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27 みんなでごはん②




 食事処まんかい亭。

 そこは外観も内装も特に変哲のない、普通の定食屋だ。店内には体力測定を終えた華岡学生や一般客が適度に席を埋めている。


 店内に僕らが入ると、お客さんは五十鈴さんの存在に気付いてザワつく。


「あれ、まさかあれが噂の美少女か?」

「なんでこんな庶民の店に…」

「ていうかなんであの集団に男が混じってんだ…羨ましい」


 庶民が利用する定食屋に、絵に描いたようなお嬢様がいるという光景。周囲から好奇の視線が集まるのは当然だ。


 僕のことも何か言われてる気がするけど、気のせい気のせい。


「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」


 そんな中でも定員さんは動じることなく五十鈴さんを受け入れ、僕らが席に着くとすぐさま水とおしぼりを用意してくれた。


「みんな、学生限定おまかせ定食でいいんだっけ?」


 西木野さんがみんなにそう聞くと、僕らは一斉に頷く。


「かしこまりました。少々お待ちください」


 店員は笑顔で注文を承ると、厨房に引っ込んで行った。


「……!」


 向かいに座る五十鈴さんは初めて入る店に緊張しつつも、とても嬉しそうにしている。五十鈴さんの新鮮なリアクションはいつ見ても飽きないな。


「さて…そういえば園田は、まだ星野さんたちとちゃんと自己紹介してないよな」


 料理を待っている間、西木野さんが話題を出してくれた。

 そういえば五十鈴さんの新しい友達、一緒に掃除したり軽い挨拶はしてるけど、ちゃんとした自己紹介はしてなかったっけ。


「じゃあ私から、星野夢月だよ」


 そこで真っ先に名乗り出たのは星野さんだ。


「どうも。五十鈴さんから占い好きの人だって聞いてますよ」


「私も五十鈴さんから聞いてるよ、従者の園田くん」


「従者って…」


「冗談冗談。二人が誤解されてることは知ってるよ」


「そ、そうですか」


「まぁ仲良くやろうね」


 陽気な人だな、星野さん。

 なんだかノリが昴に近くて接しやすいぞ。


「ど、どうも…木蔭明菜です」


 そして次は見るからに内気そうな木蔭さんだ。

 影の薄さも相まって、つい見失いそうになってしまう。


「ごめん…あまり男子と会話したことないから、ちょっと緊張してる…」


「わかりますよ、その気持ち。自分も高校に入る前まで女子との関わりが少なかったので」


「そうなの…?なんだか慣れてるみたいだけど…」


「慣れません慣れません。今のこの状況にも慣れていません」


「ふーん…」


 木蔭さんは少し警戒を解いてくれたようだ。

 気弱そうな女の子だから、昴みたいなノリで接しないよう気を付けよう。


「くんくん」


 そして最後、朝香さんは急に僕の匂いを嗅いできた。

 距離が近い…!


「ど、どうしたんですか?」


「なるほど~」


「…もしかして汗臭いですか?」


「ううん、いい人の匂いだよ~」


「…?」


 変わった人だ。

 しっかり者の西木野さんとは対照的で、なんだか天然でのほほんとしている。


「まさかあの控えめな庭人くんが、大量の女友達を作るとは思わなかったよ」


 自己紹介を終えると、隣に座る昴が絡んできた。


 僕が集めたわけじゃないけど…本当に女子だらけだな。

 でもこれが五十鈴さんの初めての学校生活で作れた輪だ。みんな個性豊かだけど、気の良さそうな人たちで安心だ。


「……」


 それなのに五十鈴さんは不安そうな目で見てくるから、場違いにも僕が付き添っているんだけど…僕がいないとそんなに不安なのかな?


「ところで庭人くん」


 すると急に昴が小声で耳打ちしてくる。


「なんだよ」


「ふと思ったんだけど、庭人くんって五十鈴さんといつ知り合ったの?」


「…今年の二月頃だけど」


「そんな最近なの?やっぱり気のせいなのかな…」


 昴の奴、前から五十鈴さんを見て何かを思い出そうとしている。いったい何と勘違いしてるんだ?





 僕らは食事を終えて店を出た。

 お客さんを見て作る料理を決めるおまかせ定食は、城井くんの言う通りのものだった。僕のは唐揚げ定食だったんだけど、唐揚げは僕の大好物。味も量も完璧で、体力測定で空腹になっていた胃袋を完璧に満たしてくれた。


「はぁー満足した」

「美味しかったね~」

「お腹いっぱい…帰って横になりたい」


 女子のみんなも大満足だったようだ。


 ここの亭主はどうやって初対面である客の好みを当てているのか…不思議だ。今度、城井くんと涼月くんも誘おう。


「それにしても五十鈴さん、よくあの量を完食できたね」


 西木野さんの言っていることは、みんなが思っていたことだ。


 因みに五十鈴さんの料理はフィレステーキだったんだけど、量は僕のよりも多かった。それをあっさりと完食してしまうんだからすごい。


「食べようと思えば……もっと食べれる……」


 自信満々でそう言い切る五十鈴さん。

 まさかフードファイターの才能まで隠し持っていたなんて。


「そんでもって痩せてんだよな」

「あの肉はどこに消えたんだろう…」

「流石は五十鈴さんだね」


 そう言いながらみんなして五十鈴さんを囲んでいる。


「……」


 五十鈴さんは戸惑っているけど楽しそうだ。みんな五十鈴さんの才能を妬んだりしない、いい人ばかりだな。


「はくしょんっ」


 あれ、くしゃみが出た。


「園田くん…風邪?」


 気付いた木蔭さんが心配してくれた。

 確かにちょっと肌寒いかも…体力測定の時に少し冷えたかな。


「大丈夫ですよ。こう見えて丈夫なんで」


 今日はこのまま解散となった。

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