93 学園祭準備期間②
ある程度の写真をカメラに収めて、僕らは教室に戻ってきた。
教室の内装は順調に進んでいる。
綺麗なカーテンで教室を囲い、肌触りの良いテーブルクロスは勉強机をお洒落なテーブルに変えていた。まだ途中段階だけどいい感じに仕上がりそうだ。
「へぇ、いいじゃん。園田と五十鈴さんが持ってきてくれた道具が役に立ってるね」
内装を確認してから西木野さんは僕らの方を見る。
「あんな上質な道具、何処で手に入れたんだ?」
「…何処でしょうね」
「……どこだろう」
僕と五十鈴さんはしらばっくれる。
芸術室のことは友達にも秘密だからね。
「ふーん…別にいいけどぉ」
どこかつまらなさそうに呟く西木野さん。
「おーい、みんな~」
すると猫宮さんが教室の入口から現れた。
その足元には、猫がいる。
「今日は顔合わせとして、二匹だけ連れて来たにゃ」
二匹の猫の登場にクラスみんなから歓声が上がる。
「かわいい…」
「やっぱり猫は正義だね」
「犬派の俺でもくるものがある」
みんなは作業の手を止めて猫に癒されに行った。
「…」
僕の隣で出雲さんが猫を凝視してる。
「猫、さわりに行かないんですか?」
「………興味ない」
無理してるのがバレバレだ。
五十鈴さんグループにも混ざりたがらないし、なかなかガードが堅いな。
「にゃー」
一匹の猫は人懐っこく、クラスのみんなに撫でられながら喉を鳴らしている。
「…」
しかしもう一匹の猫はかなりそっけなく、人を避けるように僕の机の上で横になっていた。
「こっちのナコ君は人懐っこくて撫でられるのが大好きにゃ。でもあっちのシャナちゃんはお嬢様で、撫でる相手を自分で決めるタイプにゃ」
猫宮さんが連れてきた猫を解説する。
同じ猫なのにここまで性格が違うものなんだ…
「おお、猫がいるのだ」
すると今度は野田さんが段ボールを持って登場する。
「手芸部の友達から人数分の猫耳を借りてきたのだ」
もう猫耳の用意ができたのか。
うちのクラスには手芸部はいないはずなのに、野田さんって交友関係が広いんだな。
「本番で恥ずかしくならないよう、今の内から装着して慣らしておくのだ」
そう言って躊躇いなく猫耳を装着する野田さん。
小柄な女子にはよく似合う。
「私らも付けるか~」
西木野さんの後に五十鈴さんグループのみんなが続く。
「みんな可愛い!」
「木蔭ちゃんが一番似合うかも~」
「そ、そうかな…」
女子たちは和気あいあいとしていた。
「…」
「…」
「…」
けど男子たちの気は重い。
「あはは、男は可愛くないねぇ」
向こうの男子陣営が微妙な顔で猫耳を装着し、女子陣営にからかわれている。この流れになることは覚悟していたけどね。
「ほら、園田も猫耳つけな~」
西木野さんが僕に黒い猫耳を投げ渡す。
嫌だけど仕方ない…しぶしぶ猫耳を装着した。
「…あれ?似合ってんじゃん」
そしたら西木野さんは意外そうな反応を見せる。
「平凡な顔によく合うね」
「似合ってる…」
「かわいい~」
星野さんたちも褒めてくれた。
こんな賛辞、嬉しくないぞ…
「じゃあ本命の五十鈴さん、猫耳つけてみようか」
次に西木野さんは五十鈴さんに白い猫耳を渡す。
「……」
五十鈴さんは恐る恐る猫耳を装着した。
………
教室内が一気に静寂した。
これはやばいぞ、金髪碧眼の五十鈴さんに猫耳が似合いすぎる。まるでファンタジーに登場する亜人に会ったような、なんとも現実味のない神秘的な美少女が完成してしまった。
クラスのみんなが五十鈴さんに見惚れ、五分くらい教室内の時間が止まっていただろうか。
「…五十鈴さんの装着は本番だけでいいんじゃないですか?」
まず僕が我に返った。
「みんなの作業の手を止めてしまいますし」
「そうだな…まさかここまでの威力とは思ってなかった」
西木野さんも我に返って五十鈴さんの猫耳を取り外す。
「……?」
五十鈴さんは何が起きたのか分かっていない様子だ。
これが天然美少女…凄まじい。