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20 お弁当の日② ㋨




 そしてやってきた、お昼休憩。


「五十鈴さん、お昼食べよう」


 西木野さんが振り返って、五十鈴さんを昼食に誘ってきた。普段は教室の隅に集まる四人で昼食を取っているのだが、本日の五十鈴さんには作戦がある。


「それでさ…実は今回、五十鈴さんに会わせたい子がいるんだ」


「……?」


「紹介するから、その子と一緒にお昼食べよう」


 偶然なことに西木野さんも別の人を昼食に誘おうとしていた。ここに便乗して、五十鈴さんも控えめに手を上げる。


「あの……私も、昼食に誘いたい人がいる……」


「おろ?珍しいね」


「だから……みんなで中庭で食べよう」


「へぇ、いいじゃんいいじゃん!」


 控えめな五十鈴さんとは思えない提案に、西木野さんは喜んで賛同した。


「園田も来る?」


 西木野さんはついでにと園田くんも誘った。


「いえ、遠慮しておきます。女子に囲まれるのは慣れないもので」


 女子が相手だと畏まってしまう園田くんは謹んで遠慮した。


(頑張ってください、五十鈴さん)


 園田くんは心の中で応援しならが五十鈴さんを見送る。


「……」


 五十鈴さんは少し不安そうにしていたが、今回は西木野さんという心強い味方がいる。園田くん抜きで頑張ろうと気を引き締めた。





 華岡学園の中庭は、五十鈴さんが入院していた病院の中庭と似ている。立派な噴水、緑豊かな木々と花壇、勉強で疲れた生徒が休めるベンチたち。そこはまるでお嬢様学校の憩いの場、流石は華岡学園の設備だと言わしめる環境だ。

 

 そんな昼食をとるには絶好の場所に集まった五十鈴さんたち。


「…」

「…」

「…」

「…」

「…」


 しかし、五人の間に会話はない。

 勇気を出して集めたはいいものを、ここからは即興で話を展開しなければならない。だが今の五十鈴さんにそんなスキルはない。


「さて…どう整理したもんかな」


 この沈黙を破ったのは、やはり西木野さんだった。


「取りあえず順々に処理しようか…先に紹介するよ、五十鈴さん。この子は朝香希(あさかのぞみ)、私の幼稚園からの幼馴染だよ」


 まず西木野さんは自分が連れて来た友達を紹介した。


「こんにちは~五十鈴さん」


 朝香さんは全体的にふわふわしていた。

 羊のように柔らかそうな髪、おっとりした瞳、気の抜けるような喋り方。そして怖いお嬢様と噂される五十鈴さんを前にしても、まったく物怖じしていない。


「こ、こんにちは……」


「くんくん」


「?」


 すると朝香さんはおもむろに五十鈴さんの髪の匂いを嗅ぎだした。


「へぇ~なるほど~」


 そして一人で納得している。


「この通り…人の匂いを嗅ぐのが趣味の変わり者だけど、友達の友達は友達ってことで一つよろしく」


 大雑把に朝香さんの紹介を済ませる西木野さん。


「それで………まさか五十鈴さんが、二人もクラスメイトを誘うとは思わなかったんだけど」


 そして次に西木野さんが注目するのは、五十鈴さんが誘った二人。

 星野夢月と木蔭明菜だ。


「星野さん、いつの間に五十鈴さんと知り合ったの?」


 まず西木野さんが声をかけたのは、通学路で五十鈴さんとぶつかった星野さんだ。


「それがいろいろあってね~」


「相変わらず何かを抱え込んでるみたいねぇ」


「まあね…あはは」


 星野さんは乾いた笑みを浮かべる。

 彼女は自分の特異体質を誰かに相談したことがない。自分の運命は運勢に左右されているなんて、そんなオカルトめいた話をしても誰も信じてくれないと悟っているからだ。


「知り合いだったの……?」


 二人の会話を聞いて五十鈴さんは首を傾げる。


「ああ、私と星野さんは中学が一緒なんだよ」


「そうだったんだ……」


「同じクラスになれたのは一回だけだから関わりは少なかったけど、個性的だったから記憶に残ってるよ」


「?」


「なんか星野さん、いつも変な物を所持しててね。今だってなんで羽根帚を持ってるのか分かんないし」


 西木野さんの言う通り、星野さんの手には食事に必要のない掃除道具が握られていた。


「深い意味はないよ、占いのラッキーアイテムなだけ」


「占い好き……?」


「う、うん」


 本当は好きではないのだが、そう言わないと辻褄が合わないので頷くしかない。


「それとえっと………あ、木蔭さんね」


 西木野さんは目の前にいる木蔭さんを見つけるのに数秒かかっていた。


「どうも…」


 影の薄い木蔭さんはおずおずとお辞儀をする。

 彼女は五十鈴さんレベルで対人経験が少ないので、まだこの状況に慣れず緊張していた。


「登校初日は話しかけなくてごめんね」


「い、いいの…私って影が薄いから…」


「五十鈴さんから聞いたよ。いつも教室を綺麗にしてくれてありがと~」


「う、うん…」


「これからは私も掃除仲間だから、よろしくね」


 西木野さんはぐいぐいと木蔭さんとの距離を縮めていく。


「……」


 五十鈴さんはそのコミュ力を頼もしく思う反面、羨ましく思っていた。


「それにしても五十鈴さん、今回もがんばったね」


「?」


「こうしてお昼を一緒にできたのは、五十鈴さんのおかげだよ」


「……」


 西木野さんから誉められ、五十鈴さんは恥ずかしそうに俯く。


(あれ?なんかイメージと違うな、五十鈴さん)

(高圧的なお嬢様には…見えない…)

(私と気が合いそ~)


 そんな二人のやりとりを見ていた星野さん、木蔭さん、朝香さんは心の中で、五十鈴さんの意外な一面に驚いていた。それもそのはず、ほぼ初対面である三人は学校中に広まっている誤った噂でしか五十鈴さんを知らない。


「そういえば五十鈴さんのお弁当、いつもと違うね」


「うん……自分で、作ったの……」


「おお、五十鈴さんの手作り!ならおかず交換しようよ」


「……!」


 西木野さんの提案に五十鈴さんは全力で頷く。


「うまい!朝から手が込んでるね~」


「……」


 自分の作った料理が褒められ、五十鈴さんは笑みを溢す。


(あれ?むしろめちゃくちゃ可愛いぞ)

(可愛い…!)

(普通に可愛い~)


 初めて五十鈴さんの笑顔を目の当たりにした三人は、かつてない衝撃を受けていた。その愛嬌のある笑みを見るだけで、誤った噂を払拭させるには十分だった。


「私のおかずも交換しよう!」

「私のも…!」

「私のも~」


 三人はそんな五十鈴さんと仲良くなりたいという衝動が抑えられなかった。


 こうして五十鈴さんのお昼ごはん作戦は、気になっていたクラスメイトとの距離を縮めることに成功。文句なくノートにチェックをつけられる素敵なランチになった。

22 お弁当を作る。×

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