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57 みんなでプール②




 集まったのは僕を含めて八人というなかなかの大所帯だ。 

 ずっと集団行動をするのは非効率だし、集まった人全員が遊び回りたいわけじゃない。ということで西木野さんはこの八人を“遊ぶ組”と“ゆっくり組”で分けることにした。いろいろ歩き回って様々なアトラクションを効率よく回りたいなら遊ぶ組で、休憩したり静かにプールを堪能したいならゆっくり組だ。


 五十鈴さんはもちろん“遊ぶ組”から始まる。

 ここまで来てゆっくり組になんていられるはずがないよね。それと活発な星野さんと昴、引率役として西木野さんと出雲さんも加わり五人でアトラクションを遊び回っている。


 そして僕がまず選んだのは“ゆっくり組”だ。

 あっちはすでに大人数だし、僕は進んで遊びに行くほど活発でもない。浮き輪でも膨らませてプールに浮かぶだけで満足なんだ。


 ということで僕は巨大な浮き輪に体を預けて、波のプールに揺られながら空を仰いでいた。


「…」


 空が青いな…波の音が静かで、周囲の賑わいも遠くに感じる。実際に五十鈴さんが離れてるからそうなんだろうけど。


「園田くん、いい浮き輪持ってるね…」


 同じくゆっくり組の木蔭さんも、浮き輪に身を預けてのんびりしている。


「妹がどうしても欲しいと言って買ったやつです。念のため持ってきておいて正解でした」


 この巨大浮き輪は僕が持ってきたものだ。

 ネッシーというUMAがモデルになっていて、四枚のヒレと背中を合わせて五人同時に使える優れもの。最初は出そうか悩んだけど、朝香さんが遊びたそうだったから売店に頼んで膨らませてもらった。


 僕と木蔭さんはヒレに掴まり、真ん中は朝香さんが独占している。


「ゆらゆら海にいるみたいで心地いいね~」


 朝香さんは特等席でゴロゴロしているけど…なんだか目のやり場に困るな。胸の大きさなら集まった女子の中で一番だから。

 五十鈴さんの魅力を前にすればそれすらも霞んでしまうけど。


「でも五十鈴さんと一緒にプールまで来て、こんなことしてていいのかな…?」


 木蔭さんはのんびりしつつも不安そうに呟く。


「後で合流すればいいんですよ。時間はまだまだたくさんありますから」


 別にずっと五十鈴さんと一緒にいる必要はない。

 そのために“ゆっくり組”と“遊ぶ組”で分けて遊べるようにしたんだ。こうしてのんびりすることに飽きたら向こうに行けばいいし、五十鈴さんも疲れたらこっちに合流するかもしれない。


「そうだね…じゃあもう少しゆっくりしてよう」

「ゆっくりしよ~」

「それがいいですよ」


 こうして僕ら省エネ三人組は、浮き輪に身を委ねながら波に流されるのだった。





「…あれ?」


 浮き輪に乗ってのんびりしていると、見覚えのある人をプールサイドで発見した。

 クラスメイトの池永くんと野田さんだ。


「あ、園田くんと朝香さん。こんにちは」


「奇遇なのだ~」


 二人は僕らを見つけるとすぐ挨拶してくれる。

 いきなり知り合いと遭遇してしまった…覚悟はしてたけど、やっぱりみんなここへ遊びに来るんだな。


「池永くんと野田さん、こんにちは。二人でプールですか?」


「いや、ここで野田さんに会ったのは偶然だ」


「私たちは別々の友達と遊びに来たのだ」


 なるほど、二人は別グループでここに来たのか。

 ということは他のクラスメイトもたくさん来てそうだな…


「それにしても園田くん。五十鈴さんというものがありながら、朝香さんと二人きりでプールなんて…こっちが本命だったのだ?」


 野田さんが変な勘ぐりをしてくる。


「本命とかないですし、木蔭さんもいますよ」


 僕がそう言うと浮き輪の影に隠れている木蔭さんが顔を出す。


「あ、ごめんなのだ!」


「大丈夫だよ…」


 野田さんは慌てて謝罪しているけど、木蔭さんは特に気にしていない様子。


「クラスメイトの存在を忘れるなんて私に有るまじき失態…華岡に入学してから失敗ばかりなのだ」


 それなのに野田さんはショックを受けている。

 そんなに思い詰めることかな?


「園田くん、どうして五十鈴さんを誘わなかったんだい?」


 次に池永くんが周囲を見回しながらそう尋ねる。


「五十鈴さんも来てるよ」


「え…このプールに来ているのかい!?水着で!?」


「うん。今頃だと西木野さんや出雲さんと一緒に、あっちのウォータースライダーを回ってるかな」


 僕は人の多い方向を指差す。

 五十鈴さんは必ず人混みを作ってしまうから分かりやすい。


「出雲さんも来てるのだ?」


 そこで野田さんは意外そうな反応をする。


「ええ、なんか最近仲良くなったらしいです」


「むむ…話し合いではあんなこと言ってたのに、隅に置けないのだ」


 話し合い?

 なんのことだろう。


「五十鈴さんと遊びたいなら呼びましょうか?」


 試しに僕はそう提案してみた。

 クラスメイトを連れて行けば五十鈴さんだって喜ぶはずだし、上手くいけば大量の友達をゲットだ。


「いやいや、ここで園田くんの力は借りないよ」


「私たちの挑戦はまだ終わってないのだ」


 池永くんと野田さんはそう張り切ると、五十鈴さんがいるであろう場所に向かって行く。


「…なんで僕や西木野さんを頼らないんですかね」

「天才の意地じゃないかな~」

「苦労してるんだね…」


 僕らは他人事のように二人を見送った。

 少し心配だけどあっちには西木野さんや出雲さんがいるから、五十鈴さんが困るような事態にはならないだろう。邪魔したら悪いし、僕はもうしばらくこのままのんびりすることにした。

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