91 芸術室の可能性
猫カフェ案は総務委員の審査が通り、晴れてうちのクラスの出し物として決定した。
「いよいよですね」
「楽しみ……!」
今は放課後で場所は芸術室。
本格的な準備期間に入ると放課後はずっと忙しくなるから、ここでの作戦会議は今日で最後になるだろう。次に集まる時は学園祭が終わった後だ。
「僕らが総務委員として任されたのは写真撮影ですね。西木野さんと一緒に準備中の風景とか、本番の風景を写真に収めましょう」
「うん、頑張る……!」
ここは人目がないから、五十鈴さんは浮かれた様子だ。
「クラスの出し物の手伝いは免除されてますけど、手が空いたら手伝いましょう」
「……」
そう言うと五十鈴さんは急に暗くなる。
「どうかしました?」
「手伝い……できるかな」
やっぱりまだクラスメイトとの距離感に不安を覚えてるみたいだ。
「きっと何とかなりますよ」
僕はそれほど不安に思ってない。
今の五十鈴さんとクラスメイトの雰囲気からして、何だかんだ自然に溶け込めるんじゃないかな。
「……あ」
すると五十鈴さんが徐に立ち上がる。
「前、整理した時に見つけたの……教室の飾り付けに使えるかな」
五十鈴さんは芸術室に積まれた道具の山から、何かを引っ張り出した。それはカーテンのようなとても綺麗な布だ。
「おお、いいですね」
この布で教室の壁を囲えば、部屋の雰囲気をガラリと変えることが出来るぞ。
「先生、ここにある物って学園祭に使ってもいいんですか?」
念のため奥で仕事をしている杉咲先生に確認を取る。
「いいですよ~ここに置いてある物は私の私物みたいなものですから」
あっさり了承を得ることができた。
この芸術室には以前の学園祭で使われたであろう備品や廃材とかも置いてあるから、うちの出し物に再利用すれば予算の節約にもなる。そうとなると…学園祭でも芸術室にはお世話になりそうだ。
「他にも学園祭に使えそうな資材がありそうですね」
「探してみよう……!」
僕と五十鈴さんは学園祭の出し物に使えそうな物がないか探してみることにした。
※
「園田くん……」
しばらく芸術室を漁っていると、五十鈴さんに呼ばれた。
「いいの見つかりました?」
「これ、すごいよ……」
五十鈴さんが見つけたのは一つの箱に収められたメイド服だった。
「すごい綺麗ですね」
「うん……」
これはコスプレなんかで使われる安物じゃないぞ。素材といい、繊細な装飾といい、素人の僕から見ても一級品であることが分かる。
「あら懐かしい。それは八年前に一人の生徒が手掛けた作品ね」
先生がメイド服を見て懐かしんでいる。
これを学生が一人で作ったのか?
きっとその人は服作りの天才だったに違いない。
「この服、使ってもいいですか……?」
そしたら五十鈴さんから驚きの一言が飛び出す。
「もういらないって置いてったものだから、好きに使っていいわよ」
杉咲先生から使用許可をもらい、五十鈴さんは箱からメイド服を取り出す。偶然にも服の寸法は五十鈴さんの身長にピッタリ合いそうだ。
「五十鈴さん、着るんですか?」
「まだわからない……」
「そうですか…」
五十鈴さんがメイド服を着て、さらに猫耳なんて付けたらどうなってしまうのか。
…がんばれ五十鈴さん。