71 夏祭り➄
昨日はクラスメイトのみんなと夏祭りに行ったけど、今日は幼馴染のみんなと行く日だ。メンバーは僕と妹、昴と涼月くん、そして五十鈴さんの五人。
集合場所は五十鈴さん宅の近くにある公園だ。
「五十鈴さん、体力は大丈夫ですか?」
「大丈夫……!」
「今日も夏祭り楽しみだね~」
最初に集まったのは僕、五十鈴さん、妹の三人。
そしてしばらくして涼月くんが来てくれた。
「涼月くん、暑い中お疲れさま」
「………(しんどい)」
涼月くんは相変わらず無口で面倒くさがりだけど、妹が頼めばお祭りにだって付き合ってくれる。
何だかんだ優しいんだよな。
「おーい!」
しばらくして昴が遅れて到着。
これで幼馴染組は全員集合だ。
「お待たせ!昨日は遊べなかったから、今日は思う存分遊ぶぞ~」
昴は暑苦しいほどにハイテンションだ。
五十鈴さんと妹も気分が盛り上がってるから、今日も賑やかな一日になりそう。
「……」
と思いきや…さっきまで元気だった五十鈴さんが、今は妙に落ち着いている。
「五十鈴さん、どうかしました?」
「……みんなでここに集まると、昔のことを思い出すの」
五十鈴さんは懐かしむような目で集まった面々を見回している。
今から八年前の出来事。
まだ病弱だった五十鈴さんがこの公園を散歩していた時、偶然僕たちと出会って一緒に遊んだことがある。たった数日の短い思い出だけど、僕らには幼馴染と呼べる絆がある。
「一緒にブランコで遊んだよね!」
「うん……楽しかった」
昴と五十鈴さんは当時の思い出を語り合っている。
「…会ったことは間違いないんですよね」
「でもあんまり思い出せないね~」
だが僕と妹の記憶にはモヤがかかったままだ。
八年前に五十鈴さんのようなお姫様に会ったのは確かだけど、何を話してどんな遊びをしたのかほとんど覚えていない。唯一印象に残っているのは、五十鈴さんと指切りで何かの約束をしたくらいだ。
「まだ思い出せないの?子供の頃、五十鈴さんと一番仲が良かったの庭人くんじゃん」
「そうなのか…?」
「なんか二人だけでこそこそ話してたり、距離が一番近かったよ」
昴から新しい過去話が出てくる。
そう聞くと五十鈴さんとの関係って、今と昔でそんなに変わらないんだな。今だってみんなに内緒でノートに挑戦してるから。
「ねぇねぇ、それより早くお祭りに行こうよー!」
「………(腹減った)」
そうこう話していると妹と涼月くんが公園を出ようとしている。
今日の目的は夏祭りだから、思い出話は別の機会にするか。
「じゃあ行きましょう、五十鈴さん」
「……」
何やら五十鈴さんは秘密基地みたいな滑り台の遊具を見つめてボーっとしている。
「五十鈴さん?」
「あ……う、うん」
僕の呼びかけで我に返る五十鈴さん。
忘れたままの僕と違って、五十鈴さんは順調に昔のことを思い出しているみたいだ。いつか指切りの約束も思い出すかもしれないな。
変な約束してないといいけど…
※
その後、僕らはみんなで夏祭りを遊び回った。
もちろんやりたいことノートに書かれている“夏祭りの屋台制覇。”の達成は無理だったけど、これは遊んでいる内に自然と達成されるだろう。
夏祭りなら来年も、再来年もあるんだから。