80 体育祭①
大がかりな準備と入念なリハーサルを得て、いよいよ本日から華岡学園体育祭が始まる。
「いい天気だな…」
空は雲一つない快晴だけど、日差しはそこまで強くないから気温も丁度いい。絶好のスポーツ日和なんじゃないかな。
「にしても凄いことになったな~」
隣にいる西木野さんが校庭を眺めて感心している。
例のオブジェクト合戦に使われるアートはとんでもないものが完成していて、学校を彩る装飾も細部まで拘っているのが分かる。きっとこういうのが得意な天才が手掛けたのだろう。
「うん、すごい……!」
五十鈴さんはお祭り会場になった学校に興奮している。
さっきまで僕たち学級委員の三人は来場者に体育祭パンフレットを配っていた。みんな美少女の五十鈴さんからパンフレットを貰いたくて、僕と西木野さんは手持ち無沙汰になっていたけど。
「おーい」
校庭を見回していると昴がこっちに近付いて来る。
「昴か、どうした?」
「時間を見つけてリレーの最終チェックするから、忘れずに集まってね」
「はいはい…」
あれから僕たち幼馴染組は何度もリレーの練習をしたけど、結果がどうなるかは予想できない。せめて対戦相手にリレーの天才がいないことを祈ろう。
「見つけた、速川昴!」
すると突然、一人の女子が僕らの前に立ちふさがる。
前髪をヘアピンで開け広いおでこが特徴的の、いかにも運動が得意そうな人だ。
「お、明日香ちゃんだ。今日のリレー楽しみだね」
昴は仲良さそうに手を振っているけど、向こうはやけにピリピリしているような…
「名前で呼ばないで、仲いいと思われるだろ!」
やはり相手は昴に対して敵意を剥き出しにしている。
「お前の知り合いなんだよな?」
僕は小声で昴に確認する。
「朽木明日香ちゃんっていって、ソフトボール部の期待のエースなんだよ」
「部活の友達か。ならなんであんなに敵視されてるんだ?」
「なんでだろうね~…仮入部の時にも対決したし、体力測定の時も競い合った仲なのに」
「…お前、その対決で勝ったのか?」
「もちろん私が全勝!」
なるほど…大体の事情を察することができた。
「私の華々しいデビューに泥を塗ったあんたは許せない!」
朽木さんは子供みたいに地団駄を踏んでいる。
恐らくソフトボールの天才で周囲から期待されていた朽木さんは、華岡学園で華々しくデビューする予定だったのだろう。それを昴とかいうダークホースに全て持っていかれたと。
「…天然系の天才にありがちな展開ね」
そのやりとりを見て西木野さんは苦笑する。
運動の才能に恵まれた昴だけど、こいつにとってスポーツは遊びでしかない。だからこそ朽木さんみたいな勝つことに一生懸命な人との相性が悪いんだ。
「最終種目のリレーであんたに敗北をプレゼントしてやるから覚悟しなさい!」
そう言い残して朽木さんはこの場から去っていった。
「厄介なライバルになりそうだな」
西木野さんは傍観者気分で楽しそうだ。
あの朽木さんはソフトボール部だけど、体力には相当の自信があるのだろう。やはりリレーに出る選手は運動部のエース級ばかり…対してこっちの幼馴染四人組は誰も運動部に所属していない。
本当に勝機はあるのだろうか。
「ふふふ~ライバルがいると燃えるね!」
僕の不安を余所に、昴の背景にやる気の炎が燃えている。
「園田くん……がんばろ」
そして五十鈴さんの無表情な瞳も激しく燃えていた。
いつから僕はスポーツ漫画の世界に迷い込んだんだ?