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83 体育祭④




 いろいろあったけど、ついに午前の残す競技はリレーだけになった。今のところ点数は赤組がほとんどの競技で一位を独占しているからダントツでトップだ。


『最後の種目はクラス対抗リレーになります。こちらの競技は特例として一位の組に500点が加算されるので頑張ってください』


 アナウンスが無茶苦茶なことを言ってる。

 要するに今までの競技はまさに遊びで、最後のリレーが勝敗を決めるということだ。これは十年前から導入されて何故か恒例となった謎システムらしい。


「よーし、頑張ろうか!」


 昴は勢いよく拳を掲げる。


「お、おう」

「………」

「うん……」


 だけど僕、涼月くん、五十鈴さんのテンションは低い。緊張してたり面倒くさかったりプレッシャーとかだったり…理由はそれぞれだ。


「任せたぞ、園田と涼月!」

「これで勝てば赤組の完全勝利だ!」

「男を見せろ!」


 同じクラスの男子たちから野次が飛んでくる。

 みんな頑張ってたからね…出来ることなら期待に応えたいよ。


「五十鈴さん、速川さんがんばれー」

「負けても気にしないで」

「怪我しないようにね~」


 女子からの声援は優しいなぁ。


「ちょっと速川昴!」


 開始まで待機していると、また朽木さんが絡みに来た。


「なんであんたがアンカーじゃないのよ!」


「なんでと言われても、勝つために最善を尽くした結果なんだけどな~」


「…まさか私があのお嬢様に怖気ずくとでも思ってる?」


 朽木さんは五十鈴さんを睨む。

 どうやらリレー最後のアンカー対決はこの二人になるようだ。


「……」


 緊張している五十鈴さんはいつも以上に表情が強張っていた。


「べ、別に怖くなんてないんだからね!」


 朽木さんの声が震えてる。

 やっぱり違うクラスの人たちは、五十鈴さんのことを怖いお嬢様だとしっかり誤解してるな。これでペースを乱してくれたら有利になるけど…どうだろう。


『それではリレーの選手は位置に着いてください』


 そうこう話しているとアナウンスが流れる。


 いよいよ始まる…五十鈴さんにとって、そして僕にとっても大事な勝負。ここでやりたいことノートに書かれている“運動会で一位になる。”を達成させてあげたいな。





 全員が定位置に着いた。

 まず一番手、スタートは昴が引き受けた。


「位置に着いて、よーい………」


 パン!


 開始のピストルが鳴ると同時に昴は動いた。


「はっや!」

「他の人とはレベルが違うな…」

「流石はスポーツの天才だ」


 ギャラリーの大袈裟なリアクションが聞こえてくる。

 昴は運動神経も凄いけど一番の強みは敏捷性だ。一般人はスタートから最高速度を出すまでに助走が必要だけど、昴はすぐ100%の速力で走り出せる。それはいくら努力しても得られない天性のものだ。


 他の走者に大差をつけて昴は次にバトンを渡す。




 そして二番手は涼月くんだ。


「あいつあんなに速かったっけ?」

「体力測定は地味だったよな」

「まさか実力を隠してたのか…!」


 涼月くんは極度の面倒くさがりだけど、そのポテンシャルは昴に引けを取らない。もし本人の性格が努力家なら昴以上の天才になっていたはず。


 涼月くんは更に他との距離を離して次に繋ぐ。




 そして三番目…僕の出番だ。


「……普通だ」

「速くも遅くもない」

「見た目通り地味な走りだ」


 その通り、僕に才能なんてこれっぽっちもない。

 ただ普通にバトンの受け取り、速くも遅くもないペースで走る。スーパースターのような目立つ活躍もしなければ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 他の走者は運動部だからかなり速いけど、二人が作ってくれた優位を守って最後のバトンを渡す。




 最後のアンカーは五十鈴さんだ。


「五十鈴さん!」


「うん……!」


 最初の頃はバトンパスに失敗してばかりだったけど、何度も練習した甲斐もあってスムーズにバトンを渡せた。


 バトンを受け取った五十鈴さんは走った。


 速さとしては僕より少し遅いくらいかな…半年前まで入院生活をしていたことを考えれば、目覚ましい成長だと言える。夏休みで体力もついたし、走るフォームも昴に仕込まれて完璧だ。


 でも…これじゃあ朽木さんの速さには敵わない。序盤で優位に立てたとはいえ、このままのペースでは確実に負けてしまう。

 

 …そういえば昴がこんなことを言っていた。




「リレーで一番重要なのは意思を繋げることだよ。バトンは渡れば渡るほど熱を帯びて、その熱さが最後尾の人の力に変わる。だから最後は五十鈴さんに任せるよ!」 




 そんなあやふやな感情論、本当にあり得るのだろうか。


「……!」


 でも五十鈴さんは少しずつスピードアップしていた。


 今まで何度も五十鈴さんの全力を見てきたけど、あそこまで速く走れたことは一度もなかった。このままさらに速度を上げれば、朽木さんに追いつかれる前にゴールできるかもしれない。




 二人共、ゴールは目の前だ!

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