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49 ショッピング①




 華宮ショッピングモール。

 華岡学園のある“華ヶ丘市”周辺に住む住人が買い物に行くとなったら、まずここが思い浮かぶだろう。広大な店内には食料品、生活用品、家具、雑貨など思いつくものなら全て揃っている。広い地域から無料の送迎バスが出ているので、気軽に足を運べるのも利点だ。


 そして若者にとっても、ここは格好の遊び場だ。ゲームセンター、ボウリング、カラオケなど様々な娯楽施設があり、食事ができるレストランやフードコートも豊富。近くに公園もあるので、家族連れで休日を過ごすのにもうってつけだ。


 暇な時はどうしよう?

 取りあえず華宮に行こう!


 そんな会話が日常的に交わされるくらい、華宮ショッピングモールは人気を誇っている。





 ショッピングに行く約束をした次の日。

 五十鈴さんは唯一の外出用衣服である華岡学園の制服に身を包み、送迎バスを降りて待ち合わせ場所であるバス停前で待機していた。


「……」


 当然だが五十鈴さんは緊張していた。


 五十鈴さんはバスを利用する長距離移動は初めてで、ショッピングモールのような大きな建物に入るのも初めて。そして学校外で友達と待ち合わせるのもこれが初めてだ。


 更に人気のあるショッピングモールなら人も多い。

 夏休み中なら尚の事だ。


「え、なにあの美少女…!」

「どこかの芸能人?」

「あの制服…華岡だよね」


 華宮ショッピングモールに降臨した超絶美少女の五十鈴さんに、道行く人々が注目しないはずがない。


「……」


 五十鈴さんは時計を確認する。

 気が急いて約束の時刻より早く来てしまうのはいいのだが、周囲の人に注目されてしまうこの状況はとても辛い時間だ。


「……」


 手持ち無沙汰な五十鈴さんは家を出る前、母親から渡された鞄の中身を確認してみた。中にはハンカチ、財布、エコバックなど買い物に必要な物が揃っている。


『ようやく買い物へ行く気になってくれたのね』


 そしてお母さんの言葉を思い出す五十鈴さん。


 これまで何度も服を買いに行く機会はあったが、五十鈴さんにはそれを拒み続ける訳がある。

 まずこの多くの視線に耐えられるメンタルが、退院したての頃はなかった。親に任せるという手段もあったのだが、自分で着る服は自分で決めたかったのだ。


「おーい、五十鈴さん」


 しばらくすると五十鈴さんの前に西木野さんが現れた。


「五十鈴さん早いねぇ」

「おはよ…五十鈴さん」

「お~みんな揃ったね~」


 続けて三人の女子が五十鈴さんの前に現れる。

 星野さん、木蔭さん、朝香さんだ。


「おはよう……」


 五十鈴さんは異国の地で知り合いに会えたような安心感を覚えた。


 今の五十鈴さんには多くの視線に耐えられるメンタルがあり、一緒にショッピングに付き合ってくれる友達がいる。

 この場に園田くんはいないが、もう心細くはない。


「じゃあいきますか」


 メンバーが集まったところで、西木野さんが先陣を切ってみんなの前を行く。


「西木野さんって根からの委員長タイプだよね」


 その姿を見て星野さんが小声で呟く。


「頼もしい……」

「ゆーちゃんは昔から世話焼き好きだからね~」

「あの行動力…私にも分けてほしいよ」


 五十鈴さん、朝香さん、木蔭さんはそんな会話をしつつ西木野さんの後に続いた。

 いつしかこの集まりは“五十鈴さんグループ”と呼ばれるようになったが、何かする時はいつも西木野さんが中心になっているので“西木野さんグループ”と呼ぶ方が正しかったりする。


「…ところで星野さん、それが今日のラッキーアイテム?」


 歩きながら木蔭さんはもはや恒例となった、星野さんの持ち物チェックに入る。今日はハンガーが握られていた。


「今日の運勢は絶好調なんだ。“新しい友達が増えるでしょう”だってさ」


「ショッピングモールで…?」


「上位の結果だから当たると思うよ」


「へ、へぇ~…」


 みんなは星野さんの占い話を真に受けてはいないが、五十鈴さんはそれを聞いてつい期待してしまう。


(新しい友達……)


 今日一日が楽しい日になることを予感しつつ、五十鈴さんたちは華宮ショッピングモールに向かった。

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