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21 園田くんの幼馴染




 五十鈴さんたちがお弁当を食べた放課後、僕らは恒例の教室掃除をしていた。


「六人でやるとあっという間ね」

「羽根箒はこのためにあったんだなぁ」

「木蔭さん、一緒にゴミ出しに行こ~」

「う、うん…」


 西木野さんと新しく友達になった星野さん、朝香さん、木蔭さんが掃除を手伝ってくれている。


 これはもう一つのグループ…“五十鈴さんグループ”とでも言うべきか。ついに五十鈴さんはクラス内で人間関係を築けたんだ。


 うーん…僕の用意していた作戦は必要ないみたいだな。


「園田くん……?」


 考え込んでいると、五十鈴さんが僕の顔を覗き込んできた。


「あ、ええっと…」


 五十鈴さんの至近距離は心臓に悪い。


「実は五十鈴さんに、僕の幼馴染を紹介しようと思いまして」


「幼馴染……?」


「クラスメイトの中に二人だけいるんですよ」


 僕が一人で考えていた作戦、それは五十鈴さんに僕の幼馴染を紹介することだ。最初の友達は自分の力で作りたいと言っていたから、今まで紹介できなかったんだ。


「ありがとう……楽しみ……」


 五十鈴さんは期待に目を輝かせている。

 意外だな…まだ人見知り気味だから、迷ったり躊躇したりすると思っていたのに。お昼休みを得て自信がついたのかな?





 次の日のお昼休み。

 今日は西木野さんと城井くんに頼んで席を空けてもらっている。これから教室の隅で五十鈴さんと僕と、幼馴染を合わせた四人で昼食をとることになる。


「それでは紹介しますね、五十鈴さん。まずこっちの怖い顔の男が涼月隼人(すずつきはやと)くんです」 


 最初に紹介するのは、無口でクールな男の子の涼月くんだ。目つきが鋭くて身長が高く、第一印象で不良に見られることもあったりする。


「こ、こんにちは……」


 五十鈴さんは緊張しつつも挨拶をする。


「………(どうも)」


 あの五十鈴さんが挨拶してくれたというのに、涼月くんは口を開かない。


「あれ……?」


 声を発していないけど、五十鈴さんには涼月くんの意思が伝わっているはずだ。


「この通り、涼月くんは喋らず意思を伝えるのが得意なんですよ」


 腹話術でもテレパシーでもない、謎の意思疎通能力。これが涼月くんのコミュニケーション法だ。


「涼月くん……喋れないの?」


「………(そんなことはない)」


「じゃあ、どうして……?」


「………(口を開くのが面倒なだけ)」


 こんな感じで二人は会話をしてるけど、五十鈴さんは声が小さいから遠くからだと無言で見つめ合っているようにしか見えない。


「何か困ったことがあったら、遠慮せず涼月くんに頼っていいですよ。僕よりも頼りになる男子なので」


 涼月くんとは小学一年くらいからの仲だ。

 見た目や性格は不愛想だけど、困っている人をほっとけない優しい面もある。五十鈴さんの事情を知ったらきっと助けになってくれる。


「ねぇ庭人くん、そろそろ私の紹介をしてよ~」


 涼月くんの紹介をしている途中、二人目の幼馴染が僕の服を引っ張ってきた。


「はいはい…じゃあ次ですが、こっちは速川昴(はやかわすばる)といいます」


「こんにちは、五十鈴さん!」


 昴は元気な声で五十鈴さんに挨拶する。

 こいつは涼月くんとは対照的、とても騒がしい女子だ。身長は女子にしては高く髪は短いから、かなりボーイッシュな容姿をしている。


「こんにちは……」


 昴の勢いに押されつつ五十鈴さんは挨拶を返す。


「いやーやっとお話しできるよ。五十鈴さんってどんなスポーツが好き?」


「……」


「五十鈴さん手足長いから何でも得意そうだよね!バスケ?テニス?ソフトボール?それとも~」


「……」


 急な質問攻めを受けて五十鈴さんは困惑している。


「こら、そこまでだ」


 僕は軽いチョップで昴の頭を叩いた。


「いたー」


「人にスポーツを強要するなって、いつも言ってるだろ。五十鈴さんはインドア派だぞ」


 見た目通り昴は体を動かす遊びが好きだ。

 幼い頃から、昴の無茶な運動に僕と涼月くんは何度も付き合わされてきた。しかもこいつは並外れた身体能力をもってるから、一緒に遊んでるとめちゃくちゃ疲れる。


「…ねぇ五十鈴さん、私たちって前にどこかで会ったことない?」


「え……?」


「なんかこのやり取りに既視感があるんだよね~」


 昴はジロジロと五十鈴さんを観察している。

 何を馬鹿なことを…五十鈴さんはこの学校に入学する前まで、ずっと入院生活してたんだぞ。でも変に詮索されると厄介だな。


「この通り昴はスポーツバカなので、無理に付き合う必要はないですよ」


「あ、ひどーい」


 雑な紹介に昴は抗議しているが、無視だ無視。

 女子には礼儀正しく接するよう心がけている僕だけど、こいつはもう身内みたいなものだからこれでいいんだ。


「変わり者ばかりの幼馴染ですが、悪い人ではないので安心してください」


「……」


「…五十鈴さん?」


「あ、うん……よろしく……」


 五十鈴さんは慌てて二人にお辞儀をした。

 何か考え込んでいたみたいだけど、どうしたんだろう?


「よろしく!」


「………(よろしく)」


 何はともあれ、僕の幼馴染が五十鈴さんの友達になった。


 この数日で五十鈴さんの交友関係は一気に広がった。僕がこの教室にいなくなっても、独りぼっちになることはない。


 五十鈴さんの学校生活は、安泰したも同然だな。

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