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76 献血車




 夏休みが終わり、今日からまた学校が始まる。


「あついなぁ」


 どうして夏休みと一緒に、夏の暑さも終わってくれないんだろう。休み明けに学校へ行くしんどさも相まって気分が沈む。


「おはよう……」


 学校の校門前に着くと、五十鈴さんとばったり会った。

 沈んだ気分が一気に吹き飛んだぞ。


「おはようございます」


「うん……今日から学校、がんばろ」


「はい。といっても今日は午前中で終わりですけどね」


 今日は夏休み明け登校初日。

 やることは始業式と夏休みの宿題提出と…なんだっけ。


「あ、あれ……」


 校門をくぐってすぐ、五十鈴さんが何かを見つけて指を差す。

 そこには見慣れない車が停まっていた。


「あれは献血車ですね」


 そういえば先生が夏休み前に言ってたっけ。

 この学校には定期的に献血車が来て希望者は献血ができるんだ。そして夏休み明けの初日は、高等部一年を対象に献血を受け付けている。


「夏休みで体力を全開にした若者からエネルギーを搾取するつもりなんだろな」


 すると背後から西木野さんの声が。


「おお、学園長の新車かな?」


「血を吸う車…初めて近くで見た」


 星野さんと木蔭さんも変なことを言いながら合流してきた。


「皆さん、おはようございます」


「おはよー」

「おはよー」

「おはよー」

「……」


 みんなで朝の挨拶をするけど、五十鈴さんは献血車に興味津々だ。


「なに五十鈴さん、献血したいの?」


「う、うん……つい最近まで貰いっぱなしだったから、今度は返したい……」


「…なるほど」


 西木野さんは納得したように頷く。

 きっと五十鈴さんは入院中、献血のお世話になっていた時期があったのだろう。そう考えると献血車が特別なものに見える。


「五十鈴さんって今いくつ?」


「え?」


 唐突な西木野さんからの質問に五十鈴さんはぽかんとする。


「だって献血は16歳にならないとできないぞ」


「……」


 五十鈴さんの表情を見るに、その条件は満たせていないようだ。





 こうしていつもの学校が始まる。

 久しぶりの教室でクラス全員が集まったけど、相変わらず五十鈴さんとクラスメイトの間には微妙な壁がある。それでも夏祭りで多少は交流したから、少しは縮まっているはず…今後に期待だな。


 そんなこんなで放課後の教室。


 普通ならここで解散なんだけど、五十鈴さんグループと僕は昼食をとってから帰ろうという話になった。行く店はもちろん華岡学生の味方、食事処“まんかい亭”だ。


「じゃあまず献血に行くんですね?」


 僕は前の席に座る西木野さんに確認する。


「おう。なんか五十鈴さんを見てたら、献血したい気持ちになったよ」


「同じく…」


 西木野さんと近くにいた木蔭さんは行く気満々の様子。通学中に見た献血車の話が以外にも盛り上がり、行ける人だけで行ってみることになった。


 この中で16歳なのは僕、西木野さん、木蔭さんの三人だけだ。


「いいな~私もみんなと行ってみたかった」


「私もやりたかった……」


 まだ15歳の星野さんと五十鈴さんは残念がっている。


「献血する機会なんて、今後いくらでもありますよ。今回は僕らに任せてください」


「うん……」


 五十鈴さんは渋々と頷く。

 もし次に献血する機会があったら、献血車じゃなくてちゃんとした施設に行ってみてもいいかも。


「みんな勇気あるね…腕に針を刺すなんて恐ろしいよ~」


 朝香さんは怯えながら自分の腕を抱いている。

 人によって血とか針が苦手な人もいるから、献血はやれる人がやれるタイミングですればいいんだ。


「そんなに待たないと思うから、みんなで献血に行ってから昼食を食べに行こう」


 西木野さんがこの後の予定を決定する。

 この五十鈴さんグループも、夏休みで絆が強くなった気がする。





 こうして僕らは献血を受けに行った。

 幸いにも他に来ている生徒は少なく、待ち時間なしで献血車に入れた。


 僕と西木野さんは注射に対して苦手意識はないから、淡々と血を取られておしまいだ。献血のお礼に医師の人からお菓子とジュースを貰えたぞ。


 トラブルなんて何もないさ。

 …いや、一点だけ予想外のトラブルが発生した。


「…」


 そのせいで木蔭さんはすごく落ち込んでいる。


 ここは駅前の食事処まんかい亭。

 既に僕らは店に入って、学生限定おまかせ定食を注文している。


「いや~まさか木蔭ちゃんが貧血で追い出されるとは思わなかったな」


 西木野さんはさっきの出来事を思い出して笑っている。


 献血はまず最初に血圧と血を調べるんだけど、木蔭さんは血の比重が貧血すぎるからと追い出されてしまったんだ。


「どうして…今まで生きてきて、一度も蚊に刺されたことないのに…」


 木蔭さんはしょんぼりしている。

 それとこれとは無関係な気がするけど…つっこむのは止めておこう。


「結局、私たちの仲間入りだね」


「今度は三人で行けるよう、がんばろう……」


 同じく献血を受けられなかった星野さんと五十鈴さんは優しい言葉で木蔭さんを励ました。


「おまたせしました~」


 そうこう話していると注文した料理がやってきた。


「こちらはレバニラ定食です」


「…」


 木蔭さんの前に美味しそうなレバニラが置かれた。流石は店長、貧血で悩む学生に最適な料理を提供してくれる。


「…来年は五十鈴さんと一緒に受けられるよう頑張るよ」

 

 木蔭さんは決意と共に手を合わせた。

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