84 体育祭➄ ㋨
五十鈴さんと朽木さんはゴールした。
結果は…同着だ。
たかが学校の体育祭なのに、ゴールの瞬間は精密なカメラでしっかり記録されている。そして二人のゴールテープを切るタイミングは0コンマ違わず同時だった。
思わぬ激戦に観客席は大盛り上がりだ。
「お疲れさまです、五十鈴さん」
リレーが終わり僕らは五十鈴さんの元に駆け寄る。
「はぁ……はぁ……」
五十鈴さんはまだ息を切らしている。
これだけ頑張ったのに、残念ながらリレーの一位は逃してしまった…
『えー華岡史上初の同着となりましたが、時間も押しているので再走はなしです。よって午前の部は多くの点を獲得した赤組の優勝です』
しかし、この同着は赤組に勝利をもたらした。
「ナイス!」
「すごかったよー!」
「五十鈴さんが勝ち取った勝利だー!」
五十鈴さんの懸命な走りを見て、赤組から歓声が上がる。
「よかったですね、五十鈴さん」
「……!」
五十鈴さんはこの結果に満足していた。
それも当然…この勝利はみんなの努力と、五十鈴さんの引き分けがあったからこそ実現した。これは正真正銘みんなで勝ち取った優勝だ。
「涼月くんもお疲れさま」
「………(疲れた)」
面倒くさがりで省エネ主義の涼月くんだけど、今回は最後まで僕らに協力してくれた。この件は貸しにしていつかお礼でもしよう。
「くっ…この私が、そんな寄せ集めのチームと引き分けるなんて…!」
すると対戦相手の朽木さんが悔しそうに僕らを睨む。
「楽しいバトルだったね、明日香ちゃん!」
「引き分けなんて嬉しくも何ともないわ!」
昴と朽木さんはやはり噛み合っていない口論をしている。この争いは来年も続きそうだな…次回は僕らを巻き込まないよう、昴に釘を刺す必要があるな。
※
こうして僕らの出番である午前のクラス対抗は終わった。
後は昼食休憩を挟んで、部活対抗をのんびり観戦するだけだ。そんな午後から行われる競技の種目はこんな感じ。
綱引き。
騎馬戦。
棒倒し。
大玉転がし。
オブジェクト合戦。
ここで僕は改めて華岡学園の特殊性を目の当たりにした。
あらゆる方面のスポーツの天才が集まり、知略と戦略と死力を尽くして戦う姿はまるで戦争。この戦いに比べれば午前の競技なんて本当に遊びだ。
そして最初のリレー対決は昴と朽木さんにとって第一回戦に過ぎなかった。その後も二人は何度も激戦を繰り広げていたけど、その全てで昴は勝利している。これじゃあ朽木さんから敵視されても仕方ないな…
それと注目なのが、最後の文化部のオブジェクト合戦だ。
各部活はとんでもない作品を制作していた。
芸術部の千手観音。
工業部のティラノザウルス。
建築部の姫路城。
テーマがバラバラでかなりシュールな光景だったけど、とても学生が手掛けたとは思えないクオリティになっていた。でも以外にも競技としては大人しいもので、体育祭の終わりを締めくくるには丁度いい催しだった。
とにかく天才はやることなすこと派手すぎる。
「……」
五十鈴さんは体育祭を終えて余韻に浸っているのか、ぼーっとグランドの方を見つめてる。
「五十鈴さん、人生初めての体育祭はどうでした?」
「学校行事って、すごい……」
「まぁ華岡はかなり特殊ですけどね」
「次の学園祭も楽しみ……!」
こうして体育祭は平和に幕を閉じた。
17 運動会で一位になる。×