19 お弁当の日①
なんだかんだあって五十鈴さんは、木蔭さんと星野さんという二人のクラスメイトと知り合えた。だが友達と呼ぶにはまだ関係が浅い。友達関係に発展させるには、もう一押しが必要だ。
「……」
そう考えた五十鈴さんは、二人を昼食に誘おうと思いついた。
一緒にお昼ご飯を食べながらお話が出来れば、関係が深まること請け合いだ。
「うーん……」
五十鈴さんは自室で料理本とにらめっこしている。
こうして暇を見つけて料理の勉強をしているのは、やりたいことノートに書かれている“お弁当を作る。”に挑戦するためだ。
入院中はテレビや本で料理を見るだけ、おままごとで調理の真似をするくらいしか出来なかった。なので自分の手で美味しい料理を作ることが長年の夢だった。
これまで五十鈴さんはお母さんの料理の手伝いをしながら技術を学び、一通りの調理器具は扱えるようになっている。
もう料理は一人で出来る自信があった。
「明日の朝、作ってみよう……」
普段はお母さんがお弁当を用意してくれるのだが、今回は自分の力でお弁当を作るつもりだ。それだけ今度の昼食にかける思いが強いということだ。
※
平日の朝。
五十鈴さんは早起きして、エプロン姿でキッチンに立った。
「それじゃあ、レッツクッキング」
近くでお母さんが拳を掲げている。
「……」
「大丈夫、手は出さないよ。でも監視はさせてもらうから」
まだ五十鈴さん一人で何かをさせるのが心配なお母さん。だが自分の力でお弁当を作りたいという気持ちを汲み取り、手を出す気はないようだ。
「よし……」
気を取り直して、五十鈴さんは調理に取り掛かった。
献立は以下の通りだ。
ミートボール
ベーコンとほうれん草のソテー
卵焼き
二種のおにぎり
タマネギ、豚ひき肉、卵を混ぜた肉だねを丸めて160度の油で揚げ、特製の甘酢あんに絡めればミートボールは完成。ベーコンはカリカリに焼き、ホウレン草を加えバターと醤油コショウでソテー。卵焼きは甘めに、専用のフライパンで焦げないように焼き上げる。おにぎりは鮭フレークとタラコの二種類を握り、お弁当箱とは別の可愛らしい包みに入れる。彩りとしてミニトマト、ブロッコリー、お漬物も添えて。
「…蘭子って器用よね」
隙あらば助言を挟もうと見ていたお母さんだが、五十鈴さんの安定感ある料理姿に感心していた。
五十鈴さんはあらゆる面で経験不足だが、器用で要領が良く覚えが早い。包丁の使い方、焼き加減の調整、盛り付けも完璧だった。
「……」
冷ました料理を小さなお弁当箱に詰め、五十鈴さん特性弁当の完成だ。
「……!」
文句なしの出来栄えに五十鈴さんは大満足の様子。
「お母さん……今日のお昼に、どうぞ……」
五十鈴さんは自分の分だけではなく、お母さんの分のお弁当も作っていた。
「お、ありがとう。昼食が楽しみだよ」
お母さんは嬉しそうに五十鈴さんからお弁当を受け取る。
「……」
五十鈴さんは完成したお弁当を巾着に詰める。
しかし、まだやりたいことノートにチェックは入れられない。
友達と輪になってお弁当を囲い、楽しいお昼時間を過ごす。そうすることで初めてお弁当は完成となる。もし友達を誘えず一人で食べることになれば、美味しいお弁当は台無しだ。
「……!」
五十鈴さんは身支度を整え、お弁当箱を鞄に詰めて学校に向かった。




