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81 体育祭②




「本日ここに第50回華岡高校体育祭を開催されることを喜ばしく思います」


「準備してきた各組と部活の皆さん、練習の成果を発揮できるよう頑張ってください。皆さんの輝かしい健闘を期待して体育祭開催の挨拶と致します」





 学級委員長のありがたい演説で体育祭が始まる。

 今回で丁度50回目になるんだな…だから何だってことはないけど、キリ番ってちょっと嬉しい気持ちになるよね。


「よし、学級委員の仕事は取りあえずここまでだな」


 そう言って西木野さんは赤の鉢巻きを結ぶ。

 今更だけど僕たちは赤組で、今は赤陣営の待機場に集まっている。


「残る仕事は体育祭が終わった後だけだから、私はここでのんびりしてるぞ」


「…気楽で羨ましいですよ」


 僕はのんびりできる気分ではない。

 部活に所属していない一般生徒ならみんなの競技を応援しながら、自分の番がきたら適度に頑張るだけでいい。でも…幼馴染組は最後のリレーが待っている。


 表には出さないけどかなり緊張する。


「午前中は体力を温存しよう」

「それもそうだな…本番は午後だし」

「いい感じに力を抜くか~」


 他の赤組のみんなも気楽そうにしていた。

 僕もそっち側がよかったな…


「とはいえ委員長の前でだらしなくされるのもねぇ」


 やる気のない赤組を見て西木野さんが何かを企んでいる。


「五十鈴さん、こっちきて」


「?」


 五十鈴さんに何かを耳打ちする西木野さん。


 その間、いよいよ最初の競技が始まるアナウンスが鳴る。


「よし、まずは俺たちの出番か」

「のんびりやるかぁ」

「前半は遊びだしな」


 アナウンスを聞いて赤組の何人かが緩やかに動き出す。


「……」


 その時、みんなの行く手に五十鈴さんが立ちふさがる。

 何をするつもりだ…?


「……が、がんばって」


 それだけぼそっと言って五十鈴さんは立ち去った。


 おお…たったの一言だけど、面識の少ない人たちを応援するなんてすごいぞ五十鈴さん。顔は少し強張ってたけど全然威圧的になってない。


「…気を引き締めろ野郎ども!」

「あたぼーよ、目指すは完全勝利だ!」

「五十鈴さんに最高の勝利をプレゼントしよう!」


 その一声は、赤組全員のやる気にスイッチを入れることになる。





 赤組は全ての競技で一位を独占し圧勝している。今更になって気付いたんだけど、うちのクラスって体育会系が多かったんだ。


「おい…なんか赤組の様子がおかしくないか?」

「やる気あり過ぎだろ」

「何が奴らをそうさせてるんだ…」


 敵側の組も不思議がっている。

 これがいわゆる“鶴の一声”ってやつか…これまで五十鈴さんが無口だから気付かなかったけど、超絶美少女の権威は想像以上にすさまじかった。


「ナイス、五十鈴さん。今みたいな感じでみんなの闘志を高めに行こう」


「うん……」


 西木野さんと五十鈴さんの企みは大成功だ。

 これじゃあ向こうで待機している応援団も形無しだな。


「それじゃあ…私も行ってくる」


 そうしている間も競技は進み、木蔭さんの出番がきた。


「木蔭ちゃん、頑張れ!」

「がんばれ~」

「がんばってください、木蔭さん」


 僕らは手を振って見送る。


 たしか木蔭さんの競技って借りもの競争だよな。

 脚力を求められるから文系女子には厳しいけど、勝てるかどうかは借りてくる物の内容で決まるだろう。


 パン!


 お、開始のピストルが鳴った。


 やっぱり木蔭さん出遅れてるな…先行した選手たちはもう中間の台に到着して、借りる物が書かれた紙を手に取っている。


 ………


 紙を開いた人たちが動かなくなったぞ。


「あれ、みんな立ち尽くしてるよ」


 隣で星野さんが僕と同じ感想を口に出す。

 そんな難しいお題なのか?


 すると紙を手にした選手たちがこちらにやって来る。


「誰かパンツ履いてない人いませんか!」

「この中に性別を偽ってる人います!?」

「カツラ被ってる人、秘密にするから手を上げてください!」


 思った以上に無理難題だった。


「でもこれって会議で決めたお題なんだよなぁ」


 西木野さんがぽつりと呟く。


「ええ…だからいるんでしょうね。ノーパンの人も、性別を偽ってる人も、カツラの人も」


 華岡に集まる生徒は個性豊かだ。

 ただ居たとしても出てこれないだろうな…


「…」


 木蔭さんも遅れて台に到着したけど、紙を拾って立ち尽くしている。やっぱり無茶苦茶なことが書かれてるのかな。


 かと思えば木蔭さんは迷わずこちらに近付いて来る。


「園田くん、いいかな…?」


「え、僕ですか?」


 この平凡な僕がご指名?

 取りあえず木蔭さんに手を引かれゴールテープを切った。


「それではお題を見せてください」


 そして体育の先生がお題を確認しにくる。


『平凡な男子生徒』


「…」


 先生は僕の方をチラッと見る。


「よし、合格だ」


 …反論はしませんよ。


「木蔭さんだけやけに簡単なお題でしたね」


「ううん…本来なら難しいんだよ。この華岡学園に限っては…」


「…なるほど」


 様々な天才が集まる華岡学園において、僕みたいな平凡生徒は確かに希少なのかもしれない。


 まったく嬉しくない特別だけど。

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