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52 プールの前に…




 突然だが、五十鈴さんは境地に立たされていた。


「……!」


 五十鈴さんは自室で落ち着きなくうろうろしている。

 どうにかしなければならないのに、どうしていいか分からない。頭の中が混乱してまともな思考ができない状態だ。


「……ふぅ」


 それでも何とか心を落ち着つかせようと深呼吸をする五十鈴さん。そして、ショッピングの時にした会話を思い出す。





 今日のショッピングは大満足の結果に終わった。

 ショッピングを初体験して、新しい服を買えて、友達との仲も深まり、新しい友達も作ることができた。ノートにチェックを入れるには十分な一日だ。


 服を買った後、五十鈴さん一行は喫茶店でお茶することになった。


「……」


 五十鈴さんは初めてのタピオカを味わう。

 どうしてこれが人気なのかよく分からない味だが、この場の雰囲気でやたらと美味しく感じてしまう。


「そういえばこの近くに、新しいプール施設が開園したよね」


 同じくタピオカを味わっている星野さんが呟く。


「ああ…湖島園ね。ここから無料の送迎バスが出てるよ」


「去年、ゆーちゃんと二人で行ったことあるよね~」


 西木野さんと朝香さんは去年の思い出を懐かしんでいる。


「みんなで行ってみたいね!」

「いいな」

「楽しそう~」


 星野さん、西木野さん、朝香さんはプールに行く話で盛り上がっている。


「…」

「…」

「……」


 だが他の三人は乗り気ではなさそうだ。


「私…華奢だから水着苦手なんだ…」


 木蔭さんは自分の体形にコンプレックスがあるので、肌が見える水着は好まないようだ。


「別に水着コンテストに出場するわけじゃないんだし、私らくらいしか見ないでしょ」


 そこで西木野さんが言いくるめを試みる。


「うーん…みんな、変に思わないかな…」


「私らの中で、そんなこと思う奴はいないよ」


「…なら行ってみようかな」


 木蔭さんは悩みがあるだけで、友達とプールに行くことには前向きだった。


「…」


 そしてここまで付き合わされた出雲さんは、黙ったままブラックコーヒーをすすっている。


「出雲さんも来る?」


「興味ないな」


 出雲さんは本当に行きたくなさそうだった。


「ふーん…あの五十鈴さんが水着でプールなんて、守ってくれる人がいないと不安なんだけどな~」


「…」


 西木野さんがわざとらしく煽ると出雲さんの目の色が変わる。

 五十鈴さんが水着姿で衆目にさらされれば、何が起きても不思議ではない。自分が護衛に付かなければ親衛隊の名折れだ。


「同行する」


 出雲さんの判断は早かった。


「五十鈴さんも行けるよね?」


「……行きたい」


 五十鈴さんはすぐ返事をするが、何やら不安がっている様子が見て取れる。


「もしかして五十鈴さん…水着も持ってないの?」


 それを感じ取り、西木野さんは不安がっている理由を言い当てる。


「あ……う、うん」


 慌てて頷く五十鈴さん。

 残念ながら今回の西木野さんの予想は外れているのだが、水着を持っていないのは事実だ。


「私も持ってない…」

「私もだ」

「私ももう前のサイズは着れないかも~」


 さらに木蔭さん、出雲さん、朝香さんも水着に困っていた。


「じゃあ今日は最後に水着選びをして、後日みんなでプールに行こう」


 こうして話し合いの結果、みんなでプールへ行くこととなった。


「……」


 西木野さんの提案は、五十鈴さんにとって非常に喜ばしいことだ。

 プールに行くことはノートにも書かれているやりたいことの一つなので、向こうから達成のチャンスがやってくるのだから願ったり叶ったりだ。


(……どうしよう)


 だが五十鈴さんは内心、ものすごく焦っていた。


 何故なら五十鈴さんは泳げないのだ。





 そんなことがあったので五十鈴さんは大慌てだ。


 五十鈴さんは泳げない。

 つい半年前まで病院生活をしていたのでプールや海にも行ったことがないし、小学校に通っていないので泳ぎ方も学んでいない。だからこそやりたいことノートの序盤に“泳げるようになる。”と書いたのだ。


 泳げない状態で友達とプールへ遊びに行っても、みんなについて行けず気まずいことが起きてしまうかもしれない。だからといってあの空気の中で「泳げない」と言い出せなかった。


 よって早急に泳ぎを習得する必要がある。


「……うーん」


 再び五十鈴さんは意味もなくうろうろと歩きだす。

 一人で泳ぎの練習をしようにも、どこから始めればいいのか見当もつかなかった。


「……」


 五十鈴さんはスマホを手に取り、園田くんに電話をかけることにした。


 なるべく頼らないよう心がけてはいるが、今は一人ではどうしようもない緊急事態。約束の日は二日後、そんな短い期間で泳ぎをマスターするには園田くんの力が必要だ。


「……」


 電話をかけるまでにいろいろ葛藤しつつ、園田くんの応答を待つ五十鈴さん。


『も、もしもし…』


 数秒後、園田くんは電話に応じてくれた。


『どうかしました?五十鈴さん』


「あの……お願いがあって」


『お願い?』


「その……泳ぎ方を教えて欲しいの。西木野さんたちとプールに行く約束をしたんだけど……私、泳げないから……」


『なるほど、泳ぎの練習ですね』


 園田くんはすぐ要件を理解する。


『じゃあ近くの市民プールで練習しましょうか。昴にも声をかけておきます』


「速川さんも……?」


『あいつは僕よりも泳ぎを教えるの上手ですし、泳げないからってからかう奴じゃありません。誘えば喜んで協力してくれますよ』


「うん……ありがとう……」


『それでは明日、例の公園で待ち合わせましょう』


「わかった……」


 五十鈴さんは安心して電話を切った。

 やはり園田くんはどんな時でも頼りになる。


「……!」


 後は少しでも体が動くように、五十鈴さんは寝る時間まで念入りにストレッチを繰り返した。

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