58 みんなでプール➂
僕らはずっと波のプールに浮かびながら、静かな一時を過ごした。
「はぁ…」
「ん…」
「ふぁ~」
僕、木蔭さん、朝香さんで同時に欠伸をしてしまった。このまま水に浮かびながら一日を終えるのも悪くない気がしてくる。
「おりゃー!」
そんな平穏に魔の手が襲い掛かる
急にネッシーの浮き輪が転覆してしまった。
「びっくりした~」
「目が覚めた…」
朝香さんと木蔭さんは慌てながらも浮き輪にしがみ付く。転覆してもこのネッシーは勝手に体制を立て直すから、非常時でも頼りになる浮き輪だ。
「こんなでかいプールに来てるのに、波の上で浮かんでるだけなんて勿体ないよ~」
犯人の星野さんは楽しそうに笑っている。
向こうで遊び回った後だからか、いつもよりテンション高いぞ。
「どうしたんですか星野さん」
僕も浮き輪にしがみ付き、星野さんに用件を尋ねる。
「そろそろお昼だから、一度合流しようって西木野さんが言ってるよ」
もうそんな時間か…午前はあっという間だったな。
「じゃあ星野さん、岸まで運んで~」
朝香さんはまた浮き輪の特等席に居座ってしまった。
よほどこの浮き輪が気に入ったみたいだ。
「世話の焼ける友達だなぁ」
そう言いつつも星野さんはネッシーの手綱を引っ張ってくれた。
※
湖島園の中には珍しい食べ物の出店がいくつもある。
そんな中で僕らが選んだのは、海の家をモチーフにした店だ。ここは定番料理しか取り揃えてないから他より見劣りするけど、室内に敷居があるから周囲の視線を遮ることができる。
ここなら五十鈴さんの気も休まるだろう。
「じゃあウォータースライダーは四つある内の三つを遊んだんですね」
僕はラーメンを食べながら“遊ぶ組”がしていたことを聞いていた。
「そうそう、後一つで制覇なんだ」
そう答える西木野さんが選んだ料理は焼きそばだ。
みんなが注文した料理は平凡なものばかりだけど、こういう所で食べると美味しく感じるんだよね。
「楽しかった……」
「楽しかったよね!」
「来てよかった!」
一緒に回った五十鈴さん、昴、星野さんも満足げな様子。これといったトラブルもなく順調に遊べてるようだけど…
「そういえば、そっちに野田さんや池永くんが行きませんでした?」
「え?来てないけど…湖島園にいるの?」
「ええ、数時間前に会ったんですけど」
「へ~奇遇だな」
西木野さんが知らないってことは、二人は一歩を踏み出せなかったみたいだ。水着バージョンの五十鈴さんを前にしたら無理もないか。
「それより最後のスライダーなんだけど、あれって四人用なんだよな」
二人のことはあっされ流され、西木野さんは話を進める。
「スライダーで四人ですか?」
「ほら、ゴムボートに乗って一緒に流されるタイプのやつ」
「ああ~そんなのもありましたね」
テレビとかで見たことあるやつだ。
流石は湖島園、何でも揃ってるな。
「せっかく七人もいるんだから、四三に分かれてみんなで行こう」
西木野さんがそう提案する。
「いいですね」
「行ってみたいかも…」
「私もいく~」
僕、木蔭さん、朝香さんも頷く。
いくら省エネ組だからといっても、ここまで来たんだからウォータースライダーの一つくらい遊びたい。
「出雲さんも、今度は一緒に滑ろうな~」
「…」
西木野さんはそう言って隣を見るけど、出雲さんは無反応でおにぎりを食べている。
どうやらこれまでの三つのスライダー、出雲さんは一つも滑っていないようだ。やっぱりまだ五十鈴さんグループに馴染めてないか。
「組み合わせをグーパーで決めようかと思ったけど、私が決めていいかな?」
すると西木野さんは妙な提案をする。
「…別にいいですけど」
僕はそう言いつつみんなの反応を見るけど、誰も異論はなさそうだ。別に誰と組もうが問題ないからね。
「じゃあ園田、五十鈴さん、出雲さんで一組。残りの私たちで一組な」
西木野さんがさらっとメンバーを分ける。
出雲さんと一緒か…僕なんかと組んで大丈夫なのかな。
「…」
出雲さんは反論せず受け入れているみたいだけど…なんだかさっきよりも顔色が悪い気がする。
「男を見せろよ、園田」
そしたら西木野さんが意味深なことを呟いて僕の肩を叩く。
…あれ?
なんか嫌な予感がしてきたぞ。