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収穫祭のオバケ

 まっくら道を歩くなら、決して道からはずれるな。

 お化けがはぐれたお前を捕まえちまうぞ。

 まっくら道を進むなら、決してあかりを手放すな。

 お化けがお前を捕らえて食っちまうぞ。

 今日はたのしい祭りの夜。決してヒトリで迷子になるな。

 今夜は嬉しい祭りの日。仲間と輪になり一緒に踊ろう。

 夜明けの前に、夜に取り残される前に眠りにつこう。



 風が一際冷たくなり、空は澄んで日が高くなってきた季節。その頃になると草木は青色から赤、黄色と変わっていき、草を踏んだ時に聞こえる音はより一層乾いた音を響かせた。

 『枯れの節』は植物が枯れ始め、見た目には寂しげな雰囲気になるが、それだけではない。この時期は実りが多く、野菜も多く熟して収穫時期を迎えるものも多い。

 この時期を過ぎれば今度は『凍えの節』が訪れる。だからその前に実りを収穫し食糧を貯え、年を越す準備をしなくてはいけない。だがその前に、ちょっとした催しを行う。

 所謂『収穫祭』と呼ばれるソレは、特に自然の豊かなこの西の土地では盛んで、皆準備に余念が無い取り込んでいる。一年の仕事を要約一段落させられた事もあり、祭りと言うよりは宴とも言える。


 西の土地の守り、土地守のカナイが住まう森の近く、入り口前に建つ一見の民家。その中で妖精種、狩人族であるオレは今収穫仕立てのデカいカボチャと格闘していた。っと言っても、単に中身をくり抜く作業をしているだけだ。大き目のさじでカボチャの身を削り、削った身をこれまた大きい皿に取り分ける様にして入れていく。

 物が大きいだけに、この作業をかれこれ何十分とやっており、普段から鍛えているから疲れはしないが飽きて来た。後カボチャ臭い。


「ほれほれシュロ!日が沈む前に終えなくてはいけないんだからな!休む暇は無いぞ?」

「言っても、まだ時間あんだろ。急かすなよ、疲れる。」


 カボチャと格闘するオレを急かす様に、土地守のカナイがキツネ姿でオレの背中を叩く。痛くないが気が散るし腹立つ。そもそもこのキツネ、ヒトにあれこれ言うだけで何もしてなくないか?


「ちゃんと仕事しているぞ?ついさっきまで祭り会場の飾りつけを確認したり、野菜の状態を見たりと忙しくしていたぞ。」


 それ、どれもただ見ているだけではないか?言ってもまたあれこれ言ってはぐらかすだろうから諦めた。それにしても、なんで毎年オレはカボチャの中身をくり抜いているんだ?このままでは一年中カボチャの臭いを背負って生活する羽目になりそうだ。

 そんなこんなで、要約カボチャの中身を空にした。中身は後で料理に使うとして、中身の無くなったカボチャは穴を開けてランタンにする。しかし、オレが両手で持つと顔が完全に隠れる程の大きさだ。こんな大きいのをランタンにする必要があるのだろうか?


「祭りのランタンは大きい方が良い!今年も誰の、どのランタン南瓜が大きいが競うのだからな!これで積年の屈辱を晴らしてやるぞー!」


 怪しい笑みを浮かべ、私怨らしい事を呟いているカナイを横目にオレはランタンに穴を開ける作業に取り掛かる。

 穴、と言うよりは完全に顔だ。ランタンに穴で顔を作っていく様なものだ。しかし、ランタンの穴で顔を掘るとは、随分とふざけたものを用意するものだ。カナイが言うには、『収穫祭』にイタズラしに来る『お化け』を模したものだとか。変なお化けがいるものだ。

 溜息を吐きつつカボチャ開けた顔の穴を確認する為にカボチャを正面に持ち上げて見た。すると、誰かが急に下からカボチャに顔を入れて此方と目が合った。驚いてカボチャを落としそうになったが何とか耐えて、カボチャに頭を突っ込んで来た当人を叱った。


「アサ、危ねぇだろ。ヘタしたらカボチャが頭に当たって痛くなってたぞ?」


 祭りの準備を手伝っていたアサガオ。やる事が無くなった後は外で遊んで祭りまでの時間を潰していたが、オレが何をしているのか気になってオレの所に来たらしい。

 オレの言った事を聞いて、アサガオが頭を押さえて目をつぶって嫌そうな表情になった。今は大丈夫だって言ったらすぐに立ち直ってまたカボチャに開けた穴を覗いて遊びだした。

