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86 五十鈴さんの学校生活①




 五十鈴さんの朝は早い。


「……」


 起床時間は5:00前後。

 華岡学園の朝礼は8:30に始まるのだが、いつも7:00には教室に着けるよう生活リズムを作っている。


 目を覚ましたらまず朝食を食べに行く。


「おはよう。今日はパンよ」


 食事はいつもお母さんが用意してくれる。

 因みに五十鈴さんはどちらかというとパン派だ。


「……ごちそうさま」


 しっかり一人前の朝食を完食して5:30くらい。

 家から学校までの距離は徒歩20分くらいなので時間はまだまだある。


 次に五十鈴さんのすることは、早朝のリハビリだ。


「よいしょ……」


 リハビリといっても激しい運動はしない。

 簡単なストレッチ、柔軟運動、バランスボールなどなど…天気がいい日は近所の周辺を散歩したりする。既に五十鈴さんは病弱ではないのだが、もう朝の運動が習慣として身についてしまったのだ。


「よし……」


 運動をしたら身支度を整え、6:30には学校に行く準備を万端にする。


「行ってきます」


 学校へ向かう足取りは、入学当初に比べてずっと軽やかだ。





 五十鈴さんは通学路で友達と遭遇することがある。


 可能性があるのは園田くん、星野さん、西木野さんの三人。朝香さん、木蔭さん、速川さんは方向が違うので出会うとしても学園の校門前になる。

 ただ一緒に通学する約束をしているわけではないので、一人で教室に着いてしまうこともある。


「おー五十鈴さんじゃん」


 すると西木野さんが背後から声をかけてきた。


「おはよ」


「おはよう……」


「やっと夏の暑さも落ち着いてきたな」


「そうだね……」


 そのまま二人で学校に向かう。

 もう五十鈴さんは友達を相手に緊張したりはしない。その表情は園田くんを前にしているかのように自然で穏やかだ。


「そういえば五十鈴さんが入院してた頃の話だけどさ」


 早速、西木野さんは話を振る。

 通学中の話題といえば最近だと入院生活についてだ。


 既に友達の全員が五十鈴さんの過去を知っている。ただ入院生活の話を教室でするとクラスメイト(おもに城井くん)に聞かれてしまうので、他の人がいない登校中やお昼休みにするしかない。


「園田や速川さんたちと一緒に遊んだこと以外の思い出って、どんなのがある?」


「えっと……頼もしい先輩がいた」


「先輩って病院の?」


「うん……」


「どんな先輩だったの?」


「絵を描くことが上手で……ずっと明るい人」


「へぇ~いい出会いがあったんだ」


 何気ない会話のように見えるが、西木野さんはかなり言葉を選んでいる。


 その先輩も入院していたのなら、元気になったのか、今でも入院しているのか、それとも最悪の結末で終わっているのか。非常識な過去を持つ五十鈴さんなので迂闊にあれこれ聞き出そうとはしない。


「あ、二人共おはよ~」


 すると今度は星野さんが合流してきた。


「おはよ、星野さん」


「おはよう……」


 西木野さんと五十鈴さんは挨拶を返す。

 最近はこの三人で学校に向かうことが多くなった。


「…それが今日の占いのラッキーアイテム?」


 そして西木野さんはまず、星野さんが持っている意味不明な物を指摘する。


「うん、猫缶。何に使うと思う?」


 星野さんは手のひらサイズの猫缶を掲げて二人にそう問いかける。


「猫でも現れるのかね」


「もし会えたら、楽しそう……」


 深く考えずそう答える西木野さんと五十鈴さん。

 このラッキーアイテム雑談は毎日必ず行われるのだが、これが意外と盛り上がったりする。何故なら本当に役に立つ時があるからだ。


「用途はともかく今日の運勢は悪くないから、体育祭の時みたいなトラブルは起きないよ」


 そう言って星野さんは調子良さそうに猫缶を弄っている。


「体育祭で何かあったの?」


 そこで西木野さんは疑問に思う。


「…いや、忘れるんだった。今のはなかったことにして」


 星野さんは慌てて首を横に振った。


「?」


「?」


 西木野さんと五十鈴さんは何のことか分からず顔を見合わせる。


 友達とたわいのない会話をしながら通学路を歩く。こんな平凡な感じで、五十鈴さんの学生生活はスタートする。

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