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70 夏祭り④




 一通り屋台を遊び終えた僕らは、近くの公園にあるベンチで一休みしている。


「取りあえず定番のものは遊びつくしたな」


「そうですね」


 僕と西木野さんは自動販売機で飲み物を買いながら一息ついている。遊びつくしたといっても全ての屋台の制覇とはいかなかったな…最初から分かっていたことだけど。


 でも五十鈴さんの日常は始まったばかり。

 夏祭りなんて明日もあるし、来年だってある。


「あ、しまった」


 すると西木野さんは何かに気付いて声を上げる。


「どうかしました?」


「花火の場所取り、すっかり忘れてた」


「あ…」


 そうだった…しまった。

 華岡夏祭りメインである花火大会は、向こうの広場で見るのが定番なんだ。そこには充分なスペースがあるけど、日が暮れる前に場所を取らなければ全て埋まってしまう。


「しょうがない、今回は適当なところで見るか」


「そうですね…今からだと遅いですし」


 もうとっくに日は暮れてるから、場所取りは諦めるしかない。五十鈴さんには特等席で華岡の花火を見せたかったな。


「おや、園田くんと西木野さん」

「奇遇なのだ~」


 その時、誰かに声をかけられた。


「池永くんに野田さん」


 ついに現れたクラスメイトの二人。

 奇遇とか言ってるけど、今日ここに五十鈴さんが来ることはプールの時に教えているから偶然ではない。


「おー二人も来てたのか」


 西木野さんもそのことを知っているんだけど、何も知らないふりをして二人と接している。


「クラスの友達と屋台を遊び回ったよ」

「後は花火を見るだけなのだ」


 なんだ、二人も夏祭りで遊んでたんだ。

 もっと早く接触に来ると思ってたのに…何を企んでいるんだろう。


「花火か…そっちはいい場所取れたのか?」


 西木野さんはジュースを飲みながら適当に話を振る。


「じ、実はクラスメイトの友達が広めに場所を取ってるんだ!」

「良ければご一緒するのだ!」


 そしたら二人は待ってましたと言わんばかりにそう提案してきた。


「あーなるほど」

「あーなるほど」


 僕と西木野さんは全てを察した。

 花火でいい場所を確保して、五十鈴さんを同席させる作戦か。確かにこれなら自然に誘うことができる。


「…何がなるほどなのかね?」

「ここで会ったのは偶然なのだ~」


 二人はとぼけているけど、ここは空気を読んで二人に合わせよう。





 ということで五十鈴さんグループは、みんなで池永くんと野田さんが取ってくれた花火会場へ向かうことになった。


「いや~ラッキーだったね」

「うん…みんなに感謝だね」

「花火楽しみ~」


 これが仕組まれていることとは知らず、みんな花火を楽しみにしている。まぁ過程はどうあれ本日の夏祭りはみんな大満足で終われそうだ。


「……」


 ふと五十鈴さんの様子が気になって探してみたら、何故か最後尾で不安そうにしている。


「五十鈴さん、どうかしました?」


「うん……これからクラスメイトのみんなに会うんだよね……」


「ええ、池永くんと野田さん以外にも何人か来ているそうです」


「……緊張する」


 五十鈴さんはまだ人見知りを克服できていない。これから大勢のクラスメイトに会うとなると、また緊張で顔が強張ってしまうだろう。


「どう接すればいいのかな……」


 五十鈴さんは不安げに見つめてくる。


「お礼を言えばいいんですよ」


「お礼……?」


「場所を取ってくれてありがとうって。後は一緒に花火を楽しむだけです」


「……」


 五十鈴さんとクラスメイトの間にはまだ距離がある。でも僕らはこれから一緒に花火を見るだけなんだから、難しく考えることはない。


「……頑張ってみる」


 五十鈴さんは珍しく強気な声でそう答えた。





 この後、僕らは最高の場所で花火を見れた。

 池永くんたちは相当張り切っていたのだろう、ど真ん中の特等席を確保してくれていた。


「……」


 五十鈴さんはずっと打ち上がる花火に見惚れていた。


 テレビや動画で花火なんていくらでも見れるけど、現地で見るのとでは迫力が段違いだ。華岡学園の卒業生が手掛けた花火はまさに圧巻の一言。豪快な音がひっきりなしに鳴り響き、せっかくクラスメイトと合流しても会話なんてほとんどなかった。


「ありがとう……」


 それでも五十鈴さんはちゃんと、クラスメイトのみんなにお礼を言うことができた。


 その時の池永くんと野田さんのリアクションといったら…全てをやり遂げたようだった。たったそれだけのやり取りだけど、五十鈴さんとクラスメイトに空いた距離は確実に狭まったはずだ。


 夏休み明けの新学期が楽しみだな。

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