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32 お見舞い




 五十鈴さんが学校から逃げて三日が経った。


「ふぅ……」


 あれから五十鈴さんは逃げずに学校へ通い続けている。

 園田くんのためを思って授業はいつも以上に集中し、ノートも綺麗にとってある。めげそうになる時もあったが、西木野さんたちが支えてくれるおかげで耐えられる。


 この調子なら明日もがんばれる。


 ただ一つ気がかりなのは、園田くんの風邪がまだ長引いていることだ。


「庭人くんが連日風邪で休むなんて珍しいよね」


「………(そうだな)」


 本日の放課後。

 五十鈴さんが帰り支度をしている時、速川さんと涼月くんの会話が聞こえた。


「そろそろお見舞いにでも行こうか」


「………(仕方ない)」


 その会話は五十鈴さんにとって聞き捨てならないものだった。

 本当は今すぐにでも園田くんのお見舞いに行きかったが、一人で友人の家に訪問する勇気がなかった。これは速川さんたちについて行くチャンスだ。


「あの……!」


 五十鈴さんは咄嗟に声をかけた。


「ん?どしたの五十鈴さん」


「え、えっと……」


 しかし五十鈴さん、友達について行く勇気すら足りない。だが園田くんのお見舞いに行くチャンスを逃したくなかった。


「私も……一緒に……行きたい……」


 必至で声を絞り出した。

 これが今の五十鈴さんの全力だ。


「じゃあ三人で行こうか」


 速川さんはあっさりとそう答えた。





 こうして園田くんのお見舞いに行くことになった五十鈴さん、速川さん、涼月くん。三人はまずお見舞いの品を用意するため、コンビニに立ち寄ることにした。


「五十鈴さんは知ってる?園田家って両親が共働きでよく海外に行くから、今は家に兄妹二人しかいないんだよ」


 買い物を終えて園田くん宅に向かう道中、速川さんが話しかけてくる。


「うん、園田くんから少し聞いた……」


「へぇ~庭人くんが自分の身の上話をするなんて珍しい」


「二人暮らし……大変そう」


「といっても兄妹暮らしは長いから大抵のことはもう二人だけで乗り越えられるよ。でも庭人くんが風邪でダウンして、妹の楓ちゃんは事故の怪我が完治してないからちょっと心配だよね」


「……」


 五十鈴さんは今回の件を深く反省していた。

 病院生活では他人と関わらず誰かに迷惑をかけることもなかった。だが今は学校という集団の中にいるので、自分勝手な行動をすれば友達や他人に迷惑をかけてしまう。


 人付き合いの経験も、五十鈴さんに足りないものの一つだ。


「ここが庭人くん家だよ~」


 そうこう話している内に三人は園田くん宅に到着した。

 園田くんは五階建ての新築マンションにある、三階の一室で暮らしている。速川さんは園田家の鍵を持っているので、エントランスを抜けスムーズに目的地である園田くん宅の前に到着した。


「……」


 友達の家にお邪魔するという未知の体験を前に、五十鈴さんは緊張していた。


 ピンポーン


 そんな五十鈴さんにお構いなしで、速川さんはインターホンを鳴らす。


「はーい」


 玄関の扉が開くと、一人の女の子が迎えてくれる。


 園田くんの妹である園田楓ちゃんは中学三年生。長い黒髪のツインテールが特徴的だが、体格は普通で顔立ちも特質するものはない。一見すると園田くんに似た平凡な女の子に見えるが、弱気で謙虚な兄と違って妹は自信と活力に満ち溢れている。


 そしてその右足には包帯が巻かれていた。


「あ、昴ちゃん!」


「お見舞いに来たよ~」


「ありがとう~さぁ入って入って」


 楓ちゃんは片足歩きのまま、速川さんたちを家の中に招き入れてくれる。


「足の調子はどう?」


「もう大丈夫だよっと」


 楓ちゃんは元気をアピールするため足をぶんぶん振り回しているが、バランスを崩して転びそうになった。


「………(無茶をするな)」


 そんな楓ちゃんを抱え止める涼月くん。


「……」


 五十鈴さんは少し意外に思った。

 楓ちゃんが危なっかしいのは分かるが、今までずっと消極的で面倒くさがりだった涼月くんとは思えない行動の早さだ。


「涼月くんはいろいろあって、楓ちゃんに頭が上がらないんだよ」


 小声で五十鈴さんに耳打ちする速川さん。

 二人にどんな過去があるのか、五十鈴さんはいつか聞けたらいいなと思うのだった。


「庭人くんの調子はどう?」


「もう熱は引いてて、明日から学校に登校できそうだよ。今は薬を飲んで寝ちゃった」


 楓ちゃんと速川さんの会話を聞いて五十鈴さんは安堵する。耐えられるようにはなったが、園田くん抜きの学校生活は精神的によろしくない。


「…あれ、その美少女はどちらさま?」


 居間に入ると楓ちゃんは五十鈴さんの存在に気付いた。


「同じクラスの五十鈴さんだよ。園田くんとすっごく仲良しなんだ」


 速川さんが簡単に五十鈴さんを紹介する。


「え、なんで一般人代表のお兄ちゃんにこんな美少女の知り合いが…?」


「いつ知り合ったのか庭人くんに聞いても教えてくれないんだよね」


「ふーん…でも、どこかで見たことあるような」


「楓ちゃんも見覚えある?私もなんか昔に会ったことある気がするんだよね~」


 二人は五十鈴さんを見て何かを思い出そうとする。


 楓ちゃんは入院中に遠くから五十鈴さんを見たことがある。だが入院中と今とでは雰囲気が違うので、それで思い出せないだけだ。


 対して速川さんは楓ちゃんのお見舞いで病院に行ったことはあるが、五十鈴さんを見たことはない。それなのに前から五十鈴さんと関わるたびに既視感を覚えていた。


「………(まだ思い出せないのか)」


 そんな二人を見て涼月くんは呆れている。




「………(八年くらい前、俺たちは近くの公園で五十鈴蘭子と出会っている)」




「……」


 それを聞いて五十鈴さんは、前に園田くんと学校をサボった時に話した思い出が鮮明に甦った。

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