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68 夏祭り②




 夏祭りの会場は駅周辺の全てだ。

 毎年のことだけどすごい人混みだ…花火大会が有名なのもあるけど、華岡学生による太鼓演奏やよさこい祭りなどイベントも盛りだくさん。ちょっと遠くから華岡の夏祭りへ遊びに来る人も多い。


 華岡駅の歩行者天国は道幅が広いから人で詰まることはないけど、なかなか前に進めない。ここは人の流れに従ってゆっくり歩くしかない。


「……」


 でもこのゆっくりペースは、五十鈴さんには丁度いいみたいだ。様々な屋台に目を奪われながらきょろきょろしている。


「もしかして五十鈴さんって、夏祭りに来るの初めて…?」


 そんな五十鈴さんの初々しい反応に木蔭さんは気付いた。


「うん……夏祭り、初めて」


「そうなの?前のプールといい、五十鈴さんって初めてなことだらけだね」


 星野さんはその反応を見て楽し気だ。


「さて、どの出店から行きましょうか」


 僕は五十鈴さんにそう尋ねた。

 確かやりたいことノートに“夏祭りの屋台制覇。”と書かれてたっけ。それなら片っ端から遊び回ってもよさそうだけど。


「………………」


 五十鈴さんはどの屋台にするか決めあぐねていた。どこを見ても面白いものがあるから、すぐ決められないよね。


「あ、ちょっと行って来る!」


 すると星野さんは気になる屋台を見つけてそっちに行ってしまった。


「私は金魚すくいに行ってみようかな…」

「私と希はお腹空いてるから、先に食べ物買って来るわ」

「行こう行こ~う」


 他の三人も別々の屋台に向かってしまう。


「僕らも行きましょう、五十鈴さん」


「う、うん……でもどこから行けばいいのか……」


「取りあえずみんなが遊んでる様子でも見に行きましょう」


 まずは夏祭りを遊び慣れているみんなの様子を見て、この雰囲気に慣れるところから始めてみよう。


「……うん!」


 五十鈴さんは勢いよく頷く。





 僕と五十鈴さんはまず、星野さんが向かった屋台に行ってみた。


「ここはくじ引きですね。紐を選んで引っ張って、景品を手に入れる運試しの屋台です」


「へぇ~……」


 これもお祭りの定番だ。

 ただ…僕はこういった運試しを信用していない。


 子供の頃は珍しいトレーディングカードに釣られて何度かチャレンジしたけど、一度もいいものを手に入れたことがない。きっと店側が当たらないように仕組んでいるはずだ。


「おじさん、一回やります」


 でも星野さんはお金を払い、迷わず一本の紐を手に取った。


「ふふふ…今日の朝占い、てんびん座の私は一位だよ」


 星野さんはラッキーアイテムであろう蝋燭を握りしめながら紐を引いた。


 持ち上がったのは最新ゲーム機だ!

 間違いなく全ての景品の中で一番の当たりだろう。本当に出るんだな…疑ってすみません。


「すごいですね星野さん」


「普段から運勢に苦しめられてるから、チャンスの時くらいは利用しないとね」


「…」


 まさか星野さんの言ってる占いって、本当に絶対当たるのか?

 いやいや…ただの偶然だろう。


「五十鈴さんもやってみたら?」


「う、うん……」


 星野さんに促され、今度は五十鈴さんが挑戦することになった。

 果たしてどうなるか…


 …お、何やら大きな箱を釣り上げたぞ。


「それは水槽セットだね」


「水槽……?」


「家で魚を飼える道具だよ」


 五十鈴さんが引き上げたのは魚を飼える水槽セット一式か。しかもただの安物ではない、なかなか本格的なものだ。


「そういえば木蔭さんが金魚すくいに行くって言ってましたね」


 僕は木蔭さんのいる屋台を指差す。


「五十鈴さんも金魚を手に入れれば、その水槽で飼えますよ」


「金魚……ほしい!」


 五十鈴さんは水槽で金魚を飼う想像をして即決する。


「そうと決まれば、金魚すくいに行ってみよ~」


 星野さんがゲームを抱えながら木蔭さんのいる方へ向かおうとする。

 おっと、その前に…


「星野さんと五十鈴さん、荷物は僕が持ちますよ」


 ただでさえ不慣れな浴衣姿なのに、大きい景品を抱えながらでは遊びづらいだろう。


「おお、それならお言葉に甘えて」


「ありがとう……」


 二人は僕に荷物を預けてくれた。

 ここで男としての役目を果たせれば、多少は女子組の中に混ざっている肩身の狭さが緩和される。こうでもしないと素直に夏祭りを楽しめそうにないからね…

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