16 友達の作り方
「五十鈴さん、友達を増やそう」
急に前の席の西木野さんが振り返り、五十鈴さんにそう告げた。
「……」
五十鈴さんは困っていた。
増やしたいのは山々だけど、そんな簡単に友達を作れたら苦労はしないよ。
僕も話に加わりたいけど、これは五十鈴さんの会話の練習だ。今は黙って二人のやりとりを見守っていよう。
「私はもうこのクラス全員と面識があるから、五十鈴さんと相性のいい人を何人か紹介できるよ」
「すごい……!」
「それで紹介する前に聞きたいんだけど、五十鈴さんはこのクラスで気になっている人はいる?その子の詳細を教えちゃうよ」
「……」
五十鈴さんは少し迷い、ある生徒を指差した。
「あの人……」
その生徒は窓際の一番前の席に座る、メガネをかけた小柄で大人しそうな女子だった。あんな人、クラスにいたっけ?
「私たちと同じで……教室を掃除してくれてる人なんだ」
「へぇー私ら以外にも掃除好きがいたんだ」
「掃除仲間だから、仲良くなりたい……」
それは名案だ。
西木野さんと友達になるきっかけも学校のお手伝いだったから、あの人も同じ手段で話しかければ上手くいくはず。
「えっとね~あの子は…」
あの女子生徒についての詳細を思い出そうとする西木野さん。
「………わかんない」
すると衝撃の一言が出た。
「え、西木野さん。クラス全員と面識があるんじゃないんですか?」
黙って聞いてたけど、つい割り込んでツッコミを入れてしまった。
「…あの子には挨拶もしたことないや」
「それは酷いですよ」
西木野さんに悪意がないのは分かってるけど、ハブられたあの人が可哀想だ。
「ぐ、言い返せないわ」
そう反省しつつ西木野さんは机からクラス表を取り出す。そのプリントにはうちのクラスの席順が名前で書かれている。
「あった、木蔭明菜さんだ。今までまったく存在に気付かなかったわ…随分と影の薄い子ね」
「…言われて見ると、確かにそうですね」
木蔭さんの席は窓際、僕らからすると嫌でも目に付く席だ。それなのに今まで一度も見たことがないなんて…妙だな。
それでも五十鈴さんはその存在に気付いた。
「どうにか話しかけたい……けど……」
五十鈴さんは尻込みしていた。
相手の情報が得られないとなると、向かって行くにはかなりの勇気が必要だ。
「まぁ焦って向かわなくても大丈夫よ」
「え……?」
「授業、委員会、行事、先生のお手伝い…クラスメイトと関わる機会は今後いくらでもあるから。私に声をかけた時みたいに、タイミングが見つかったら近づくくらいの心構えでいいと思う」
内気な五十鈴さんに無理はさせず、西木野さんはやんわりと背中を押してくれた。
「友達ってのは作るものだけど、偶然ってやつが引き合わせてくれる時もあるから」