 オレから見ても大きいカボチャだから、アサガオと比べたら頭の大きな怪物状態だ。今カボチャの中は空になっているとは言え、オレが持っていないとアサガオが両手で持ってもフラ付くぞ。

 アサガオからカボチャを取り戻し、カボチャをランタンにする作業に移った。そしてアサガオはカナイの方へ行き、遊び相手になってもらっていた。相変わらずカナイはアサガオ相手だと甘いな。


「そうだなぁ?収穫祭楽しみだなぁ。アサガオは同い年の友達がいないからなぁ。祭りの日位存分に楽しまないとなぁ。」


 アサガオはいつも存分に遊んでいる気がするのだが?それとして、アサガオに同い年の友達がいないというのは残念ながら事実だ。

 この土地のむらには若いヒトがほとんどおらず、子どもはいないも同然だ。さすがに子どもが住むにはここは何も無いからなのか、年寄りや中年のヒトが集まったむらという状態になっている。


「まっくらな道を歩くなら、決して道をはじれるなぁ。」


 カナイが何かを歌い出したと思ったら、この時期になるとむらで誰か彼か歌うのを聞いたヤツだ。傍で聞いていたアサガオも一緒になって歌い出した。歌を歌い出す程はしゃいでいるのは分かるが、毎年同じ日に同じ歌を聞いていると変な気分になる。


「良いだろ歌う位。それならシュロも一緒に歌…わなくて良いな。お前歌うの下手とまでは言わないが、何か変に聞こえるから。」


 勝手に失礼な事を言われた。確かに歌うのは得意じゃないが、そんな言い方するほどかよ。

 祭りの準備中や当日となると皆こんな調子が一日中続くから、オレはまともに相手するのが疲れる。明るいのは良いが周囲にあまり迷惑掛けないでほしい。


「…今年こそ…れば良いがな。」


 カナイが何かを呟くのが聞こえたが、カボチャを相手するのに疲れていたから何も聞かないでいた。


     2


 夕方。すっかり日が暮れるが早くなり、『照りの節』に比べて辺りが墨を塗りたくった様に暗い。そんな外の風景は、むらに入ればまた明るい光景に戻った。

 灯した蝋燭の火がむらでのまつりの会場を照らし、本来であれば食事を済ませてら眠る時間。皆まだ寝る準備さえせずに大きな卓の上に並んだご馳走にありつく。

 森で採れた木の実やキノコ。畑で採れた枯れの節に採れる野菜の料理。こうして見ると『枯れの節』という呼び名に反していて豊富な食糧を目にし、まだ口にしていないのに腹がいっぱいになった気になる。

 酒ももちろん大量に用意されている。ブドウやリンゴなどで作られた果実酒は香りが良く、子どもが口にしてはいけないという決まりがウソに感じられる。だが当然アサガオには一切口に付けさせない。

 妖精種であるオレはくちにしても良いハズだが、以前口にしょうとした所をカナイに止められ、子どもは飲んでは駄目だと咎められた。大丈夫だと散々言ったハズなのに、解せない。カナイらはオレを何時まで子ども扱いする気なのか。


 そうして時間が過ぎていく。盛りつけられた料理も減っていき、残っているのは食後に食べる菓子系の料理だ。むらの大人共は酒盛りを始めている。そうなると子どもであるアサガオは一人蚊帳の外になる。そろそろ家に帰るかと思い、卓の隅でカボチャのパイを突いているハズのアサガオの姿を探した。しかし、何故かいたハズのアサガオがいない。辺りを見渡しても影も形も見当たらない。一体どこに行ったのだろうか?


