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88 五十鈴さんの学校生活➂




 全ての授業が終わり、放課後になった。


 ここで五十鈴さんには二つの選択肢がある。

 それは友達と帰宅するか、園田くんと芸術室へ行くかだ。


「それじゃあ帰ろうか」

「やっと終わったぁ」

「おつかれ…」

「かえろかえろ~」


 さっそく五十鈴さんの席に西木野さん、星野さん、木蔭さん、朝香さんが集まる。


「うん……」


 頻度としては友達と帰ることの方が多い。

 登校する時は別々でも帰宅する時はいつもみんなと一緒だ。クラス委員長や各自の用事でバラバラに帰宅する時のみ、園田くんと芸術室で部活動をするようにしていた。


 帰る方向が違うので一緒なのは校門までになるが、華岡学園の敷地は無駄に広いので話す時間は充分。話題によっては寄り道で買い物や食事をすることもある。


「そういえば噂だけど…学園の敷地内に猫が侵入したらしいよ…」


 校舎を出たタイミングで木蔭さんがそう話す。


「へぇ~占い通りなら、そろそろ遭遇するのかな」


 星野さんはまだ出番のない猫缶を鞄から取り出す。


「猫ねぇ…ほんとに現れるのかな」


「楽しみだね~」


 西木野さんと朝香さんは周囲に目を配る。

 校舎を出ると広い中庭を通り、自然豊かな一本道を進んだ先に校門がある。もし動物と出くわすなら人気のないこの一本道だろう。


「……?」


 すると五十鈴さんは遠くの茂みが揺れたことに気が付く。


「あそこ……何かいる」


「え、ほんと?」


 五十鈴さんが指差す方向にみんなが向かう。

 まずは西木野さんが先陣を切って、茂みの中をかき分けた。




「…犬だ」




 茂みの中の物体を見て西木野さんはそう呟く。

 そこには小さな柴犬が寝転んでいた。

 

「犬……」

「子犬だね…」

「猫じゃないんかい」

「可愛いね~」


 予想外の展開にそれぞれの反応を見せる女子たち。


「皆さん、何してるんですか?」


 すると背後から園田くんの声がかかる。

 普段なら下校中でも女子組には話しかけないのだが、道の端に集まって騒いでいたので声をかけてみた。


「園田くん……いぬ」


 五十鈴さんは勢いよく手招きして茂みの中を見るよう促す。


「あ、ほんとですね…綺麗な毛並みですけど首輪がないから野良ですよね」


 園田くんも子犬の存在に驚く。

 子犬は大勢の人に見られているというのに、呑気に欠伸をしていた。


「犬って猫缶食べるのかな?」


 そこで星野さんは満を持して猫缶を取り出す。


「猫のエサは香りが強いから犬も喜ぶって、どこかで聞いたことあるよ~」


 珍しく朝香さんがマメ知識を披露した。


「ならあげてみますかぁ」


 星野さんは猫缶を開封して子犬の前に差し出す。

 子犬はクンクンと鼻を鳴らしてから、少しずつ缶の餌を食べ始めた。


「おお~食べてる食べてる」

「可愛い…」

「やっぱり動物っていいな~」


 その様子を見て和やかな気持ちになる一同。

 猫缶を完食した子犬は、また寝転んで居眠りを始めた。


「あ、寝た…なんかここに住み着きそうだな」


 マイペースな子犬に西木野さんは苦笑する。


「五十鈴さん、なんか適当に名前を付けてあげなよ」


「名前……?」


「最初に五十鈴さんが見つけたようなもんだし」


「……」


 五十鈴さんは子犬を見つめながらしばらく悩む。


「……アメ」


 考えた末、そう命名した。


「あめって天気の雨?」


「ううん……飴玉のアメ」


「ふーん、可愛くていいんじゃない」


 こうして華岡学園の敷地内、通学路の端に居座る子犬“アメ”と出会った。


 本日はたまたま珍しい出会いがあったが、五十鈴さんの学校生活は普通に過ぎていく。まだ課題は残されているが友達に囲まれて充実した学生生活を送っている。


 この平穏は進級してクラス替えが行われるまで続くだろう。

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