24 身体測定 ㋨
身体測定と体力測定。
それはどの学校にもある行事の一つだ。その日は授業がない代わりに、一日をかけて全校生徒の測定が行われる。
「それでは五十鈴さん、頑張りましょう」
「う、うん……」
測定は男女別々で行われるので、園田くんと五十鈴さんは別行動だ。
「じゃあ行こうか。城井くん、涼月くん」
「うん」
「………(面倒くさい)」
知り合いが女子だらけの園田くんだがちゃんと男友達はいるので、こういった行事で独りぼっちになる心配はない。
「……」
自分の元から去り行く園田くんを見つめる五十鈴さん。
「五十鈴さん、私たちも行こうか」
そんな五十鈴さんに声をかける西木野さん。
「なんだかいつもと違ってわくわくするね~」
「それに測定の日は授業がなくて楽だよね」
「でも私は…気が重いな…」
「私は次の体力測定が楽しみだな」
五十鈴さんの元に集まる朝香さん、星野さん、木蔭さん、速川さんはお昼ごはんを得て、すっかり一つのグループとしてまとまりつつあった。
「……」
園田くんがいなくても、今の自分は一人じゃない。それが五十鈴さんの心を安定させてくれた。
※
こうして五十鈴さんの身体測定が終了した。
「……」
改めて自分の結果を確認する五十鈴さん。
やりたいことノートには“身長は目指せ160以上。”という目標が書かれている。長い入院生活が影響して発育に問題が起きるのではないかと、五十鈴さんは子供の頃から不安に思っていた。仮に健康であっても、体の成長には個人差がある。
果たして五十鈴さんの結果はどうなったのか?
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五十鈴 蘭子
身長 165㎝
体重 43kg
視力 右 1.5
左 1.5
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「……」
拍子抜けなことに、五十鈴さんは理想の身長を超えていた。しかも高校一年生にしてはかなりの高身長だ。
「いいな…五十鈴さん、スタイル良くて…」
五十鈴さんの隣で木蔭さんは影のように暗くなっている。
「結果……どうだった?」
「私の身長…中学一年の頃からほとんど成長しなくなったよ…」
木蔭さんの身長はクラス内どころか、同年代の中で最も小さい。それも存在感の薄さに繋がっているのだろう。
「私は身長よりも体重が気になるわ…」
対して西木野さんは別の数字に悩んでいた。
「五十鈴さんより身長も低くてスタイルも良くないのに、なんで体重だけ上回ってるんだろ」
西木野さんは羨ましそうに五十鈴さんの体を観察する。
身長もそうだが、その体には無駄な肉というものがまったくない。女性が目指す理想のスタイルだと言える。
「筋肉の差が大きいと思うよ」
すると速川さんが話に加わってきた。
「筋肉?」
「筋肉は脂肪よりも重いんだよ。そんでもって五十鈴さんには、不自然なほど筋肉がついてないんだよね。まるで最近までずっと寝たきりだったみたいな…」
速川さんから痛いところを突かれる五十鈴さん。
「……」
五十鈴さんはまだ、自分の過去を園田くん以外には打ち明けていない。
長い入院生活の悪影響、学生経験がないことによるハンデ、やりたいことノートという目標…五十鈴さんはまだそれらを秘密にしたかった。同情されたりしない対等な友達、それこそが五十鈴さんの理想とする関係だ。
「体の数字なんてどうでもいいじゃん」
「そうそう、人として大事なのは香りだと思うよ~」
体系に悩んでいる木蔭さんと西木野さんとは違い、星野さんと朝香さんはまったく気にしていなかった。
「希はいくら食べても太らない体質だからね…まさか星野さんも?」
「あんまり気にしたことないけど、多分そうかも」
そう言いながら星野さんは、今日のラッキーアイテムである輪ゴムを指で振り回している。
「星野さん…その輪ゴム、貰っていい?」
「いいけど何に使うの?」
「この忌まわしき記録を封印しようと思ってね」
西木野さんは診断書を折り曲げ、星野さんから貰った輪ゴムでがちがちに縛った。
「さぁ、次の体力測定に行こうか」
過去を振り返らない西木野さんの後に、五十鈴さんたちは続いた。
16 身長は目指せ160以上。×