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61 暇の使い方




 みんなで湖島園に行った次の日の早朝。


「……」


 自室で目を覚ました五十鈴さんは、ベッドから体を起こそうとする。


「んん……」


 だがとてつもない疲労感に襲われ体を起こすことができない。

 友達とショッピングをした次の日に園田くんと泳ぎの練習をして、その時点でかなりの体力は消費していた。そして残った体力は全て湖島園で使い切ってしまった。


 体力はもうすっからかん。

 筋肉痛で動くこともままならない。


「ふぅ……」


 それでも五十鈴さんは辛くはなかった。

 疲れ切った体は充実感に満たされていて、病院のベッドで身動きが取れなかった時とは大違いだ。


「んん~……!」


 それでも頑張って体を起こした五十鈴さんは、勉強机に座ってやりたいことノートを確認した。


「十六、十七……」


 そして達成した項目にチェックを入れる。

 ショッピングの予定が決まってからは目まぐるしく動いていたので、今までノートにチェックを入れる暇もなかった。


「十八……!」


 学校生活が始まって三カ月、達成したやりたいことは18にもなった。不慣れな学校生活の中でこれだけ達成できれば快挙だろう。


「うーん……」


 そして五十鈴さんは考えた。

 次は何をしようと。


 疲れている今日くらいは休めばいいと一般人なら思うだろうが、五十鈴さんはいつだって焦っている。多くの青春を病院の中で過ごしていたので、今という貴重な一日を無駄にしたくはなかった。




“忙しない日々の中にある暇って、すごく楽しいものなんだよ”




 その時、やりたいことノートを一緒に書いてくれた先輩の言葉を思い出す。


「暇が……楽しい……」


 五十鈴さんは今でもその言葉の意味を理解できていない。十年以上も病院で退屈に苦しめられたのだから無理もない。


 だがここは先輩の助言に従い、五十鈴さんは今日一日を暇な日として持て余してみることにした。


「……」


 ひとまずベッドに戻って横になってみる。


「……」


 そして五十鈴さんは無意識に、今までのことを思い返していた。


 園田くんと出会ってから、本当にいろいろなことが起きた。

 もちろんいい思い出だけではない。せっかく園田くんから一般生徒としてのノウハウを教わったのに、それを生かせず散々なスタートとなってしまった。

 それでも西木野さんやたくさんの友達と出会い、いつの間にかグループと居場所が作れていた。学校から逃げ出したりもしたけど、今では充実した学生生活を送れている。


 五十鈴さんは楽しかったことを思い出し、くすりと笑みを溢していた。


「……」


 そこで五十鈴さんは気付いた。


「これが、暇を楽しむ……ってこと?」


 何もせずただ楽しい思い出に浸る。

 それは暇でなければできない、最上の一時だと五十鈴さんは感じた。

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