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79 体育祭の準備➂




 体育祭は準備も大事だけど、練習も重要だ。

 これから体育の授業は全て出場する競技の練習になり、各自で仲のいいグループに分かれてリハーサルを行う。幸いにもうちのクラスは一人で孤立するような人がいないから良かった。


「五十鈴さんは二人三脚の練習をしないとだな」


 そして五十鈴さんグループ六人は自然な流れで集まった。


「出雲さん、準備はできてる?」


「…」


 さらに今回は五十鈴さんの相方である出雲さんもグループに混じっている。


「出雲さんと五十鈴さんって仲いいの?」


 僕は少し離れた所で数少ない男子友達である城井くんと一緒にそのやりとりを眺めている。


「夏休み中に仲良くなったんだって」


「へぇ、詳しい話を聞きたいな」


「相変わらずこういう噂が好きだね」


 学校が始まると城井くんはずっとこの調子だ。

 高等部で一番ホットな話題である五十鈴さんのエピソードを執拗に聞き出そうとしてくる。僕は雑談程度で色々話すけど、入院やノートといった大事なことを話すつもりはない。


「それじゃあ足を結ぶよ」


 そんな僕と城井くんの会話を余所に、みんなは二人三脚の準備をしている。こうして並ぶと出雲さんって本当に身長高いな。


「二人は身長差があるから、腰と肩に手を回そう」


「……」


 昴の指示に従い、五十鈴さんは出雲さんの腰に手を回す。


「っ!」


 すると出雲さんは急にむせて膝をついた。


「え、どしたの?」


「……少し時間をくれ。私には雑念を捨てる期間が必要だ」


「雑念?」


 昴は分かっていないようだけど、似たような経験をした僕は分かるぞ。どうやら出雲さんは見かけによらず繊細なようで、五十鈴さんとのスキンシップは刺激が強すぎたようだ。


「つっても五十鈴さんには相方が必要だろ。なぁー園田」


 そしたら急に西木野さんに名前を呼ばれた。

 まさか僕に五十鈴さんの練習相手をやらせる気か…!?


「……」


 五十鈴さんは期待するような目でこちらに近付いてくる。

 じ、冗談じゃない。


「ちょっと待っててください!」


 大丈夫、逃げ道ならある。

 二人三脚は男女別々で二組出場する。つまり五十鈴さんと出雲さんの他にも、もう一組だけ女子のペアがある。


「相沢さん、音無さん!」


 いかにもギャルっぽい相沢さんと、メガネで大人しそうな音無さんだ。あまり面識のないクラスの女子だけど今はなりふり構っていられない。


「あれ、園田くんじゃん」


「どうかしたの?」


 二人は僕に話しかけられて不思議がっている。


「出雲さんが暑さにあてられて、五十鈴さんの練習相手がいないんです。なので二人に協力をお願いしたいんですよ」


「…え、いいの!?」


 僕の提案に相沢さんが大袈裟な反応を見せる。


「ほら、同じ競技ですし一緒に練習した方が効率もいいでしょう」


「それはそうだけど…いいのかな?」


 音無さんは遠慮がちだ。

 いつも通り妙な噂が邪魔しているのだろうけど、そんなのは無視だ。


「大丈夫ですよ、五十鈴さんとは同じ花火を見た仲じゃないですか」


 夏祭りで花火大会を見に行った時、五十鈴さんグループは野田さんと池永くんが率いるクラスメイトと合流した。その中に相沢さんと音無さんも混じっていたことは覚えている。


 たったそれだけの事でも、きっかけはきっかけだ。


「…じゃあ、行ってみようかな」


「やば、テンション上がってきたー!」


 音無さんと相沢さんは意気揚々と五十鈴さんグループに混ざりに行った。二人は西木野さんと昴の指示のもと、五十鈴さんとうまく練習できているみたいだ。


 さて…僕は城井くんと涼月くんの男子組で集まって、適当に練習しながら時間を潰そう。





 日時は変わって土曜日の早朝。

 学校は休みだから普段なら家でのんびりしてるんだけど…


「よーし、特訓を始めるよ~!」


 僕たち幼馴染組は昴に呼び出され公園に集まっている。集合した理由はもちろん、クラス対抗リレーの訓練だ。


「頑張ろう……!」


 五十鈴さんは拳を握って奮起している。


「………(しんどい)」


 対して涼月くんからはやる気のないオーラがにじみ出ている。ただでさえ面倒くさがりなのに、休日に呼び出されて訓練に付き合わされているのだから当然だ。


「おお~こうしてみんなで集まると、昔にもあったような気がしてくるよ」


 妹は少し離れたベンチで楽し気に見学している。

 今回の集まりに妹は何の関係もないけど、みんなで集まると聞いたら勝手に付いて来たんだ。


「隼人くん、頑張ってね~」


「………」


 妹に応援されても涼月くんはやる気を見せない。


「まずは五十鈴さんにリレーをレクチャーするね」

 

 それでも昴はお構いなしに指導を始める。


「確かにリレーは足の速さも重要だけど、速ければいいってものじゃないよ」


「そうなの……?」


「バトンパス、ペース配分、コーナー周り、走り方のコツ…それらを五十鈴さんに伝授するね。元々の素質はあるから練習すればきっと勝てるよ!」


 自信満々でそう言い切る昴。

 僕は未だに不安しかないけど…こいつはスポーツに関して無責任なことは絶対に言わない。このメンバーをリレーの選手に指名したのは、本気で勝算があると思っているからだ。


「それと一番大事なのはチームワークだよ。みんなで一緒に練習して、チーム力を高めて行こうね!」


 昴は僕らに向かって拳を掲げる。


「一緒に、頑張ろう……」


 五十鈴さんも続いて拳を前に出した。


「…涼月くん、ここは頑張るしかないよ」


「………(今回だけだぞ)」


 僕と涼月くんも拳を握り、四人で手を合わせた。

 女子が頑張ってるのに男子代表の僕たちが足を引っ張るわけにはいかない。ここからは細かいことを気にせず、全力で練習に付き合おう。

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