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43 焦るクラスメイト(女子)




 男子たちが話し合っていた次の日。


「それでは始めるのだ、第一回五十鈴さんと仲良くなろう会議」


 放課後の空き教室に集まっているのは、五十鈴さんと同じクラスの女子たちだ。男子同様女子のみんなも五十鈴さんと仲良くなるための作戦会議を開いていた。


「五十鈴さんと関わりたい…それは本能だと思うのだ」


 女子組のまとめ役を引き受けた野田さんは、語尾がとても特徴的な小柄で可愛らしい少女だ。


「猫を撫でたい、子犬を抱きしめたい、ぬいぐるみを見つけたらつい欲しくなる…それは女子なら当然のように抱く感情なのだ。それと同じように、五十鈴さんには何か本能に訴えかける魅力があるのだ」


 野田さんはまず五十鈴さんの魅力から話し始める。


「わかる…あんなの誰だって好きになるよ」

「この華岡の中でも異彩を放ってるし」

「間違いなく老若男女を魅了する美少女ね」


 集まった女子たちも同意して盛り上がっていた。


「でも…五十鈴さんはいつも無表情だし、日本語話せないし、高圧的なオーラをひしひしと感じるのだ。中学まで“友達作りの天才”と呼ばれていた私でさえ近寄りがたいほどに…なのだ」


 続けて野田さんは五十鈴さんとの距離を縮められない原因を語った。


「わかる…どう見ても庶民を見下す貴族」

「無礼を働いたら消されるやつよね」

「あの目に睨まれると、私の中のMっ気が騒ぐ…!」


 それも女子全員が同じ気持ちだ。


「でもおかしいのだ。高圧的なのに好感を持てるなんて…いったいどっちが正しいのだ?」


 野田さんを含める女子たちは、五十鈴さんの印象の矛盾について疑問を抱いていた。普通に考えればいくら美人であっても、性格が伴わなければ好感など持てるはずがない。


「わかる…五十鈴さんって実は、そんなに怖い人じゃないとか?」


 そう呟いたのは、先ほどから“わかる…”を前置きして喋っている東堂さんだ。


「あり得るよね…」

「お嬢様っていうのも噂でしかないのかな」

「見た目ほど怖くない…ってコト?」


 男子と違って女子たちは、五十鈴さんの噂が誤りではないかと疑り始めていた。


「ならもう勇気を出して抱きついてみるにゃ!」


 そう提案するのは、いかにも猫っぽい猫宮さんだ。


「でもそれで五十鈴さんに拒絶されたらどうするのだ?」


「…心に傷を負って不登校になりそうにゃ」


 猫宮さんの前向きな意見は野田さんの一言で一蹴される。

 あと一歩まで来ているのに、誰も五十鈴さんに近付けない。それだけ五十鈴さんの放つプレッシャーが強大で、誤った噂の効果が絶大ということだ。


「西木野ちゃんに頼れば何もかも解決するんだけどね」


 手短な解決案を提示する野田さん。

 五十鈴さんの正体を知っているのも、仲良くなる方法を知っているのも西木野さんだ。男子組とは違って女子組には“五十鈴さんグループ”に頼るという手段を持っている。


 だが彼女たちは、西木野さんに頼れない理由があった。


「でもその手段を使うと地味なポジに収まるよね」


 その理由を派手な見た目の朝輝さんが答えてくれる。


「“西木野ちゃんに紹介されたその他大勢のクラスメイト”とか大して五十鈴さんの印象に残らないし、仲良くなれる未来が見えないんだよねぇ~」


 近道をして五十鈴さんと接する手段はあるが、大半のクラスメイトはその手段を使うことに躊躇している。男子たちも切羽詰まる状況になって初めて園田くんとの和解を考えたくらいだ。


 天賦の才を持って生まれた華岡学園の天才たちは妥協や近道といった手段は使いたくない。目指すのは百点満点、最高の形で五十鈴さんと友達になることだ。


「うーん…そういえば出雲さん、例の五十鈴親衛隊に入隊したんだよね」


 別の案を考えていた野田さんは一人の女子に注目する。


「その通りだ」


 高校生とは思えないほど大人びた出雲さんは凛とした表情で答える。


 因みに五十鈴親衛隊とは、この華岡学園でできたファンクラブのようなものだ。超絶美少女の五十鈴さんを天然記念物のように守護する組織である。


「親衛隊になって、何か五十鈴さんの新情報とかないの?」


「…五十鈴殿と仲良くなる手段に使える情報はない」


「そっかぁ…出雲さんってずっと傍観してるだけで、五十鈴さんに話しかけたりしないよね」


「私は影で五十鈴殿を護れればそれでいい。ここにいるのも、お前たちが五十鈴さんに迷惑行為をしないか監視しているだけだ」


「う…」


 親衛隊にとって五十鈴さんに近付こうとする一派は、ただの警戒対象でしかないようだ。


「それじゃあさ…」

「でもさ…」

「やっぱりさ…」


 その後も女子組は話し合いを続けるも、これといった案は生まれず。


「…こうなったら、チャンスがくるのを待つしかないのだ。もし後期になっても成果が出せなかったら、諦めて西木野ちゃんに頼るのだ」


 野田さんたち女子組が出した結論はこれだ。

 男子組と同じく女子組も、五十鈴さんと仲良くなる方法に頭を悩ませていた。





「ふむふむ…」


 そのような会話を廊下から盗み聞きしているのは、噂好きの城井くんだ。


「何してんの?」


 その背後から西木野さんが声をかける。


「噂集めの最中だよ」


「ただの盗聴だろ…」


 珍しい組み合わせのように見えるが、城井くんと西木野さんは席が近いので割と会話をすることが多い。五十鈴さんグループとは別の“教室の隅っこ四人組”の二人だ。


「そういう西木野さんもクラスの様子が気になってるんでしょ?」


「まあね…男子共といい、華岡の天才が揃いも揃って何やってんだか。先入観を捨てて五十鈴さんに話しかければ解決するのに」


 教室で話し合っているクラスメイトを見て西木野さんは呆れている。


「助けに入らないの?」


 どこか楽し気に尋ねる城井くん。


「盗み聞きしてたんでしょ?私に頼るのは最終手段なんだとさ。それに五十鈴さんの“誤解は自分の力で解きたい”って意思も尊重したいしね」


 西木野さんがその気になれば、五十鈴さんやクラスメイトの抱えている悩みは一瞬で解決させられる。だがそれを許せないのが天才たちの厄介なところだ。


「そういう城井だって、男子たちに情報を出し渋ってるみたいじゃん」


「僕は自分だけしか知らない優越感に浸るのが好きだから」


 そう言って城井くんは悩めるクラスメイトたちを見てご満悦だ。


「…やっぱりこの学校、変な奴らばっかりだな」


 西木野さんはやれやれ顔でこの場を後にした。


 果たして五十鈴さんとクラスメイトは仲良くなることができるのか、一年生生活はまだまだ始まったばかりだ。

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