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63 美術部①




 プールに行ってから数日、夏休みも中盤に入った。


 僕は予定のない日はクーラーの利いた部屋で、朝からずっとゲームをしている。五十鈴さんたちと遊ぶのはもちろん楽しいけど、こういう日も僕には必要だ。


 次の予定に夏祭りがあるけど、それは一週間以上も先の話。

 その日までのんびりしてよう…


 ピピピ


 ゲームの電源を入れようとしたらスマホが鳴った。

 誰からだろう……五十鈴さんからの電話だ。


「はい、もしもし」


『園田くん……ちょっといい』


「なんでしょう」


『その、今日これから芸術室に行ってみない……?』


「学校の芸術室ですか?」


『うん……杉咲先生から連絡があって、また芸術室の物が増えたんだって……』


「またですか…」


 杉咲先生の倉庫である高等部五階の芸術室。僕らはそこを避難場所として使わせてもらってるんだけど、最初はとにかく中に物が多くて足の踏み場もない環境だった。


 やっと座ってお茶できるスペースが作れたのに…杉咲先生の捨てられない癖には困ったものだ。


『だから今日、整理しに行こう……』


「いいですよ」


 今日も家でのんびりしようと思った矢先だったけど、五十鈴さんからのお誘いなら是非もない。





 そんなこんなで学校の校門前まで来たけど。


「ファイトー!」

「オー!」

「オー!」


 学校の敷地内から運動部の大きな掛け声が聞こえる。

 早朝の暑い中、ご苦労様です。


 こんな僕にも部活に対する憧れは多少あるけど、家庭の事情でずっとやれなかった。それに今は五十鈴さんたちとの付き合いを優先したいし、今後も部活に所属することはないと思う。


「……」


 しばらく待っていると、制服姿の五十鈴さんが駆け足でやってきた。


「おはようございます、五十鈴さん」


「おはよう、園田くん……」


「それじゃあ行きますか、芸術室に」


「うん……!」


 二人揃ったところで僕らは校門をくぐり、芸術室に向けて無駄に広い敷地を歩く。


「暑いですね~」


「うん……暑い」


「杉咲先生、次はどんな物を持ってきたんでしょうね」


「面白そうな物がないか、楽しみ……」


 夏休みに五十鈴さんと学校に集まり、二人きりで他愛もない雑談をする………僕は幸せ者だ。


「あ、お二人さ~ん」


 歩いていると杉咲先生に遭遇した。

 大量のダンボールが積まれた荷台を押しているところを見ると、荷物を芸術室に運んでいる最中のようだ。


「おはようございます」


「おはようございます……」


 取りあえず僕と五十鈴さんは挨拶をする。


「重そうですね、僕が運びますよ」


 荷台にはかなりの荷物が積まれていてすごく重そう。

 ここは男である僕が引き受けるべきだ。


「あら、ありがとう」


「私も手伝う……」


 杉咲先生と五十鈴さんはいくつかのダンボールを持ち上げ荷台を軽くしてくれた。


「いや~助かりましたよ。美術部員がいてくれたら、その子たちにお願いするんだけど」


 歩を進めながら先生はそんなことをぼやく。


「美術部員、いないんですか?」


「いろいろあって美術部は二年前になくなっちゃったのよ」


「そうだったんですか…」


 なんだか妙な話だな。

 天才が集まる華岡学園なんだから、芸術家の卵なんていくらでもいるだろうに。


「また美術部、作らないんですか……?」


 すると五十鈴さんが珍しく先生に質問する。


「今のところやりたいって言う生徒がいないからね~」


 美術部か…平凡な僕には縁遠い部活だ。

 五十鈴さんも興味ないだろう。


「……やりたいです、美術部」


 そんな僕の予想を裏切る発言をする五十鈴さん。

 まさか…美術部を立ち上げたいってこと!?


「え?」


 あまりに唐突だったから杉咲先生も面食らっている。


「無理ですか……?」


「えっと、無理ではないですよ。顧問の承認があれば一人からでも作れます」


 部活ってそんなに簡単に立ち上げられるのか?

 これも華岡学園ならではだな…


「芸術室の集まりを……部活に……!」


「ああ、なるほど」


 杉咲先生は五十鈴さんの言いたいことが分かったらしい。


「芸術室の集まりを部活動の一環にするのね。それなら正式な課外活動として認められるから、人に知られても問題は起きないわ。それで私は美術部の顧問として二人を見守れる」


 …なるほど、そう聞くと部活を立ち上げる利点はあるな。


「もちろん部活になっても、芸術室のことは公にしないからね」


「はい……!」


「じゃあこの荷物を運び終えたら、申請書を渡します」


「お願いします……」


 二人だけでずんずん話を進めてるけど、本当に部を立ち上げるの?思いついてから実現するまでが早すぎるぞ!


 でも………まあいいか。


「部活……」


 隣に並ぶ五十鈴さんは嬉しそうだ。


「もしかして部活に入ることもノートに書かれてました?」


「ううん……私は普通の学校生活すらままならないから、部活は無理だって諦めてたの。でも、本当は憧れてた……!」


「…そうですよね。部活も青春の一つですから」


 五十鈴さんの気持ちはよく分かる。

 でもこの展開は予想外だ…やっぱり五十鈴さんと一緒にいると、何が起きるか分からないな。

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