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30 学校から逃げた五十鈴さん②




 病院に到着した。

 五十鈴さんの自宅と病院は、僕の家からそれほど離れていない。とはいってもこの往復は今の僕にはかなり堪える。ああ…今すぐにでも倒れそうだ。


「あら、いつぞやの少年」


 病院の受付を通ると、見覚えのあるナースさんと会った。前に五十鈴さんと学校をサボった時に優しくしてくれた人だ。


「あの、五十鈴さんはいますか?」


「中庭にいるけど…大丈夫?顔色悪いよ」


「大丈夫です」


 僕は受付を抜けて、中庭に足を踏み込んだ。


「……」


 見つけた、五十鈴さん。

 一人ぽつんと中央のベンチに座って俯いていた。遠目からでも気落ちしているのが分かる。


 早く声をかけないと。


 ………


 勢いでここまで来たけど、なんて声をかけよう。


 こんな時にかけるべき言葉が思いつかないのが平凡な僕の欠点だ。物語の主人公だったら気の利いたセリフで、五十鈴さんを元気にさせられるんだろうけど。


 …思いつかないなら仕方ない。

 いつも通り、普通に話しかけよう。


「おはようございます、五十鈴さん」


「……!?」


 声をかけると五十鈴さんは勢いよく顔を上げる。


「園田くん、風邪は……?」


「微熱なので大丈夫ですよ」


「どうして……ここに……?」


「えっと…説明すると長くなるので簡潔に言うと、五十鈴さんが心配だったからです」


「……」

 

 五十鈴さんは再び俯く。

 どうして僕がここに来たのか分かったみたいだ。


「西木野さんが心配していましたよ」


「うん……ごめんなさい」


「五十鈴さんは何も悪くないです」


「……」


「まだ学校が怖いですか?」


「うん……もう、学校には慣れたと思ってた。でも園田くんが欠席って聞いた時、いつもの日常が全然違うものに見えて……怖くなって逃げちゃった……」


「…」


 西木野さんの言う通りだった。

 確かにクラス内で友達は出来たけど、まだ五十鈴さんは心を開くことができていない。過去の事情を打ち明けたり、困った時に頼れるような信頼関係は作れていなかったんだ。


 今の五十鈴さんを支えられるのは、ノートを書いてくれた先輩と事情を知ってる僕くらいだ。


「…唐突ですが五十鈴さん、これをどうぞ」


 僕は小さな包みを五十鈴さんに差し出した。


「それは……?」


「五十鈴さんの退院祝いです。渡すタイミングが難しくて今まで渡せませんでした」


 これが五十鈴さんを勇気づけるきっかけになればいいなと思って持ってきていたんだ。


「開けていい……?」


「どうぞ。たいしたものじゃないですけど」


 包みを受け取った五十鈴さんは、慎重な手つきで紐を解いた。


 中には紙飛行機に乗ったくまのキーホルダーが入っている。


 僕と五十鈴さんがここで出会うきっかけになった紙飛行機に、五十鈴さんの好きなくまが乗ってるんだ。これを見つけた時は衝撃を受けて買わずにはいられなかった。


「……」


 五十鈴さん、喜んでくれているかな?


「五十鈴さんは独りぼっちじゃありません。きっと僕のいない学校は、いつもと違う新しい出来事が待ってますよ」


「いつもと違う……」


「気を強く持って…明日は学校に…」


 あれ、視界がぼんやりしてきた…


「園田くん……!」


 まだ話が途中なのに…微熱とはいえ、やっぱり無茶しすぎたみたいだ。





 その後のことはよく覚えていなかった。


 そもそも僕、何してたんだっけ?

 風邪を引いたから家で大人しく寝ていたはずだけど…


「タクシーを呼んだから、帰って自宅療養するのよ。蘭子ちゃんも今日は帰りな」


 かすかに声が聞こえる。

 それと誰かが、僕の手を握ってくれていた。


「ごめんね、園田くん……」


 この声…もしかして五十鈴さん?

 夢でも見ているのかな。


 意識が朦朧としていてよく覚えてないけど、この手の感触だけは夢とは思えないほど鮮明に残っていた。

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