65 美術部➂ ㋨
こうして僕と五十鈴さんはレタリング検定を受けることになった。
やるとこは大きく分けて二つ。
筆と定規を使って文字を作る実技と、筆記による知識だ。
たった一週間の短い期間。
杉咲先生は大丈夫だと言ってたけど僕はダメ元で勉強を始めた。
でも実技は僕の性に合ったのか苦じゃなく、知識は杉咲先生がすごく分かりやすく教えてくれた。僕と五十鈴さんは集まれる日は芸術室に集まり、休みの日は家で検定の勉強を続けた。
「あれ?お兄ちゃん、宿題終わったんじゃないの?」
「…ちょっと部活でな」
「え、部活始めたの?」
「そんな忙しい部活じゃないから、家事当番は変えなくていいぞ」
「ふーん…あのお兄ちゃんが部活ねぇ」
「なんだよ…」
「べつにぃ~」
妹が珍しがって勉強の邪魔をしにくるけど、一週間でできる限りのことはやった。僕はそんなに勉強熱心ではないんだけど、五十鈴さんの熱意に後押しされて集中することができた。
※
そんなこんなで試験の日。
会場は華岡学園の空き教室を借りて行われた。
受験者は僕と五十鈴さんの二人だけ。
「それじゃあ知識の答案を配りますね~」
杉咲先生は僕と五十鈴さんに試験用紙を配る。
検定試験ってこんな小規模で勝手にやってもいいんだ。それとも華岡が異質なのか…そんな余計なことを考えられるくらい僕は落ち着いていた。
「……」
五十鈴さんは初めての試験で緊張しているけど、その表情に不安はない。たった一週間だけど僕らはこれでもかってくらい勉強したんだ、合格の自信ならある。
「それでは試験を開始してください」
※
そして数日後。
僕らは杉咲先生に呼ばれ、大学部の職員室に来ている。
「二人共、合格おめでとうございます」
そして杉咲先生からレタリング検定四級の合格証を渡された。
結果は僕も五十鈴さんも合格だ。
「やりましたね、五十鈴さん」
「うん……!」
猛勉強した甲斐あって、実技も知識もほぼ満点だった。四級は簡単であまり役に立たないスキルらしいけど、貰えると嬉しいものだ。
「うふふ…二人は勤勉ね。今後の活躍が楽しみですよ」
この結果に杉咲先生は満足げだ。
美術部を立ち上げてから、先生はやけに浮かれている気がする。もしかして二年前に無くなった美術部に未練でもあったのかな。
「先生……これもお願いします」
すると五十鈴さんは部活申請書の紙を先生に渡した。
「あ、そういえばまだでしたね」
先生がそれを受け取る。
これで僕と五十鈴さんは正式な美術部の部員だ。
「それじゃあ失礼します」
「失礼します……」
僕らはお辞儀をしつつ職員室を後にする。
今日は合格証を貰うだけで、芸術室には寄らずこのまま帰るつもりだ。
「……」
五十鈴さんは嬉しそうに合格証を眺めていた。
ただ芸術室の整理をするだけの集まりだったのに、美術部を立ち上げて一週間で検定試験に合格…なんだか色々なことが怒涛に進んだな。
「…あ、五十鈴さん」
僕はあるものを見つけて五十鈴さんを呼んだ。
「あの掲示板、色々なコンテストが張り出されてますよ」
大学部の職員室前掲示板には様々なポスターがびっしりと張られている。イラストコンテスト、俳句コンテスト、グラフィックコンテスト…すごい数だ。
それだけ外部の人が華岡の天才を注目してるということだ。
「いろいろ挑戦したいな……」
五十鈴さんはどれも興味津々のご様子。
僕らには無縁だと思っていた美術部だけど、こうして見るとやれることは多そうだ。
「これから頑張りましょうね、部長」
僕がそう呼ぶと五十鈴さんの瞳が輝く。
「うん、がんばろう……!」
14 何かの賞をとる。×