 ここからは、後でアサガオから聞いた話となる。

 オレが思っていた通り、大人共は酒盛りをして盛り上がっている一方で、アサガオは一人野菜を使った菓子を少しずつ突いて食べていた。胃袋が然程大きくないアサガオは小食で、今回もオレが小さく取り分けておいた食事を口にしていたらしい。

 フと誰かが離れた場所、ヒトとヒト間からアサガオを見ているのに気付いた。

 ソレは小柄なアサガオを比べてほんの少し頭が出る位の背丈をした子どもで、頭に白い布を被り顔が見えず、服は子どもが着るであろう簡素な服ではあったが所々土で汚れていた。

 その子どもはアサガオが自分を見ているのに気付くと、走ってアサガオに近寄って顔が見えないハズなのに、ジッと見られているのが分かったと言う。

 一方のアサガオはと言うと、何を喋れば良いか分からず体をくねらせて黙っていたと言う。

 実はアサガオは人見知りな性格で、大人相手なら臆することなく接する事が出来るが、むらや近隣に自分と同い年の子どもがいない為に慣れておらず、いざ年の近いヒトと出くわすと今説明いた通りになってしまう。

 そんなまどろっこい状態になってしまったアサガオだったが、相手の子どもがそんなアサガオを気にせず、むしろ手を差し出してきたのだとか。アサガオはソレを手を繋ぐ仕草と受け取り、躊躇ちゅうちょせず手を取った。すると、子どもはアサガオの手を握り、そのまま引っ張って行きどこかへと連れて行ったと言う。

 そんな強制的な状況になったが、アサガオは振り払う事もせず、その子どもに着いて行った。


 話はオレの視点に戻る。

 アサガオの姿が見当たらず、オレは焦る気持ちでアサガオを探し、誰かアサガオを見ていないかを聞いて回った。どいつも酒が回ってまともに話せない奴らばかりだったが、何とかまともに話せて加えてアサガオを見たというヤツを見つけた。


「あら?アサガオちゃん、あなたと一緒に行ったんじゃなかったの?何か引っ張られる様にしてあっちの森の方へ歩いて行ったのを、後姿だったけど見たのよ。

 てっきりあなたが手を引いて連れ帰ってるのかと思ったけど。」


 その話を最後まで聞く事も無くオレはアサガオが向かったと聞いた方へと走って向かった。照明具ランプの明かりで足元を照らしつつアサガオの名前を叫んで呼んだ。

 そしてオレの呼ぶ声にすぐに返事が返って来た。声のした方へと再び走り、そして追いついた。

 オレの姿をアサガオも見つけたらしく、オレの方にむって手を振りオレの名を大きな声で呼んでいた。その隣、アサガオと手を繋いヤツも一緒にいる。

 その子どもをオレは見た事が無い。少なくともむらにはアサガオと同い年の子どもはいないハズ。観光でむらの祭りに参加したヤツという可能性も考えたが、そんな子どもが親とはぐれてこんな森の中に来る理由も無い。

 オレはアサガオの近くへと駆け寄り、そして隣に立つ子どもを見た。

 近くで見ても子どもの姿はやはり見た事が無く、服も汚れていて祭りに参加しているという出で立ちにも見えない。そもそも頭に白い布を被った状態でよくこんな暗い道を歩いたなと思った。

 すると子どもは、尚もアサガオの手を握りどこかへと引っ張って連れて行こうとしていた。現時点でオレが手を握られていない反対のアサガオの手を握っている為、アサガオを引っ張る事すら出来ない状態だ。

 子どもはオレの方を見て、何も言わずにいるがオレにアサガオの手を離して欲しいと言いたい感じが伝わる。だからオレは子どもの方へと向き直って言った。


「悪いが、アサガオを一緒に行かせるワケにはいかない。

 そんな暗い道を歩いていたら、転んでコイツ痛くて絶対泣く事になるからな。一緒に遊びてぇんなら、こっちの会場で遊べ。」


 言ったのを聞いたのか、子どもは少し考える素振りを見せた後、頷き了承した。


「よしっ後少ししたら大人共が余興を始めるらしいぞ。今回は前回みたいな恥ずかしい事にはならないって息巻いてたからな。期待しないで観に行くぞ。」


 そう言い、アサガオの手を握った手と反対に手を子どもに差し出した。子どもは怖じ気づいた様子を見せたが、ゆっくりと手をオレの手に近づけ、そして手を握ってきた。

 オレはアサガオと一緒に子どもの手を緩く引っ張り、一緒に並んでむらへと歩いて戻った。


 むらに戻ると丁度余興が始まる所だったらしく、戻って来たオレらの姿を見た大人が手招きをして手製の小さな舞台の前へと誘導された。

 大人しく座り、何かが始まるのを待つ。するといよいよ始まるらしく、周囲が静かになった。更に待つと聞こえて来る音楽に、何かが歩み出て来る音が聞こえる。何が来るのかと見ていたら、出て来たのはカナイだった。それも久々にヒトの姿になっていた。着ている服もいつもの動く事に特化した革製の上着や丈夫な素材の服ではなく、鮮やかで装飾のされた舞台衣装を着ている。

