44 夏休みに入る前に
期末テストを終えると華岡学園は夏休みに入る。
学校に行かなくてもいい長期休みはとても嬉しいんだけど、五十鈴さんとの学校生活がストップするのは寂しくもある。何だかんだで僕も、このてんやわんやな日々を楽しんでいたんだ。
「園田くん……」
放課後の芸術室。
物で溢れかえるこの部屋を整理している最中、五十鈴さんは僕を呼んだ。
「はい?」
「夏休みって……どうすればいいの?」
「…」
夏休みをどうするか…
漠然とした質問だ。
「どうするも、やりたいことは沢山あるんですよね?」
「う、うん……」
五十鈴さんはやりたいことノートを取り出して僕に見せてくれる。開いた中身は今まで見たことのない、新しいページだった。
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31 友達の家に遊びに行く。
32 友達を家に招待する。
33 ショッピングに出かける。
34 公園で遊ぶ。
35 駄菓子屋に行く。
36 カラオケで歌う。
37 ボウリングでストライクをとる。
38 プリクラを撮る。
39 映画館に行く。
40 お泊り会をする。
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その内容は、友達と一緒に遊ぶにはもってこいのものばかり。
「それと……こっちも」
さらに五十鈴さんは次のページを捲る。
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41 大きなプールに行きたい。
42 海にも行きたい。
43 花火で遊ぶ。
44 夏祭りの屋台制覇。
45 花絶景を見に行く(夏)
46 ~の秋を満喫する。
47 お月見する。
48 落ち葉で焼き芋を焼く。
49 ハロウィンでお菓子を貰う。
50 花絶景を見に行く(秋)
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こっちも友達と遊ぶ系だけど、季節の定番を詰め合わせた内容になっている。夏休みの間だったら41~45までの達成が狙えそうだ。
これだけやりたいことがあるのに、五十鈴さんは何を悩んでいるんだ?
「でも……学校の外で、どうやって友達と会えばいいのか分からない……」
「ああ…なるほど」
今までは学校に行けば友達と会うことができたけど、夏休みに入ると学校に行く必要がなくなるから友達と会う機会がなくなってしまう。
それも五十鈴さんにとって初めての経験だ。
「それは自分で考えるのよ、五十鈴さん」
すると芸術室の奥から杉咲先生が会話に入ってきた。
大学部の女性教師である杉咲先生は、五十鈴さんの事情を知っている数少ない味方だ。この倉庫みたいな部屋は整理する代わりに、避難場所として僕らに使わせてくれた。
「学校が夏休みを設けるのは、生徒の自立性を養うためでもあるの」
「自立性……?」
「先生や親の保護が及ばない所で、友達と集まって普段はできない大きなことをするの。だから五十鈴さんもステップアップして積極的に友達を引っ張っていきましょう」
「……」
先生からありがたい助言を賜ったけど、五十鈴さんにそれができれば苦労しない。休日に友達を遊びに誘うのは、勉強会を提案するよりも難易度の高いことだ。
僕だって五十鈴さんを遊びに誘うなんて軽々とはできないぞ。
「あ、そうだ。夏休みのことで二人に伝えることがあったんだった」
話の途中、杉咲先生が何かを思い出して手を叩く。
「二人は夏休み中もここを利用する?私は夏休みでも学校に来てるから、利用したい日があったら事前に電話で一報ください。ただ土曜日曜と、水曜日は私用があって開けられないから」
夏休みの間の芸術室の利用についてだった。
うーん…夏休み中にここを使う時がくるかな?わざわざ休み中に学校へ行くことなんてないと思うけど。
「……」
と思いきや、五十鈴さんは何かを期待する目で僕を見てくる。
「…定期的にここに集まって、夏休みの計画を練るのもいいかもしれませんね」
僕は控えめにそう提案してみた。
「……!」
五十鈴さんは勢いよく頷く。
周囲の視線で緊張していない五十鈴さんは、何を考えているか顔に出るから分かりやすい。
「初めての夏休み、頑張っていい思い出を作りましょう」
「うん……!」
夏休みに五十鈴さんと会う約束ができたのは嬉しいけど、それだけだと今までと変わらない。やりたいことノートを達成するためにも、先生の言う通りこのノートを知っている僕と五十鈴さんが積極的に動かなければ。