろう。オレも自覚している。


「…そんなに気になる事でもないだろう。」

「えぇー?だって前に修行しているところを見せてって聞いた時は

「オレもお前もシぬからダメだ」

って言われてさぁ。そこまでの反応されると、よけいどんなヒトだったか気になるじゃーん。それに話した方が楽になるって言うじゃん?」


 勝手な事を言っているな。しかし、ファイパの言う事には一理あるし、今話さないと今後催促される可能性が大いにある。それは面倒くさい。

 仕方なくオレはファイパの質問に答える事にした。


 山の土地守であるセヴァティアを簡単に紹介すると剣術馬鹿である。人体能力に優れた頭角人である以上にセヴァティアという人物はとんでもなく強く、突拍子もない事を仕出かす人物として、土地守を知る者達の間では有名だ。

 そもそもオレが西の大陸に来る前に東の大陸にいた頃の話になる。詳細は省くが色々あってオレは精神的な参った状態となっていた。そんな時、視察だか何だかで東の大陸に来ていたカナイと偶然会って、俺の様子を見るや否や言ってきたんだ。


「お前随分と弱ってるな。世話してやるから、私の仕事を手伝わないか?」


 その時の俺は自暴自棄になっていたからな。初対面の人物が何者か、仕事とは何かを一切考えずにオレは話を受けたんだ。そしてカナイに連れられて西の大陸へと渡り、次に会ったのが魔法学校の校長だった。

 校長と言っても学校自体は当時まだ建てたばかりで、教えている事は字の読み方や書き方位だった。要はオレに対して魔法に関する授業の練習をするのが目的だったんだろうな。


「君は自分の魔法の力を把握しきれていないんだね。私も親から教わっただけの知識しか無いから、一緒に学んで知識を付ければ、きっと魔法による事故を防げるだろう。」


 初対面だった故にオレは校長と名乗る人物を信用してはいなかったが、言ってる事は真っ当だったし、他にやる事も無かったから有り難く一対一での練習に付き合う事にした。

 そうして魔法の基礎や属性、知識面での基本的な事をある程度学び終えた時、ソイツはいきなり来たんだ。

 授業を終えて、一息入れようと校長から提案された瞬間、突如教室の扉が弾かれる様に開かれた。そして開かれた扉の先には、見たことの無い黒い二本の角を生やした頭角人の長身の女が現れた。


「魔法教わったか!?教わったな!よし、基本学んだんならもう十分だろう!だったら剣の修業をやるぞ!」


 開口一番に自己紹介でも何でもなく、いきなり剣術を教えると言い出したソイツはオレは茫然とした。先に正気に戻った校長がその頭角人の前に出て止めに入った。


「ちょっとセヴァティアさん!?帰って来たと思ったら何を言っているのですか!?」

「だってカナイが守仕を連れてきたと聞いたから、戦いの腕前がどんなものか知っておこうと思ったんだよ。それで、もうこの後時間は空いたか!?」


 えらく横暴な態度と言い方をするヤツが現れたと思ったら、あれやこれやと引っ張られる形となり、校長の止める事声も聞かずセヴァティアと呼ばれた女はオレを外へと連れ出した。


「おっオイ…一体何をさせる気だよ!」


 突然の事で最初こそ戸惑い、声すら出せなかったオレだったが、次第に正気付いてセヴァティアなる人物に対して物言いをした。

 そんなオレの声が届いたのか届いていないのか、ソイツは話し始めた。


「君、妖精だな?君は生きていく上で何が必要か分かるか?」


 手を引かれながら脈絡の無い質問に一瞬何を言われたか頭に入らず、オレは何も答えられなかった。


「それは力だ!どこへ行こうにも、何をしようにも、力が無ければ何も始まらない!では、どうすれば力を付けられるか。ヒトは常に力を付けられる体を持っているが、平和な日常生活を送っていては力は付かない!」


 そんな話をしつつ連れ出された先は見知らぬ森だった。何時の間にこんな場所に足を付けていたか。話を聞きつつ腕を引かれ、知らぬ内に転移魔法の魔法陣にでも乗せられたのだろうか?


「さて、話の続きだ!普通に生活していては力は付かない。ならば、過酷な環境に身を置けば力は付く!

 そう言う訳だから、今からここから山の麓まで下山する!」


 引っ張る手を離したかと思えば、胸を張って宣言したのはよく分からないものだった。言われてオレはここが山の中である事にも気付き、詳しい話を聞こうとセヴァティアに近付いたが、セヴァティアはそんなオレに見向きもせずに話を続けた。


「やる事は以上だ!何、山の中にある物であれば何を使っても良いぞ!