 一体何を始めるのかアサガオと子どもと一緒に見守っていると、舞台に立ったカナイが突然歌い出した。普段聞くカナイの声とは違い、甲高く良く通る声で驚く。後結構歌ウマい。そうしてカナイが歌っていると、舞台横からヒトが次々出て来て踊りながらカナイの一方後ろに立っていく。その踊りが足を前に向かって蹴る様な陽気な足取りだったり、回転してカナイと一緒に歌ったりして、大層賑やかで華やかな演劇もどきが披露された。

 観客共にアサガオ、子どもらは楽しそうにして観ていた。ただ一人オレは虚無の表情で舞台を眺めていた。一体何を見せられているのか。ちなみに歌の内容は草花を愛でる妖精の王を讃える、というものだ。なんでその選択?

 その後も農家のヒトが集まって合唱をしたり、魔法を使わず体の一部を消す手品なるものを見たり、オレから見ればどれも子ども並の遊戯であるソレでも、むらの住民もアサガオも、そしてあの子どもも皆盛り上がって楽しそうにしていた。

 あの子供は布を被っているから、本当に楽しんでいるのか表情が見えず判断しづらいが、披露が続く舞台から目を離さず観ていたから、きっと楽しんでいるのだろう。


 そして祭りは終わり、片付けは明日の朝やるとしてその場での解散となった。そういや、子どもは結局どこから来たのだろうか。親らしき者も現れず、まだアサガオと手を繋いでその場にいる状態だ。気が進まないがカナイにでも相談するかと思い呼びに行こうとしたその時、当然子どもがどこかを指さした。

 指をさした方を見ると、森の木々の間から何かが光っているのが見えた。それはオレがアサガオを追いかける時に持っていた照明具ランプの光に似ていた。

 その光の方から声が聞こえてきた。それは誰かを呼んでいる声に聞こえ、それに反応して子どもが手を振った。どうやら光の正体は子どもの親らしい。どういう経緯かは分からないが、子どもを迎えに来たのだろう。

 ようやく子どもの親も見つかり、子どもとの別れが訪れた。アサガオと子どもはゆっくりと手は離し、手を離した子どもはアサガオを見つめつつも、光と声の方へと歩いて行く。ところでアサガオが子供に話し掛けた。一体何があったのかと思うと、アサガオが子どもに何かを差し出した。ソレはアメだった。

 そのアメはむらの住民からのもらい物で、アサガオはソレを嬉しそうに受け取り、後の楽しみとして取っといておいたハズのものだ。ソレを渡すという事は、アサガオにとってその子どもは、それ程に大きな存在となったのだろう。

 アサガオが子どもにまた会おうと言った。それは多分叶う方が稀な方の約束だろう。そんな淡い約束の言葉を子どもはジッと眺めていた。そして返事とばかりにアメを受け取り、何かをアサガオに向かって呟いた。その聞こえた言葉を聞いたアサガオは満足そうにして笑って受け止めた。

 互いに手を大きく振り合い、距離が離れていっても手を振る事を止めず、徐々に夜の闇に溶けていき、子どもの迎えである光も消えて見えなくなった。

 子どもの姿は見えなくなり、アサガオは消えた方をジッと見ていた。オレはアサガオが泣くかと思い、覗き込んで見たが泣いていない事に気付く。寂しげ、という感じでも無くただぼうと見つめている感じだった。ソレがどんな心境かは本人にしか知りえない。だからオレは気が済むまでアサガオの傍に立った。


     3


 後日、カナイからとある話を聞かされた。

 それはむらが出来たばかりの大昔の話。そのむらで土地を開拓していき、漸く畑が作れるほどにまで発展していったある日、むらの皆で畑の豊作を祈り祭りが行われた。それが収穫祭の発端だとか。

 それから月日が経ち、畑の順調に実りをつけていき、その年も祭りは行われた。

 そのむらの離れた場所に住むある三人の親子がいた。土地の関係からか、その離れた場所で畑を作り生活していたと言う。祭りの当日、子どもが熱を出してしまった。祭りには子どもの両親だけが行く事になったが、子どもがどうしても行きたいと言って聞かなかったらしい。

