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紙飛行機




 あれから数日が過ぎた。

 僕はまた妹のお見舞いで病院に訪れている。といっても恒例のアンポンマングミを渡したら、すぐ中庭に向かうけどね。


「…」


 白いベンチに座りながら、噴水の音に耳を傾けつつ本を捲る。もしかして今の僕って、かっこいい?まあ、そんなお洒落なことをしに中庭まで来たわけではない。


 そろそろ飛んでくるはずだ…


 ポト


 しばらく待っていると、僕の座るベンチの隣に一つの紙飛行機が不時着した。


「……」


 病棟を見上げると、窓から顔を覗かせる美少女が控えめに手を振っている。


 僕は紙飛行機を拾って紙に戻す。

 中にはこう書かれていた。


『こんにちは、妹さんはどうでした?』


 僕は紙に文字を書き足し、紙飛行機に戻して少女がいる病室に向かって飛ばす。


『あいつは入院した時からずっと元気ですよ』


『お見舞いに来る優しいお兄さんがいて羨ましい』


『本人からは優しいなんて言われたことないですけどね』


『きっと照れてるんですよ。私には兄妹がいないので羨ましい』


 こんな感じで、僕と少女は紙飛行機を飛ばして文通を続けている。あれっきりにするつもりだったけど、未練がましく中庭を散歩していた僕に少女は飛行機を飛ばしてくれた。


 おかげで彼女のことをいろいろ知ることが出来た。

 あの綺麗な金髪と碧眼はノルウェーのハーフだかららしい。入院生活は長いけど、もう病気は完治して退院は間地かなんだとか。入院生活が退屈で落書きをしたり紙飛行機を作って遊んでいたら、窓の外に飛んで行ってしまったことなど。


「あ」


 紙飛行機を飛ばしたら、壁にぶつかって墜落してしまった。


 少女の病室は三階。あっちは多少ズレて墜落しても拾いに行けるけど、僕は小さい窓を通過させないとメッセージを届けられない。


「ふふ……」


 僕の失敗を見て、少女は楽しそうだ。

 …これはこれで嬉しい誤算というやつか。


 再度、僕は紙飛行機を飛ばした。


『君にはどんな人がお見舞いに来ますか?』


 ………


 返事が遅い。

 もしかして、まずいこと聞いちゃったかな?


 しばらくして少女は紙飛行機を飛ばした。


『親がたまに来ます』


 妙だな…あんなに可愛くて親しみやすい子なのに、お見舞いに来てくれる人が親だけなんて。学校の友達とかクラスメイトが頼まなくても押しかけにきそうなのに。


『僕がお見舞いに行きましょうか?』


 そう紙飛行機に文字を書いた。


 ……いや、やめておこう。


 流石に踏み込みすぎだ。

 ただ通りかかっただけの得体の知れない男子なんかが、病弱な少女の領域に踏み込むなんて許されていいはずがない。僕はすぐに書いた文字を消して別の文章を書いた。


『早く退院できるといいですね』


 これが無難だ。


 ………


 また返事が遅い。

 しばらくして、少女は紙飛行機を飛ばしてきた。


『僕がお見舞いに行きましょうか?』


「!」


 僕の消した文字が黒く塗りつぶされ、読めるように浮き上がってる。消した跡に気付いて鉛筆で黒く塗りたくったのか。


『来てくれますか?』


 少女は僕の二つ目の文章ではなく、消した文章に返事を書いていた。その紙飛行機を最後に少女は窓の奥に引っ込んでしまった。


 ………


 これを無視したら、少女を傷つけてしまう。

 行くしかないか…

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