 では私は先に下りているから、お前はお前の調子ペースで行って良いぞ!」


 ではなっ!と去り際の挨拶をして、セヴァティアは俺を置いて本当に山を下りて行った。

 結局オレからセヴァティアに何も話が出来ず、ただ茫然と今の自分の状況を頭で理解する事に時間を掛けた。

 ちなみに後日にセヴァティアの修業に関してカナイに話したら、目を逸らされ全く目を合わせようとしなかった。恐らく向こうがごり押しして修行をすると言って来て、そしてオレはカナイに見捨てられたのだろう。後でカナイの頭に小さくハゲを作ると決意した。


     2


「えっそれでシュロどうなったの!?シんだ!?」

「勝手にヒトをコロすな!つうかオレ、シんでたら今のオレなんだよ!?」


 あっそうか、とファイパが間の抜けた表情で納得した。話の雰囲気に飲まれ過ぎだ。


「それにしても、すごいヒトだね師匠さん。話聞いただけでもうすごい、としか言えないよ。」

「マジで語彙力無くなってんじゃねぇか。…気持ちは分かるが。」


 実際山の中に置き去りにされた直後、オレはどうすれば良いか本気で迷った。ただ山を下山するなら体力が付きなけれななんとかなるが、会ったばかりの時点で既にヤバいヤツだという事が分かってしまったソイツが修行だと言って置いて行ったこの場所が、何の危険も無い場所とは思えない。きっと何かがある、そう直感した。


「実際にあった。」

「なにが?」

「脚は短く首が長い草食動物が山の中で群れを成していたんだ。」


 そうなんだとファイパが言ったが、当然それだけではない。


「問題はその動物が別の生物と共生関係にあると言う事だ。」

「きょうせい…って、その首長の動物の体に何かがくっついてたの?」

「あぁ、くっついていた。その山で唯一移動能力を持つ首長の草食動物に共生、もとい寄生していた肉食の攻撃性が非常に高いヤツがな。」

「うわあ。」


 ファイパはオレの簡単な説明だけで恐れ戦いた。オレも実際現場でビビり散らかした。

 まるで動物の長い尻尾の様に伸びるソイツは、鋭い刃物の着いた鞭の様に横を通り過ぎようとしたオレに襲い掛かった。


「ヒトってさ、掠り傷一つでも負うと動きが鈍くなって移動が困難になるんだ。本当にあの時は傷をどれだけ負わずに生き延びれるか焦ったよ。」


 オレにしては珍しい、落ち着いた口調で語っていたと思う。実際ファイパのオレを見る目が珍獣でも見るかのようだった。


「って、誰か珍獣だ!」

「何かいきなり切れはじめた!おちついて!?」

「…あぁ、悪い。」


 オレもあの時の事を思い出して、精神的な傷が開いてしまったのだろう。謝罪をし、話すかどうかを迷ったがこの際どうにでもなれという気持ちで過去の話を吐露とろした。


「山を何とか下山し、やっと普通に…やっと!普通に!剣の稽古が始まったんだが、そこでもセヴァティアはとんでもない事を始めたんだ。」

「おっ…おう。」


 歯切れの悪いファイパの相槌を気にせず話を続けた。

 剣の稽古を始める前にセヴァティアがオレに聞いた。


「シュロは喧嘩や戦闘の経験はどれだけあるんだ?」


 オレは正直に答えた。


「怪我を負いたくなかったし、面倒事を避ける為に喧嘩も何もしてこなかった。」


 それこそ物心ついた頃からオレは争い事に巻き込まれやすい性質たちだと自分で理解していた。何より怪我を負ってもまともに治療出来る環境でも無かったから、出来得る限り危険なものやヒトを避けて生きてきたつもりだった。

 そんなオレの返答を聞いて、セヴァティアはそれは元気良く言った。


「うん、つまりシュロは喧嘩も出来ない程弱いって事だな!」


 確かにそうかもしれないが、はっきりと他人ヒトから言われると物凄く腹が立った。

 セヴァティアからの質問は終わり、オレからは聞きたい事も無かったから、早速稽古を始める事となった。


「最初は剣の打ち合いって事で、オレがセヴァティアに渡されたのは片手で持てる木製の模造剣で、セヴァティアが持っていたのは、そこら辺で拾ったであろう小さい木の枝だった。」

「…えだ?」

「そう、枝だ。」


 当然オレは聞いた。まさかそれでオレの相手のするのかと。セヴァティアは何の曇りも迷いも無い目をオレに向けて言い放った。


「あぁ!『今』のお前にはこれが丁度良いと思ったんだ。さぁ、遠慮せずに掛かって来い!」


 ハッキリ言ってムカついた。まさかオレが枝一本でやられる程弱く見られていたと思って、オレは言われた通り力一杯に模造剣を振り上げた。そのつもりだった。

 気付けばオレはセヴァティアに押し倒され、首元に枝の先を突きつけられた状態になっていた。

 何も言えなかった。本当に一瞬のうちにオレはセヴァティアの接近を許していた。そしてセヴァティアの持つ枝の先が触れている場所。そこを深く突き刺されれば、確実に致命傷を受ける事を確信した。

 負けた。オレは確かにセヴァてィアに敗北した。

 オレは素直に負けを認め、セヴァティアに手を引かれて起き上がった。セヴァティアは変わらず自信に満ちた表情で鼻を鳴らしているかの様に口角を上げている。やはりムカつく表情かおだ。


「…一つ聞かせてくれ。」

「うん、なんだ?次の打ち合いなら早くても遅くても構わんぞ!」


 なんで質問一つしようとするだけでこんなに疲労感が半端ないんだ?


