46 友達とゲーム①
宿題を終わらせて夏休みの本番はこれから…と意気込んだはいいものの。
「暇だ…」
僕はクーラーの効いた自室で、ベッドの上に寝転びながら漫画を読んでいる。
勉強会を終えて一週間が経過したけど、あれから誰とも会ってないし今日も明日も予定はない。
「だらけてるねぇお兄ちゃん」
椅子に座ってゲームをしている妹の楓が、僕を見て呆れている。
何で僕の部屋に妹がいるのかというと、夏はクーラーの効率化を考えてどこか一つの部屋だけつけて過ごすようにしている。とはいえ一つのクーラーにだけ負担はかけられないから、今日は僕の部屋、明日は妹の部屋、明後日は居間とループさせている。
親が不在の兄妹生活だから、いろいろ工夫してるんだ。
「今年の学校生活は疲れたから、休み中くらいはのんびりしたいんだ」
高校生活が始まってから…いや、五十鈴さんと出会ってからか。僕の平凡だった日常は、まるでドタバタ学園コメディーのような日常に変わってしまった。
別に五十鈴さんとの学校生活は嫌じゃないけど、心を休めるプライベートの時間はどんな人間にも必要だと思う。
しかし…そうも言ってられない。
何故なら勉強会から、五十鈴さんの音沙汰がないからだ。
やっぱり自分から行動に移すのはまだ無理なのかな。だとしたら他のみんなの誘いを待つか、僕が行動に出るか…でも僕は会って間もない女子組を集めるほどの行動力はないし。
「ねぇ見て。スイカゲームでスコア3500いったよ」
悩んでいると楓がゲーム画面を見せてくる。
それは最近流行りのパズルゲームだ。
「お、ついに到達したのか」
「次は世界記録目指そう」
「よくやるな…」
楓はあらゆるものにチャレンジしていつも忙しそうだ。僕も妹を見習って、五十鈴さんグループに何か提案してみようかな。
ピロリン
そう思っていると、スマホからにゃいんの通知音が鳴った。
「…」
相手は星野さんからだ。
しかもグループじゃなく僕宛のメッセージだ。クラスメイトの女子からの連絡って、特に理由もなく緊張してしまう。
『ゲームしよう!』
でもその内容は、なんだか男子みたいだった。
ゲームか…そういえば前に星野さんと、ゲームの話題で盛り上がったっけ。
『いいですよ。場所はどこにします?』
僕は返信してやりとりを続ける。
『私の家でもいいけど…園田くん家はどうかな?』
『うちだと付属品で妹がつきますよ』
『いいじゃん。紹介してよ』
『じゃあ僕の家ですね、分かりました。何時にします?』
『今日の昼!』
『急ですね…いいですけど』
すごい勢いで話が進むな。
星野さんって見た目は大人しそうな女の子なのに、中身は西木野さんや昴と同じ活発タイプなんだよね。因みに控えめタイプは五十鈴さんや木蔭さんとかだ。
『じゃあ五十鈴さんも誘うね』
星野さんがそうメッセージを送る。
………それって、五十鈴さんがうちに来るってこと?
『五十鈴さん、オッケーだって』
僕がフリーズしている間も、話はどんどん進む。
『あんまり大勢でお邪魔するのもあれだから、今回は私の園田くんと五十鈴さんの三人でやろう。妹ちゃんを合わせて四人なら、パーティーゲームでもあぶれないし。それじゃあお昼過ぎにお邪魔するね!』
しかもあっさりと決定してしまった。
五十鈴さんが僕の家に遊びに来る…これは一大事だぞ。
「おい、妹よ」
「なんだい、兄」
「お前って僕が風邪で寝込んでるとき、五十鈴さんに会ってるよな?」
「…この前お見舞いに来てくれた美少女さんだよね」
「その人が今日、うちに遊びに来ることになった」
実は五十鈴さんが家に来るのはこれで二度目になる。でも僕は風邪で寝込んでたし、五十鈴さんも遊びに来たわけではなかった。
つまり友達の家へ遊びに行くのは、五十鈴さんにとって初めての体験になる。しかも前に見たやりたいことノートには“友達の家に遊びに行く。”と書いてあった。
ならば五十鈴さんを満足させるよう、全力でおもてなししなければ。
「それと星野さんっていう女子も一緒にくるから、楓も来客の準備をしてくれ」
「…」
妹はゲームの手を止めて、気味の悪い笑みを浮かべる。
「高校デビューしていきなり女子二人を連れ込むなんてやるねぇ…一生に三度あるモテ期の第一波が、ついにお兄ちゃんにも来たんだ」
「いや、二人はただの友達だ。ていうか僕にそんな可能性なんてあるわけないだろ」
「だよね~」
妹は一瞬の間も置かず肯定しやがった。
実際にその通りだからいいけど。
「それより準備だ。僕が掃除するから、楓は茶菓子の準備を頼む」
「はーい」
夏休み最初のイベントは星野さんたちとのゲーム大会だ。それはいいんだけど…五十鈴さん、ゲームできるのかな?