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37 園田くんと木蔭さん




 木蔭さんは見た目通りの女の子だ。

 文系少女で運動は苦手。意思を主張したりはせず周囲に流されてばかり。人間関係は波風を立てないことが第一。コミュニケーションが苦手なので、影の薄さを利用して逃げてばかり。


 まさに誰もが認める陰キャ女子である。


 とても地味な立ち位置だが、木蔭さんはそれを気に入っている。物語のヒロインになりたいという高望みはせず、目の前の面白いイベントを傍観できればそれで満足だった。


「…」


 木蔭さんはふと、階段の踊り場に置かれている花瓶の花が気になった。


(元気なさそう…水を替えてないのかな)


 花瓶の中を確認すると、やはり水は濁っている。

 このまま放置していたらすぐ腐ってしまうだろう。


「重い…」


 だが大きな花瓶を水道まで運ぶには、華奢な木蔭さんには重労働だ。


「木蔭さん?」


 すると背後から声がかかる。

 通りかかった園田くんが木蔭さんを見つけてくれた。


「水を替えるんですか?僕が運びますよ」


「あ、ありがとう…」





 花瓶の水を替えるため水道に向かった二人。

 園田くんが花瓶に水を汲んでいる間、木蔭さんが花を持つことになった。


「…」


「…」


 その間、やはり二人に会話はない。


(木蔭さんはどう見てもスポーツやゲームをやる人じゃないよね…どんな話題を出せばいいんだろう)


 園田くんにとって木蔭さんは関わったことのないタイプの女子なので、どう接すればいいのか迷っていた。


(………)


 対して木蔭さんは男子と接する経験すら皆無なので、頭の中は真っ白だ。


「…木蔭さん」


 この沈黙を破れるのは園田くんだけだ。


「は、はい…」


「五十鈴さんとはどうですか?」


「えっと…五十鈴さん、思ったより穏やかな人だから仲良くなれそうだよ…」


「それは良かった。ああ見えて五十鈴さん、かなり危なっかしいところがあるんです」


「うん…見ててそう思う時があるよ」


 五十鈴さんの友達であるという唯一の共通点で会話を始める二人。この話題ならコミュ障の木蔭さんでも話についていける。


(五十鈴さんと園田くん…本当に仲いいんだなぁ)


 話している内に木蔭さんは改めてそう思った。


(お嬢様と平民の身分差恋愛…最近そんな小説を読んだな。五十鈴さんと園田くんの関係は今後どうなるんだろう…!)


 木蔭さんは二人の関係を見ていると、どうしても恋愛小説のような展開を期待してしまう。


「私もモブの一人として、出来るかぎり五十鈴さんの力になるよ」


 五十鈴さんの物語に登場する一般人として、陰から見守る宣言をする木蔭さん。


「…」


 だがそれを聞いた園田くんは困った表情を浮かべる。


「…自分のことをモブだと思っていると、五十鈴さんを傷つける場合がありますよ」


 自分をただの一般人と卑下する木蔭さんを見て、園田くんは過去の失敗を思い返していた。


「え?」


「他人から見れば僕と木蔭さんはモブでしょう。でも五十鈴さんにとっては、特別な友達なんですよ」


「…」


 自分が特別であること。

 それは木蔭さんが今まで一度も考えなかったことだ。


 存在感の薄いことは個性に聞こえるかもしれないが、それは個性がないことを個性と言っているようなものだ。


「五十鈴さんと出会えたことで、僕と木蔭さんもモブを卒業したんです」


「…」


 五十鈴さんと友達関係を築くことは、華岡学園全校生徒が羨む特別だ。それなのに木蔭さんは自分が特別であることを自覚していなかった。


「そっか…そうだね…」


 これから五十鈴さんと付き合っていくなら、木蔭さんは自分が特別(ともだち)であることを認めなければならない。


「でも…五十鈴さんの期待に応えられるか不安だな。私って心身共に地味だから」


「ええ…自分で言っててなんですが、僕も普通意外に取柄がないので不安ですよ」


「…」


「…」




 その時、影の薄い木蔭さんと平凡な園田くんはシンパシーを感じていた。




「なんだか…園田くんとは気が合いそう…」


「不思議と僕もそう思います」


 どうやら似たような個性を持つ二人は波長が合うようだ。

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