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14 五十鈴さんの休日




 休みの日。

 退院して念願の日常生活を手にした五十鈴さんが、休日をどのように過ごしているのか?それはもちろんやりたいことノートの挑戦だ。


 とはいえ二ページ目は学校行事が主なので休日では達成できない。


「……」


 五十鈴さんは自室で、やりたいことノートの三ページ目を開いた。


――――――――――――――――――――

21 喫茶店でお茶する。

22 お弁当を作る。

23 お菓子作りに挑戦。

24 アサガオを咲かせる。

25 泳げるようになる。

26 縄跳びをマスターする。

27 家庭菜園を作る。

28 虹を作る。

29 学校の風景画を描く。

30 自転車に乗れるようになる。

――――――――――――――――――――


 若き日の青春は学校行事だけではない。

 休日ですら青春の大切な一ページなのだ。


 ノートの中には子供っぽい内容が含まれているが、それも当然。五十鈴さんは子供なら当たり前のように経験することが出来なかったからだ。小学生の頃、中学生の頃にやりたかったこともノートに詰まっている。


「むむむ……」


 どこから手を付けようか悩む五十鈴さん。

 やりたいことはただ達成できれば良いというものではない。タイミング、シチュエーション、満足度…それらに悔いを残したら、五十鈴さんは達成の印をつけない。今の五十鈴さんが達成できるやりたいこと、それがどれなのか見極めなければならない。


「……喫茶店で、お茶する」


 五十鈴さんはやりたいこと21に書かれた内容を指でなぞる。


 行きつけの喫茶店でコーヒーを注文し、本を読みながらゆったりとした一時を堪能する。そんなかっこいい大人に憧れる子供は珍しくない。まるで都会っ子に憧れる田舎っ子…病院っ子な五十鈴さん。


「……」


 だが課題は山積みだ。

 一人で飲食店に入るのが怖い。注文の仕方が分からない。何度も行かないと行きつけにならない。読みたい本がない。そもそも苦いコーヒーが苦手。お洒落な服を持っていない。


 現時点で達成は不可能と判断。


「……」


 他のページを捲っても、今の自分に出来そうなものは見当たらない。


「うぅ……」


 早くも折れそうになる五十鈴さん。

 過去の自分が書いたやりたいことの数々…本当に達成できるのか、彼女は不安に駆られていた。




“一緒にがんばりましょう”




 そうやって不安になると、園田くんの言葉を思い出す。


「……!」


 五十鈴さんは弱気になっている自分を振り払った。

 これはもう自分の欲求を満たすためのノートではない。協力してくれる園田くんと、一緒にノートを書いてくれた()()()()の思いが込められている。


 二人の気持ちを無駄にしないためにも、五十鈴さんは諦めない。


「準備……!」


 ノートの達成に拘っていた五十鈴さんは着眼点を変えた。どんな課題も準備をしなければ達成は困難、今の自分がすべきことは準備することだと気付いた。


 五十鈴さんはやりたいことノートの二ページ目に戻る。


「体力測定……」


 もうすぐ学校で体力測定が行われる。

 しかし五十鈴さんは退院したてで体力は人並み以下。“体力測定で平均以上を目指す。”を達成するには体力作りが必要不可欠。他にもハードなやりたいことが控えているので、体力はあって損しない。


「筋トレ……」


 退院した今なら体が動く。

 早速、五十鈴さんはトレーニングを始めた。





「腕立て……」


 二回が限界。


「腹筋……」


 一回が限界。


「スクワッ……と……」


 一回も出来ない。


「はぁ……はぁ……」


 今の五十鈴さんには、筋トレの基礎ですら困難だった。


「何してるの?蘭子」


 ドタドタと物音が聞こえたので、五十鈴さんのお母さんが気になって部屋を覗きに来た。


「トレーニング……だけど……」


「あ、それなら良い物があるわよ」


 そう言ってお母さんは、大きな箱を持って来た。


「バランスボール、蘭子のリハビリにいいと思って買ったの」


「バランス……?」


「膨らませた玉の上に座るだけで、良い運動になるんだって」


「……」


 半信半疑な五十鈴さん。

 取りあえずボールに空気を入れ膨らませた。


「……」


 そしてボールの上に腰を下ろす。


「……いい感じ」


 不安定なボールの上でバランスをとるのはなかなか難しい。筋トレのようなハードな運動ではないが、これくらいの運動の方が今の五十鈴さんには丁度いいのかもしれない。


「それと天気がいい日はジョギングに行くのもいいかもね。体力作りはすぐに成果が出ないから、焦らず地道に続けるのがコツよ」


「うん……ありがとう……」


 こうして五十鈴さんは休日を無駄にせず、やりたいことノート達成に向けて努力を重ねるのだった。

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