67 夏祭り①
夏祭りは近くの華岡駅を中心に開催される。
駅には歩行者天国があって、そこで数多くの屋台やキッチンカ―が店を展開させる。定番の屋台は全て揃っており、珍しい食べ物も種類豊富。
そんな華岡夏祭り最大の魅力、それが花火大会だ。
夏祭りが行われる初日と二日目は、夜になると盛大に花火が打ち上げられる。
噂ではその花火はかの有名な玉屋と鍵屋の子孫が手掛けており、その天才花火師は華岡学校の卒業生なんだとか。その話題性もあり、華岡の花火大会は毎年テレビで紹介されるくらい世間を騒がせている。
「よし、準備できた!」
妹は浴衣に袖を通し、くるりと体を一回転させる。
「もう足は大丈夫そうだな」
半年前の事故で負傷した妹の足。
それだけ軽快に動ければ、もう心配する必要はないな。
「僕はそろそろ出るけど、お前はどうする?」
「友達がうちに来てくれるから、ここで待機してるよ」
「そっか」
五十鈴さんグループの待ち合わせ時間は午後。
そろそろ時間だから、僕は一足早く出発しよう。
「じゃあ先に行くから、戸締り頼むぞ」
「うん。それより私の友達もそろそろ来るけど、会って行かないの?」
家を出ようとしたら妹が変なことを言う。
「いや、別に会う必要ないだろ」
「ふーん…」
「なんだよ…」
「べつにぃ~」
それだけ言い残して妹は部屋に戻ってしまった。
なんだったんだ?確かに妹の友達とは面識があるけど、わざわざ会うような仲でもない。高校に入る前まではそれなりに遊んだことあるけど。
おっと、そんなことはどうでもいい。
早く出ないと遅刻してしまう。
※
待ち合わせ場所である駅近くの本屋に到着した。
「…」
予定より早く着いたけど、まだ誰も来ていない。
妙だな…五十鈴さんならとっくに着いててもおかしくない時刻なのに、今回はやけに遅い。まさか変な人にからまれたりしてないだろうか。
…いや、その心配はないか。
最初は美少女である五十鈴さんに悪い虫がつかないか心配してたけど、あの高圧的なオーラに近付ける人なんてそうそういない。だからこそ友達作りに苦戦してるんだ。
それにいざとなれば親衛隊が動いてくれるだろう。
「おーい園田」
しばらくすると僕を呼ぶ声が聞こえる。
西木野さんがやってきた。
と思いきや、みんな揃ってお出ましだ。
どうやら僕の知らない所で事前に集まっていたみたいだけど、なんで僕を省いて女子だけで集合していたのか…その理由はみんなの衣服を見れば分かる。
「みんな浴衣ですか」
「大勢で遊ぶなら浴衣で行こうって話になって、私んちに集まって着付けしてたんだ」
そう言って浴衣を見せびらかす西木野さん。
紅色の紅葉柄の浴衣か…とてもよく似合っている。
「みんな可愛いいでしょ~」
「動きづらいけど、たまにはこういうのも悪くないね」
「夏らしくていいね…」
朝香さんは黄色の向日葵柄
星野さんは青色の星柄。
木蔭さんは紫色の朝顔柄。
「……」
そして五十鈴さんは白と水色の鈴蘭柄の浴衣だ。
ハーフの特徴と日本の着物はミスマッチかと思いきや、五十鈴さんは見事に着こなしている。髪型も首元がすっきり見えるようにまとめられていて、普段よりも大人らしさが際立っていた。
「すごい華やかですね…全員が浴衣でくるとは思いませんでしたよ」
僕は素直な感想を述べる。
みんなそれぞれ個性的な浴衣を着ていて素晴らしい。
「…あれ?出雲さんはどこです」
僕は周囲を見回したけど出雲さんの姿が見当たらない。
「誘ったんだけど断られた。なかなか心を開いてくれないツンデレガールだよ」
西木野さんはやれやれといった様子。
やっぱり出雲さんとはまだ距離があるみたいだ。
この距離感…初めて会った時の涼月くんを思い出すな。あのタイプの人は心の中にある壁を取り払わないと、いくら一緒に遊んでも距離は縮まらないんだよね。
「それよりさっさと行くぞ。夏祭りはもう始まってるんだから」
西木野さんは立ち話を切り上げて先陣を切る。
そうだ、今は五十鈴さんと一緒に夏祭りを楽しむことが重要だ。
「行きましょうか、五十鈴さん」
「う、うん……」
「どうかしました?」
「ちょっと歩きずらい……」
五十鈴さんは初めて浴衣を着るから、草履に慣れていないせいで歩きにくそう。
「足を痛めないよう、ゆっくり歩きましょう」
「うん……ありがとう」
僕と五十鈴さんはスローペースで西木野さんたちの後に続いた。