41 テスト期間② ㋨
テスト期間中、五十鈴さんは積極的に勉強会を提案した。
木蔭さんと勉強をした次の日は西木野さんが加わり、朝香さんが加わり、後から仲間外れになりたくないと星野さんも加わったりした。そして女子に囲まれる状況に落ち着かなくなった僕は、適当な言い訳をして逃げたりもした。
そんなこんなで今日はテスト当日。
赤点を取っても問題ないとはいえ、五十鈴さんの前で酷い点を取るわけにはいかない。せめて平均以上は超えたい。
「………」
回答を書く手が止まらないぞ…!
あれだけ勉強すれば筆が進むのは当然。
この調子なら平均点は余裕で超えられそうだ。
僕はいいとして…五十鈴さんは大丈夫かな。
華岡学園に入学できる学力はあるようだけど、中学まで学校に通ってなかったハンデは大きいはず。勉強会の成果が出ればいいけど…
※
後日、テストの結果が返却された。
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園田庭人
国 75点
数 88点
英 80点
理 86点
社 78点
総合407点
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僕の結果は上々だ。
勉強会のおかげで全ての点数が平均的に上がってる。百点は一つも取れなかったけど、平凡な僕はこれでいいんだ。
「……」
隣の席の五十鈴さんも答案用紙を確認している。
「五十鈴さん、どうでした?」
「……これ」
五十鈴さんは浮かない表情で答案用紙を見せてくれる。
まさかひどい点を取ってしまったのか?
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五十鈴蘭子
国 100点
数 100点
英 100点
理 100点
社 100点
総合500点
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全教科百点!?
「すごいじゃないですか!」
学校に通えなかった負担があるとは思えない結果だ。やっぱり五十鈴さんは、僕のような凡人とはモノが違うんだな。
「でも……全部正解だと、見直しができない……」
「見直し?」
見直すも何も全問正解なら見直す必要が…
…そうだ、思い出した。
五十鈴さんのやりたいことノートには“みんなでテストの見直しをしたい”と書かれている。恐らくテストが終わった後、みんなで和気あいあいと問題を振り返るようなことがしたかったのだろう。
だが見直しとは不正解だった問題を見返えして直すことだ。
つまり全教科百点を取ってしまうと見直す必要がないんだ。だからといってわざと問題を間違えたり、テスト勉強を疎かにすることは五十鈴さんの流儀に反してしまう。
これは思わぬ障害だぞ。
「うわ、五十鈴さん満点じゃん」
すると前の席の西木野さんが振り返り、五十鈴さんの結果を覗きにきた。
「ここのテスト難しすぎだよ~…この英語の問題、正解は何だっけ?」
「えっと……定冠詞はザ、不定冠詞はア……」
「あーやっぱりこっちかぁ。じゃあこの問題は?」
「それは……」
五十鈴さんと答え合わせをする西木野さん。
そのやりとりはどこの学校にもある、普通の日常風景だ。
「五十鈴さん」
「?」
「達成できましたね、友達のテストの見直しが」
「……!」
僕がそう囁くと、五十鈴さんはハッとする。
自分のテストが見直せないなら友達のテストを見直せばいい。友達の分からなかった答えを教えてあげるのが、全教科満点を取った五十鈴さんの役割だ。
「おお~五十鈴さん学年一位だね!」
「すごい…」
その後は星野さんと木蔭さんも加わり、五十鈴さんは嬉しそうにみんなのテストを見直した。これならやりたいことノートにチェックを入れてもいいんじゃないかな?
…ここでふと思ったことがある。
「ねえ城井くん」
「ん?」
僕は前の席の城井くんに小声で話しかけた。
「五十鈴さんのテストの結果って、学校中に広まるかな?」
「うん。総合点数の上位五十人までの名前は掲示板に張り出されるから、間違いなく広まるよ」
「だったら五十鈴さんの“日本語を話せない”っていう誤解は解消されないかな?」
全教科満点ということは国語も百点を取ったことになる。なら日本語を話せないなんておかしいと、誰しもがそう思うはずだ。
「気付く人はいると思うけど、その真偽を確かめる度胸のある人がいるかは疑問だね。“高圧的なお嬢様”っていう誤解は解消されてないから」
「う…」
みんなが五十鈴さんに近づかない一番の要因は“日本語を話せない”ではなく“高圧的なお嬢様”の方にあるようだ。
真実は高圧とは真逆の、気弱な女の子なのに。
「……」
でも焦ることはない。
最近の五十鈴さんは人前でも少しは笑顔を見せられるようになったし、誤った噂なんていずれは解消される。クラスのみんなもそろそろ五十鈴さんの正体に気付いてくれるはずだ。
12 勉強会を開く。×
13 みんなでテストの見直しをしたい。×