36 園田くんと星野さん
園田くんはある日、朝の通学路で星野さんと遭遇した。
「あ、星野さん。おはようございます」
「園田くん、おはよう」
星野さんの自宅は園田くんや五十鈴さんと同じ方向にあるので、これまでも何度かバッタリ会うことがあった。
だが二人きりで会うのはこれが初めてになる。
園田くんは毎日五十鈴さんと通学しているわけではない。そんなことをしていたら、また余計なヘイトを集めてしまう。
「…」
「…」
二人はそのまま肩を並べて学校へ向かうが、会話はなかった。
(友達の友達と二人きりになるのって…)
(なんだか気まずい…)
二人は五十鈴さんの友達ではあるが、お互いに友達と呼べるかどうかは微妙な関係だ。
(しかもこの人が、私の運命の相手かもしれないのか)
そして星野さんの葛藤は園田くん以上だ。
星野さんにとって占いこそが絶対の運命であり、その占いによれば五十鈴さんと園田くんは自分の運命の相手なのだ。
(普通に考えれば運命の相手って、将来のパートナーとかだよね。同性の五十鈴さんは親友的な意味だと思うけど、異性の園田くんとは…もしかしたら恋仲になるかも)
星野さんはこれまでのことを思い返しながら、園田くんを観察した。
(園田くんを一言で表すなら“普通”だ。五十鈴さんの知り合いってだけでかなり特殊な人だと思ってたけど、見た目も性格も特質したものなし。ゲームの登場人物で例えるなら村人Cが一番しっくりくるね)
平凡、モブキャラ、一般人。
園田くんの印象はそればかりだった。
(…なんだか値踏みされてる気がする。そろそろ話題でも振ってみようかな)
その間、園田くんはこの沈黙を破るため話題を探していた。
「星野さん」
「な、なに?」
「それが今日の占いのラッキーアイテムですか?」
園田くんはまず、星野さんの手にあるガムテープに注目した。
「うん、そうだよ」
「ガムテープなんて何に使うんですかね」
「そうだね…園田くんの制服、埃がついてるよ」
「え、本当ですか?」
「このガムテープでぺたぺたすれば~」
「おお、ありがとうございます。本当にラッキーアイテムなんですね」
意外なことに話してみると会話は続いた。
(うん、話していて嫌な感じはしない。今まで会ってきた男子と違って野蛮じゃないし、悪人でないことはハッキリと分かるんだよね)
星野さんの中での園田くんの評価は悪くなかった。だが運命の相手として見るには、まだまだお互いのことを知らなさすぎる。
「ねぇ園田くん」
「はい」
「その……ご趣味は?」
「へ?」
※
「やっぱり46ハードの“ゼリダの伝説”は神ゲーだよね!」
「わかります!最新のも悪くないですが、やっぱり3Dの原点は無視できません!」
会話を始めてものの数分、星野さんと園田くんはすっかり打ち解けていた。
「まさか園田くんがレトロゲームをやってるなんてね~」
「うちの両親が昔使ってたハードが残ってるんですよ。僕と妹はそればかり遊んでたんです」
二人には令和となって廃れてしまった古いゲームを遊ぶという共通の趣味があった。
(高校生になってようやく会えた…同じゲームをやってる人!)
しかも幼馴染がいた園田くんと違って、星野さんにとっては初めて作れたゲーム仲間だった。
「五十鈴さんはゲームやってるかな?」
「いえ…やってないと思います」
「そっかぁ…みんなで遊べたらいいんだけど」
「いつか五十鈴さんたちと一緒にゲームできたらいいですね」
「うん、そのうち誘ってみよう!」
星野さんは友達とゲームで遊ぶという、子供の頃からの夢を想像して笑みをこぼしていた。
(五十鈴さんと知り合えただけでも贅沢なのに、ゲーム仲間まで作れるなんて…今までの一位の中で一番嬉しい結果だよ)
占いに振り回される体質にずっと悩まされてきた星野さんだが、あの日の運勢だけは心から感謝していた。
(運命の相手って意味はまだ分からないけど、今年は楽しい一年になりそう!)
高校生活の始まりは五十鈴さんにとって特別な出来事だったが、それは五十鈴さんと出会った星野さんたちにとっても同じなのだ。