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64 美術部②




 杉咲先生が運んできたダンボールは職員用エレベーターを使って五階に運ばれ、取りあえず廊下に積まれることになった。


 ダンボールの中には美術品っぽいのが色々詰まっていた。

 確かにどれも捨てるには惜しい作品ばかりで、杉咲先生のとっておきたい気持ちも分かる。華岡学園は無駄に広いんだから、これらを展示できるような場所とかないのかな。


「それじゃあ先生は職員室に行って、部活の申請書を持ってきますね~」


 そう言って杉咲先生はこの場を後にする。


「僕らは中で休憩しましょうか」


「うん……」


 重い物を運び終えた後だから、まずは休憩だ。

 あの量のダンボールを芸術室に入れるなんてすぐできることじゃないから、ゆっくりのんびり整理していこう。





 芸術室の中はカーテンで日の光を遮っても少し暑い。でもこの部屋には高性能の冷暖房器具が置いてあるから夏も快適だ。お茶も美味しいし…学校でこんな贅沢してていいのか、たまに不安になるよ。


「…ここの倉庫整理も部活動の一つになるんですよねぇ」


 一息ついたところで僕は、ここでの集まりが美術部の活動になることを再認識する。


「うん……美術部って、他に何をすればいいのかな……?」


 五十鈴さんはお茶を飲みつつ首を傾げる。

 勢いで部活を立ち上げたのはいいけど、美術部だからこそのやりたいことはまだ何も決まっていない。


「例えば、こういうのを作ったりするんじゃないですか?」


 僕はその辺に置いてあるダンボールの中から、木彫りの熊を手に取った。これも華岡の生徒が作った物だろうけど…どうやってこんな精巧に作ることができるんだ?


「難しそう……」


 五十鈴さんも近くの作品を見て難しい顔をしている。

 お互いに美術に関して素人だから、ここにある物を見本に作品を生み出そうとするのはハードルが高すぎるな。


「あとコンテストや検定を受けて、実績を作ることですね」


 仕方ないから他の目標を探してみよう。


「それ、やりたいことに書いてある……!」


 そう言って五十鈴さんはやりたいことノートを開いて見せてくれる。そこには“何かの賞をとる。”と書かれていた。


「英語とか漢字とか、検定試験に合格して賞状を貰うの……憧れなの」


「なるほど」


 五十鈴さんに限らず、そういった賞が欲しくなる気持ちは誰にでもある。

 

「でも美術の資格って何があるのかな……?」


「うーん…」


 僕は五十鈴さんの疑問に答えられるほど美術に詳しくない。


「じゃあレタリング検定なんてどう?」


 するとタイミングよく杉咲先生が戻ってきた。


「レタリングって…文字の設計ですよね」


「そうそう、レタリングは美術やデザインにとってとても重要な技能なの。四級ならそれほど難しくないから初心者の二人にもおすすめですよ」


 説明をしながら杉咲先生は部活申請書を五十鈴さんに渡す。


「それ、やってみたいです……!」


 五十鈴さんは申請書を受け取ると同時に勢いよく手を上げる。


「そうですね、面白そうです」


 五十鈴さんがやるならもちろん僕もやる。

 絵を描けと言われたら困ってたけど、文字を書くなら多分だけど大丈夫。


「じゃあはい。これが参考書と画材ね」


 杉咲先生はどこからか持ち出した教材を僕らの前にどさっと置いた。


「試験の日は一週間後です」


「い、一週間!?」

 

 いくら何でも急すぎるぞ!

 来年とかもっと先の話だと思ってたのに…


「四級ならしっかり予習すれば合格できますよ。頑張りましょう」


 何故か杉咲先生は生き生きしている。

 どうして僕らよりもやる気なんだ?


「園田くん、かんばろう……!」


 いや、五十鈴さんもやる気に燃えていた。


「…頑張ります」


 こうなったらもうやるしかない。

 しばらく夏休みの予定もないし、宿題も全て終わらせている。この有り余る時間を使って出来る限りの努力をしてみよう。

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