34 病み上がりの園田くん
僕は風邪を引いて、四日も寝込んでいたらしい。
「…」
この四日間のことがよく思い出せない。
西木野さんからにゃいんのメッセージをもらったことだけは覚えているけど、その後何があったんだっけ?
「そうだ、スマホ」
スマホでにゃいんを確認してみた。
あった、西木野さんからのメッセージ。
『五十鈴さんがいなくなったんだけど』
このメッセージから始まる一連のやり取り。
少し思い出してきたぞ…僕の欠席を知った五十鈴さんが学校から逃げてしまったんだ。それで僕は家を飛び出して、どこかで五十鈴さんと会って、何か励ましの言葉と、退院祝いのプレゼントを贈った…ような気がする。
記憶が曖昧だから、もしかしたら夢だったのかもしれない。
弱っている女の子のためにプレゼントを持って会いに行くなんて、僕がやるとは思えないほど大胆な行動だし。
「…」
引き出しの中身を確認してみた。
そこには退院祝いのプレゼントがしまってあったんだけど、それがなくなってる。どうやら夢じゃないっぽいな…五十鈴さんをどうにかしたいという焦りと風邪が相まって、頭がおかしくなっていたのかな。
それと五十鈴さんが、僕の手を握っていてくれたような気がする。
ああ、恥ずかしい…!
これから学校に行かなきゃなんだけど、五十鈴さんと顔を合わせるのが恥ずかしいぞ。
「…はぁ」
といっても、元気になったから学校に行くしかないんだけどね。
※
朝早く教室に入ると、五十鈴さんはもう席に着いていた。
「おはようございます」
僕は普段通り挨拶をする。
「おはよう……」
教室にはまだ誰もいないから、五十鈴さんは緊張せず笑顔で僕を迎えてくれた。
「僕がいない間、どうでした?」
自分の席に着きつつ五十鈴さんの様子を伺ってみる。
「楽しかった……みんな、園田くんの席に座ってくれてた……」
「へぇ~面白そうですね」
そんなことになってたのか。この席に星野さんたちが座ってたと思うと、ちょっと落ち着かない気持ちになるけど。
「でも……園田くんがいる方が、もっと楽しい……」
「…」
五十鈴さんのストレートな感情表現、久しぶりだからちょっと堪える。
「それと……この前は無理させてごめん……」
すると五十鈴さんが急に謝ってきた。
もしかしなくても、それってあの事だよね。
「いえいえ、僕がしたくてやったことなので」
やっぱり夢じゃなかったんだ。
そして五十鈴さんは僕の風邪が悪化したことで気が咎めているようだ。これ以上学校から逃げた話はしたくないな…こうなったら話題を変えよう。
「そうだ五十鈴さん。あと少ししたらテストがありますよね」
そろそろ華岡学園はテスト期間だ。
そして五十鈴さんにとっては、人生初めての中間テストになる。
「僕らサボったり風邪引いたりでけっこう休んでますから、しっかり勉強しましょう」
「うん。園田くんが休んでる間のノート、とってるよ……」
「あ、ありがとうございます」
五十鈴さんに頼るのってなんだか慣れないな。
「それでね……みんなで、勉強会を開きたい……」
「いいですね」
それも確かやりたいことノートに書いてあったっけ。西木野さんにお願いして、五十鈴さんグループのみんなを集めてもらおう。
「私が、みんなを勉強会に誘いたい……!」
意外なことに、五十鈴さんがそう提案してきた。
少し見ない間に雰囲気が明るくなったかな。
数日前は学校から逃げるくらい気弱だったのに、そんな大胆なこと言うなんて。僕が風邪で休んでいる間に、いろいろあったみたいだ。
「じゃあ五十鈴さんにお願いしますね」
「うん……!」
もうすぐ季節は春から夏へと変わる。
これから華岡学校はテストの他にもたくさんの学校行事が控えている。やりたいことノートの達成もまだ八割以上残っているし、忙しい学校生活になりそうだ。
でもそれが五十鈴さんにとって、何よりも幸せなことなんだろうな。
「それとね、園田くん……」
「はい」
「実は私たちって、幼馴染なんだよ……」
「………はい?」