 当時からむらには他に子どももおらず、遊び相手のいない子どもにとって、祭りは外からも客が訪れ、その中には子どももおり、唯一友達を作り遊べる機会だったからだ。

 しかし、熱もありまともに立てない子どもに言い聞かせ、両親は家に子どもを寝かせて祭りに出かけた。祭りはむらでの収入源でもあり、暮らす為に畑で作った野菜を出店する為に大人は参加していた。子どもの両親も、暮らして行く為に祭りに出たという事だ。

 しかし、結局子どもは言いつけを守らず、家を抜け出して祭りが行われているむらへと向かった。辺りは暗く、山道だった為に足元はおぼつかない。結果として子どもは足を滑らせ、打ちどことが悪くそのまま亡くなってしまった。

 子どもの遺体が発見されたのは、日が出た後の事だった。

 子どもが居なくなった事に気付いた両親は直ぐでも探そうとしたが、暗くて危ないからと他のむらの住民に止められ、夜明け後直ぐに探しに行き、残念な結果となった。

 子どもの両親は悔やみ、その事がむら全体にも知られ、その両親の心情を計り次の年から祭りは執り行われなくなった。

 祭りが再び執り行われるようになったのは、カナイが土地守としてこのむらに訪れた年だ。

 農業で盛んなむらであるのに、祭りらしいことを行わない事に疑問を抱き、むらの住民に事情を聞いて放ったカナイの言葉はこうだと言う。


「それなら尚の事、祭りを行うべきだ!祭りに行けなかった子どもの無念!子どもを失った親の悲しみ!それらを払拭させるには祭りをするのが一番!」


 と力説したという。そのおかげで祭りは再開し、今日こんにちまで祭りを開催出来たという経緯だったらしい。

 こうしてむらとしては活気付き、祭りを再開出来て良かったらしいのだが、カナイには懸念点があったらしい。


「祭りを再開してからしばらくしてな、むらの中で微かにだが不死種の気配がする様になったんだよ。」


 不死種。動く屍体だったり幽霊と分類される種族。土地守は特定の範囲までのしゅぞくを特定出来る力があるが、何故か祭りの日にのみその気配がするのだと言う。調べれば一目瞭然。例の事故で亡くなった子どもの霊だった。

 どうやら何か未練があり、祭りが開かれる度に出没しているらしく、カナイは祭りが開かれるだけでは子どもの未練を払拭出来ない事にいきどおり、現在に至るのだとか。


「結局私では、あの子の未練をどうする事も出来ないままになってしまってな。どうしたものかと悩んでいたが、そうか。あの子、サイゴは帰って行ったのか。」


 アサガオをどこかへ連れて行こうとし、サイゴはどこかへと帰って行った謎の子どもの存在。それに何か心当たりがありそうなカナイに事情を話したのは正解だった様だ。

 祭りの前から何か考えていたのは、あの子どもの事についてだったらしい。確かにあの子どもは一目見た時から『生きている気配』がしなかったからな。多少でも勘付く事が出来たから、何かあれば直ぐにでも『対処』していたが、何も無く終わった様だ。

 そういえば、祭りの度に歌われるあの歌。もしかしてその子どもが関係しているのか?


「あっさすがに気付くか。あの子の事故の事があってな。今度同じような事が起きぬようにと私が作ったんだ。」


 まさかのカナイが作った歌だった。あの舞台での奇妙な催しをした張本人とは思えない。言うとカナイに引っ叩かれた。


「祭りに出る、そして南瓜で掘った顔、『お化け』とは『死』を意味する。

 祭りのめでたい日、そんな日に誰一人欠ける事無く過ごせますようにという意味を込めたんだ。おかげか祭りを再開しても誰一人怪我をする事無く過ごせている。」


 だから祭りの日が近づくと聞く様になったと。聞いて見れば解る由来だった。しかし歌や童話にして教訓を呼びかけるのはよくある事ではあるな。

 しかし、あの子どもの未練とは何だったのか?カナイの話を聞く限りでは、そこまで害が起こしそうな感じはしなかった。しかし、子ども故に無邪気で何をするか分からないというものだ。もしかしたら、アサガオを暗い森の奥に連れて行こうとしたのは、『自分と同じ存在』にする為?


