89 学園祭とは
今日は生徒会と全学年のクラス委員が集まって学園祭の会議が行われた。
前々から言ってるけど、華岡学園の学園祭はとてつもないほど大掛かりに行われる。その注目度はオリンピック並みと言っても過言ではない。
アイドルの天才。
歌手の天才。
配信者の天才。
漫才の天才。
将棋の天才。
上記の既に世間で活躍している天才だけでなく、他にも数多くの天才たちが若い力と才能を駆使して五日間もお祭りを開くのだから世間が注目しないはずがない。毎年テレビで特定の出し物を取り上げる番組はかなりの視聴者数を稼げるんだとか。
出し物は部活、クラブ、研究会などの課外活動をするグループが主役に出店される。個人で出店することも許されているけど、しっかり計画しないと審査に通らないから大変だ。もちろんクラス内で出店することも可能だが、それは意外なことに強制ではない。
そして僕らクラス委員は学園祭の時だけ“総務委員”となり、学園祭全体のサポートに回る。
総務委員は出し物の審査、イベントでの裏方サポート、予算計算、学園祭のパンフレット作り、写真撮影などなど雑務は多い。忙しそうに見えるけど人数は多いし、先生と上級生が手慣れているから僕らはそこまで忙しくはならない。
今日の会議は学園祭の禁則事項やら、衛生面での注意などの悦明を受けている。学園祭の規模が大きいだけにその辺りは厳重だ。
因みに今日の会議に五十鈴さんは来ていない。
最近は友達も増えて学校という環境に馴れてきたけど、流石に上級生も集まる会議に赴くのはまだ無理そうだった。
後で会議の内容を五十鈴さんに伝えないと。
※
会議が終わって僕は教室に戻ろうとする。
「ねえ、きみが一年の園田くんだよね」
その時、誰かに呼び止められた。
「はい?」
相手は面識のない高等部の先輩だった。
なんの用だろう…
「学園祭でファッションコンテストやるんだけど、よければ五十鈴さんも誘ってみてくれない?」
その人に便乗して、他の先輩方も集まり始める。
「うちでやる演劇の役者に是非とも五十鈴さんを出演させたい!」
「自分は写真部なんだけど、五十鈴さんをモデルに何枚か撮りたいんだ!」
「手芸部ですが、是非とも五十鈴さんに着せたい服が…!」
凄い勢いで先輩たちが詰め寄ってくる。
「ええっと…」
それも同然のことだ。
学園祭は別学年、別クラスの生徒にとって五十鈴さんと関われる数少ないチャンスだ。しかもあの美貌は催しを盛り上げるにもってこいの人材、出し物に全力な先輩方は黙ってはいられない。
でも五十鈴さんに上級生の依頼をこなすのは酷だ。
どう断ればいいのか…
「はいはい先輩方、そこまでですよ」
そこで間に入ってくれたのが、同じクラス委員の西木野さんだ。
「その件は後日話し合うことにしましょう。五十鈴さん本人の意思が第一ですからね」
大勢の先輩を前にしても、西木野さんは毅然とした態度でこの場を収めてくれた。
「助かりました、西木野さん」
「いやー五十鈴さんのジャーマネは大変だな」
「…従者でもマネージャーでもないのですが」
それにしても…ほんとに五十鈴さんって学校中の有名人なんだな。先輩たちが本人に直接依頼しに行かないのは、まだ日本語が不自由の怖いお嬢様だと誤解しているからだ。
その誤解も今の五十鈴さんには好都合なのかも。
「さぁ気を取り直して、教室に戻ったらクラスの出し物を決めないとね」
西木野さんは大きく伸びをしてから僕を見る。
「そうですね…課外活動を優先する人もいるでしょうし、話し合いは長引きそうです」
これから教室に戻ってクラスの出し物を決める。
強制ではないと言われてるけど、うちのクラスの意向は可能であれば出し物を開きたいだ。すでに学園祭実行委員を引き受けてくれた池永くんと野田さんが積極的に動いてくれてる。
僕らは総務委員として情報を共有しつつ二人の活躍を見守ろう。