50 ショッピング②
華宮ショッピングモールは本館と別館の二つに分かれており、五十鈴さんたちが向かうのは本館二階にあるファッショングッズ専門エリアだ。
「……!」
ちょっと前までコンビニや定食屋ではしゃいでいた五十鈴さんは、広大な華宮ショッピングモールの店内に目移りしていた。見たことのない雑貨や生活用品などが目白押し、規模はコンビニとは比べ物にならない。
「じゃあ五十鈴さんに似合う服を選ぼうか」
早速、今回の目的である五十鈴さんの服選びについて西木野さんは検討する。
「やっぱり五十鈴さんの個性に合ったものを選びたいよね」
「個性……」
個性と言われても五十鈴さんはピンとこなかった。
「ほら、私らってそれなりに自分らしい服を選んでるじゃん」
そう言う西木野さんのコーデはデニムのワイドパンツにロゴの入った白のTシャツと、高めの身長を生かしたお姉さんらしいファッションだ。
「私は似合うというより…なるべく地味なものを選んでるよ」
木蔭さんは茶色のカーディガンにロングスカートと、いかにも文学少女といった落ち着いた服を着こなしている。
「私は親に任せてるから、何も考えてないよ~」
朝香さんはハイウエストのジャンパースカートを着ており、本人ののんびりとした雰囲気が相まって森ガールのような印象を生み出していた。
「私は動きやすい恰好ならなんでもいいかな」
星野さんは園田くん家で遊んだ時と同じ、パーカーにショートパンツという組み合わせ。どうやらフード付きのパーカーがお気に入りのようだ。
「なるほど……」
みんなの私服姿を見て、五十鈴さんは自分に合った服選びの重要性を学んだ。
「……私の個性って、なんだろう?」
服選びについて分かったところで、五十鈴さんは改めて疑問に思う。自分はいったい何系の服が似合うのだろうか。
………
みんなは口を閉じたまま腕を組む。
「言っちゃうと…何着ても許されるルックスしてるよ、五十鈴さん」
そして西木野さんが結論を述べる。
「モデルがそのままで100点だからねぇ」
「何着ても似合いそう…」
「着飾る必要、そんなないよね~」
他の三人も同意のようだ。
「???」
五十鈴さんはみんなの言っていることの意味が分からなかった。何故なら個性どころか、自分が絶世の美少女であることを自覚していないからだ。
「でも五十鈴さんはハーフだから、外国人っぽい見た目を生かす欧米風ファッションが無難なのかな」
そこで西木野さんは方向性だけでも決めることにした。ノルウェーのハーフという特徴、それを五十鈴さんですら理解できる明確な個性だ。
「二組に分かれて、五十鈴さんに似合う服を探してみよう」
※
こうして五十鈴さんたちの服選びが始まる。
五人は西木野さんと木陰さん、星野さんと朝香さんの二組に別れて服を探し、五十鈴さんはモデルとなって試着に専念することになった。
「むぅ…」
「うーん…」
西木野さんと木蔭さんは広大なファッションエリアを往復しながら、真剣に五十鈴さんに似合う服を探していた。
だが五十鈴さんの服選びは難解だった。
どんな服も似合うからこそ、どれが正解なのか分からない。人並み程度のセンスでは五十鈴さんの魅力を100%引き出すのは至難だ。
「ねえ木陰さん、これとかどうかな?」
「いいかも…五十鈴さんに試着をお願いしてみよ」
二人は選んだ服をカゴに入れる。
「五十鈴さんたちはどこかな~?」
西木野さんは星野さん組を探して周囲を見回す。
「…」
そして発見した。
「一周回ってクソダサTシャツなんてどうかな」
「おお~似合いそう」
星野さんと朝香さんはそれほど真面目に服を選んでいないようで、変な服を五十鈴さんに着させようとしている。
「……」
二人が選ぶ衣服を前に五十鈴さんはやや尻込みしているが、まんざらでもなさそうだ。
「楽しそうだなぁ」
そんなやり取りを見て西木野さんは苦笑する。
「…ん?」
その時、木蔭さんは別方向を見て何かに気付いた。
「どしたの?」
「離れたところで…出雲さんが、五十鈴さんのこと見てる…」
「出雲さんが?」
「ほら、あっち…」
木蔭さんが指を差す先には、高身長の女性が隠れながら五十鈴さんの方を見ていた。
同じクラスの生徒である出雲八恵さん。
身長は高校一年女子の中で最長の180cm以上。長い黒髪には一本の毛羽立ちも乱れもなく、きりっとした表情と凛とした佇まいは、高身長も相まって隙のないオーラを放っている。
そんな彼女を一言で形容するなら“武士”という単語が的確だろう。
(五十鈴さんを見てる…そういえば出雲さん、例の親衛隊に入ったんだっけ。まさかその任務でとか?それとも偶然?)
西木野さんはそんな考察をしながら出雲さんを観察する。
(どちらにしても、隠れてこそこそと…もっと普通にクラスメイトとして仲良くなれないものかね)
五十鈴さんのファンクラブである“五十鈴親衛隊”に所属するからには、出雲さんもきっと五十鈴さんと仲良くなりたいはずだ。それなのに声をかけず遠巻きから眺めているだけ。
この距離感に西木野さんはもやもやしていた。
(といっても出雲さん、隙がないんだよね。声をかけに行っても逃げられそうだし…)
そう考えた西木野さんは、木蔭さんを見てある作戦を閃いた。
「…ねぇ木蔭さん、ちょっといい?」
「?」