「…イヤ、ソレは無いな。」


 オレとカナイの声がかぶった。どうやらオレとカナイは同じ事を考え、同じ結論に至った様だ。先にオレが話す様促された。


「アサガオは確かに子どもで、経験も不足していて知っている事も少ない。だが、だからこそアイツは危険なモノを察知する事が出来る。」


 いつだったか、関所の手伝いをしていた時の事。いつも通り着いて来たアサガオが関所を通る旅人相手ににこやかに挨拶をしている中で、何故か一人だけ頑なに挨拶しようとせず、それどころか怯えてオレの後ろに隠れてしまう程だった。

 俺から見た感想は、それ程危険な感じのしない一般的な商人という印象だったが、後になってアサガオの反応は分かった。

 ソイツは実は密猟者の一人で、後日捕まった内の一人がそのアサガオが挨拶をしなかった商人だった。アサガオの反応が珍しかったからよく覚えていた。

 こうした事が度々あった。アサガオは理性が未熟とまではいかないが、まだ本能寄りの感覚があった為に起こった事だと誰かが言った。

 アサガオにはヒトの本性を見抜く力がある、という事だ。だから、今回の事もアサガオは危険が無いと本能的に察知した結果、着いて行くという行動をしたのだろう。ソレは合っていたし、結果的に子どもは特に問題も無く帰って行った。

 一方のカナイの方の確信は、土地守として永くいるからこそのものだった。


「アサガオもあの子も幼い。だからこそ互いに相手を傷つける事はしないだろうし、何よりあの子の話をする当時のむらの住民の話では、あの子は優しい子だったと聞いた。だからこそ、アサガオに自分が遭った様な事をさせるなんてしないと思ったのさ。

 それに、その子がアサガオを連れて行こうとした方向。あそこは確か、あの子と両親が住んでいた家があった場所の跡地があるはずだ。

 あの子を知るヒトが言っていたよ。あの子は年の近い子どもがいない事を気にしていて、よく将来の夢をヒトに話していたと言う。

 友達を作って自分の家に招待したい、とな。」


 きっとその子は、家や家族が自慢だったのだろうとカナイは言う。だからこそ、アサガオを招待相手に選び、決して傷つける事はしないだろうと。

 初対面の相手をいきなり連れて行こうとしたのも、他に子どもがおらず、友達いなかったその子にとっての精一杯の行動だった。それならアサガオだって怯えもせず着いて行ってしまうだろう。

 しかもカナイが聞いた話では確か、丁度その子の年齢も今のアサガオと同じ位だったと言う。むらか昔と変わらず子どもがいない。そんな環境故に境遇も重なったその子どもとアサガオは、互いに何か惹かれあうものがあったのだろう。


「その子どもが言いつけを守らなかったのが悪いと言えるが、子どもを家に置いて出かけた両親も悪いと言える。しかし、だからと言って責められる訳でもないし、今回の事も下手をすればアサガオも怪我をしていたかもしれない。

 今後、またこういう事が起きないとも限らない。今回の件を無事に終えたかと聞かれれば、何とも言えない感じだな。」


 カナイの中では、まだ今回の件は終わっていないと捉えているらしい。しかし、オレはもう今回の様な事は起こらない。更に言えば子どもももう祭りの日に出る事は無いと思っている。それは何故だとカナイに聞かれたが、明確に理由があるというワケではないが、遠くで用済みとなったカボチャを被って遊ぶアサガオを見ていて思った事だ。


「アサが楽しそうだったから、別に問題無いんじゃねぇか?」


 傍から聞けば理由になっていないと言われそうだが、カナイは聞いて納得した様に頷き笑った。


「うん…確かにな。」


 話を終えるとオレはアサガオの方へと歩み寄り、カボチャ臭くなるし危ないとカボチャとアサガオから取り上げる作業を開始した。そんな姿をカナイはただ眺めるだけで何もしなかった。


 祭りは終わり、寒さが一層増してきた。祭りの最中でも食糧が沢山消費されたが、それでもまだまだ食糧不測の心配など無いむらでの様子に、今年の『凍えの節』で寂しい思うをする者はいないだろうと思えた。

 いくつもの植物が枯れ果てるこの時期だが、枯れずに残る植物に、植物とは違う何かが残り続け年を越す。そんな光景を来年も目にする事になると確信しつつ、今日を過ごす。


 きっと来年も、騒がしい祭りは開かれるのだろう。



「ところで、今日も南瓜料理か?さすがに飽きてきたんだが。」

「どっかの誰かが欲張ってデカいカボチャ用意したせいだからな。責任とって今日も食え。」

「ひぇーん!」

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