90 出し物決め
こうしてクラスの出し物決めが始まった。
進行は学園祭実行委員の池永くんと野田さんが仕切る。
「それではクラスの出し物を決めたいと思います」
「まずは参加できる人数を確認するのだ」
最初はクラスの出し物に参加できる人数の確認だ。
「あの…私はライブに出ることになったので…」
「俺はアニメ制作部の声優役を担うことになった」
「僕も新聞部の取材で多忙になりそう」
やっぱりうちのクラスにも部活で仕事を抱えてる人がたくさんいて、半数以上の人が手を上げた。つまりクラスの出し物に集中できる人は半数以下となる。
「私も運動部のゲストに誘われまくったから、こっちにはほとんど来れないかも」
昴まで手を上げていた。
スポーツの天才は引く手あまただろうな。
「あ、そうだ。私らクラス委員は総務委員の仕事があるから、当日はあまり力になれないよ」
そこで西木野さんも手を上げる。
「ということは五十鈴さん抜きかぁ…」
「大きな戦力を失うのだ」
池永くんと野田さんはあからさまに落ち込んでいた。
それも当然、このクラス最大の強みは超絶美少女の五十鈴さんだ。その長所をどう生かすかで出し物を決めた方が盛り上がるだろう。
「ごめんなさい……」
二人の反応を見て申し訳なさそうに俯く五十鈴さん。
「だ、大丈夫ですよ!?」
「そうそう!忙しいのはみんな同じなのだ!」
池永くんと野田さんは慌てて気遣う。
五十鈴さんに頭を下げられたら、もう何も言えないよね。
「五十鈴さんはうちのクラスの花だからな」
「ネームバリューだけで客を集める…」
「それだけで貢献は十分だよね」
クラスメイトの会話が聞こえた。
なんか…みんなの五十鈴さんを見る目が変わったような気がする。
夏祭りで一緒に花火を見たり、体育祭で頑張っている姿を見たからかな。前期みたいに怖いお嬢様みたいな扱いではなくなっている。
「じゃあ早速、出し物を決めようか」
「じゃんじゃん提案してね~」
池永くんと野田さんが話し合いを次のステップに移行させる。
少人数でやれる出し物…何がいいかな。
「香水喫茶!」
「幕末喫茶!」
「筋肉喫茶!」
「どれもニッチすぎだ!」
「もっと万人受けするものを頼むのだ…」
僕は無言で傍観してるけど、実行委員の二人は大変そうだ。
個性の強い天才が集まるクラスで出し物を開いても、一貫性が無くて内容がちぐはぐになりやすい。クラスの出し物が強制ではない理由はこれか…やっぱり無理なのかな。
「猫カフェなんてどうかにゃ?」
その時、ある案が教室内を沈黙させた。
いつも陽気な猫宮さんの案だ。
「人員が少ないのなら猫の手を借りればいいのにゃ」
「でもどうやって猫を集めるのだ?」
「うちの家族には猫がたくさんいるにゃ。人に慣れてるから、報酬にカリカリが貰えればみんな協力してくれるにゃ」
「…なるほど」
野田さんは予想外の案に面食らっていたが、悪くなさそうな反応を見せる。
「いいんじゃないか?」
「猫、可愛いからな」
「むしろ猫と触れ合ってみたい」
みんなも賛成的だ。
猫カフェは猫宮さんらしいかなり個性的な案だけど、猫の可愛いは万国にも共通する揺るがない事実。猫が嫌いな人は少数派だろうし、アレルギーでもない限り否定する人はいない。
「それでみんな猫耳をつけてくれれば完璧にゃ!」
さらに案を出し続ける猫宮さん。
「みんなバラバラで活動しても、猫耳をつけていれば宣伝活動になるにゃ」
なるほど…部活の出し物を優先してクラスの手伝いが出来ないみんなも、猫の装いで活動すれば宣伝役としてクラスに貢献できる。実に理に適った作戦だ。
「それは…ちょっと恥ずかしいね」
「舞台の上とかでも付けたままなの…?」
「俺ら男子もつけるのかよ…」
猫耳を付ける案だけはみんな微妙な反応だ。
そりゃそうだ…僕だって恥ずかしいし。
「もちろん五十鈴さんも猫耳つけてもらうにゃ~」
猫宮さんの一言で再び教室が静まり返る。
五十鈴さんの猫耳姿…
(五十鈴さんの猫耳姿…)
(五十鈴さんの猫耳姿…)
(五十鈴さんの猫耳姿…)
…どうしてだろう。
今、クラス全員の意思が一つになった気がする。
「よし、猫宮さんの案を採用しよう」
「じゃあうちのクラスの出し物は猫カフェでいいかな?」
池永くんと野田さんが最終確認をするとクラス全員が同意した。
結局、決め手になるのは五十鈴さんの存在だった。