「そうじゃねぇ!…アンタ、やたら剣にこだわっているのはなんでだ?別に武器なら弓とかでも良いだろ。」


 むしろオレら妖精種は弓の方が扱いやすい。血とでもいうのか、本能的に弓の方が扱いやすいと感じ取っているし、無理して扱えるか分からない武器を持たせるよりも、妖精種がよく扱っていると知られている武器を持たせた方が良いのではないだろうか?

 そんな質問をしたオレが後悔したくなる様な返答をセヴァティアは構えていた。


「それは簡単だ。剣はなんでも出来るからだ!」

「…なんでも?」

「そうだ!例えば槌だ!槌は叩く事しか出来ない。弓は射る事しか出来ない!だが剣は斬る、突く、叩く、なんだって出来る!だから良い!」


 まるで年端も浮かぬ子どもが質問に答えたかのような雰囲気を醸し出していた。

 だが言う事には一理あると感じた。確かに剣であれば多少の応用が利くし、なんなら剣を納める鞘だって武器として使える。


「だが、それだと槍や斧だって同じじゃないか?」

「駄目だ!槍は扱えるようになるまで剣よりも掛かるし、斧は重くて融通が利かん!」


 言っている事はよく分からないが、言いたい事は分かった。確かに重量があり大振りになる斧と、多少の手先の器用さが問われる槍と比べたら、剣の方が扱いやすいと感じる。

 戦い方の基本を学ぶ時、真っ先に持つのが剣だとも想像出来る。個人差はあれど、それだけ剣は広く使われていると思う。


「私は昔から剣士になりたいと思っていた。剣士となり、沢山のヒトを助ける、守る、そして戦いたいと思った!剣にはそれだけの可能性がある!だから私は剣を持つ!」


 大雑把に言ったが、セヴァティアの言った言葉には目が眩むほどの真っ直ぐさが感じられた。そしてそれはあくまでも理想であり、まるで現実身の無い夢物語に感じた。

 ソレがセヴァティアという人物から発せられただけで、こんなにも重く感じる。少なくとも生半可な考えで剣術を扱っては来ていないのだと、先程の一瞬だけの打ち合いで十分理解した。


「しかし、剣術と言いながら使ったのが小枝って、間違ってないか?」

「何の!この世のあらゆるものは全て剣に等しい!だからこの枝も、剣だと思えば剣なのだ!」


 無茶苦茶だ。しかし、その武器だと思い込んで使われた枝にオレは敗北したから、何も言えなかった。

 だからこそ、オレは真剣にセヴァティアの稽古を受ける事を決めた。あんな無茶苦茶な事を言いつつも、ちゃんと強いアイツに勝とうと思った。でなければアイツには何も言い返せない。

 アイツの動きを見て、真似て、技を盗む。そうしようと思った。


「だが諦めた。」

「いやむりだったんかい!」


 ファイパの裏拳が飛んできたが気にしない。技を盗もうとして諦めたのには理由があった。


「絶対に出来ないからだよ。」

「えぇ!?シュロって結構手先器用だし、強いから出来ると思うけど。」

「そういう次元の話じゃねぇ。」


 まず一つ、木の枝の先に沢山花を咲かせる木があるとする。その枝に咲く花の花弁が一枚落ちてきたとして、その落ちる花弁が地面に付くまでに花弁を剣で斬る。そして落ちて来る花弁全てを同じように地面の落ちる前に斬る。ただそれだけの、そして高等な技がまず一つ目。


「待って待って!…はなびら全部?」

「そうだ。」

「いや、風とかふいて一度にたくさん落ちて来ることあるじゃん。」

「それも全部だ。」

「…ぜんぜん落ちて来ない時は?」

「落ちてくるまで待つ。セヴァティア曰く、落ちてくるまで待つのも修行の一環らしい。」

「うわあ。」

「ちなみに、木一本に咲いた花を全て斬るまで終われない。」

「うわあ。」


 思わぬセヴァティアによる剣術の修行内容に、ファイパが同じ言葉しか言わなくなった。それは仕方ない。

 一つでこれなのだから他を聞いたら多分正気を保てないだろう。だから話はここで終わりにした。正直オレがこれ以上思い出したくないだけだが。

 はっきり言って、そんな修行に一般人が付き合ったら確実にぶっ倒れるに決まっている。多少保っても小さな花弁を斬るのに全神経をすり減らし、終わる頃に精神を保てているか不安だ。


「実はオレ以外にセヴァティアの修行を受けたヤツがいてな。聞いた話では、ソイツも技をそのまま身に着ける事を断念し、代わりに常人でも扱える様技を改変して、今では剣術の先生を務めているらしい。」

「…そのヒト、すっごいがんばったんだね。」

「…あぁ。」


 生まれて来る時代…いや、世界を間違えたとまで言われる剣術の師範にして今も剣術を極めようとしている自称探究者。そんなヤツと対等になれるヤツは果たしているのだろうかとオレはずっと思っている。

 そして現在、オレとの打ち合いでセヴァティアが使う武器は食器フォークにまで格上げされた。

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