26 みんなでごはん①
身体測定と体力測定がある日の学校は午前中で終わる。学校がいつもより早く終わると、なんだか不思議な開放感があるな。
「お腹空きましたね」
「うん……」
運動したこともあって、僕と五十鈴さんも空腹のまま帰らないといけない。
妹はまだ学校だから、家に帰っても僕一人だけ。お昼ごはんはどうしようかな…
「おーい園田、五十鈴さん。この後ヒマ?」
すると前の席の西木野さんが振り返って声をかけてきた。
「予定はないですよ」
「……」
五十鈴さんも頷いている。
「ならよかった。この後一緒にどこか食べに行かない?」
「おお、いいですね」
それは願ってもないお誘いだ。
家で一人の時間なんて、全然楽しくないからね。
「……」
五十鈴さんにとっても喜ばしいお誘いのはずだけど、何やら戸惑っている様子。
多分だけど五十鈴さんにとって、これが人生初めての外食になるはずだ。友達と一緒とはいえコンビニよりも勇気がいるだろう。
「もしかして五十鈴さん、緊張してる?」
そんな五十鈴さんの心境を察知する西木野さん。
「星野さんと木蔭ちゃんと希もいるし、みんなで行けば怖くないよ」
西木野さんが向こうの席を指差す。
「友達と寄り道なんて初めてだよ」
「私も初めて…」
「私もゆーちゃん以外では初めてだな~」
あの集まりはまだできて間もないのに、もう仲良しになってる気がする。女子同士は仲良くなるのが早いな。
「……」
それを聞いて一安心する五十鈴さん。
やっぱり女子組は頼りになるな。
………まてよ。
このメンバーで食事ってことは、このままだと男は僕一人になる?
「そ、そうだ!城井くんと涼月くんもどうかな?」
僕は帰ろうとする男友達二人を引き留めた。
「ごめん。僕はこれから部活で、お弁当を用意してる」
「………(家の手伝いがある)」
あっさりと断られてしまった。
こ、これはまずい…五十鈴さんグループの女子組に囲まれながらの昼食なんて、周囲から妬まれること必至だ。既にクラス内から突き刺す視線を感じるぞ。
「速川さんも行ける?」
「うん、いけるよー!」
そうしている間にも西木野さんは女性陣を増やしている。
「よかったな園田、ハーレムじゃん」
西木野さんが肘で僕の脇を突っついてくる。
くっ…からかわれている。
「確かに男子からしたら喜ばしい展開なのでしょうね…」
でも女子に囲まれるシチュエーションなんて、平凡な僕にとっては分不相応すぎて落ち着かないだけなんだよ。
こうなったら僕も断ろうかな。
五十鈴さんには西木野さんたちが付いてることだし。
「あの、西木野さん。僕も用事を思い出して…」
「……」
そう言いかけた時、五十鈴さんから悲し気な視線を感じた。
「なんか言った?」
西木野さんは意地悪な笑みを浮かべながら聞き返してくる。
「………いえ、何でもないです」
こうなったらもう乗りかかった船だ。
※
「それで、どこで何を食べるんです?」
帰り支度を進めながら、どこで昼食をとるのか西木野さんに尋ねた。
「まだ決まってない。園田は行きたいとことかある?」
「そうですね…」
華岡学園の近くには駅があって、そこには定番の店が一通り揃っている。選択肢が多いから悩みどころだ。
「それなら駅前にある“まんかい亭”っていう定食屋がオススメだよ」
そこで城井くんが案を出してくれた。
「そこの目玉である学生限定おまかせ定食は、300円というお手頃価格でボリューム満点。亭主が客を見定めて作る料理を決めるんだけど、確実に満足させてくれるらしいよ」
それも噂で知ったことなのかな。
噂を集める城井くんは、さながら華岡学園の情報屋だ。
「たまにはいいこと教えてくれるじゃん」
どうやらその情報は、西木野さんのお眼鏡にかなったようだ。
「おーい、行く店決まったよ」
西木野さんはすぐ星野さんたちに目的地を伝えに行った。
それにしても…女子六人に囲まれながらの食事か。この展開を素直に喜べる男らしさが、僕にあればよかったんだけど。