12 電話とサボり➂ ㋨
僕と五十鈴さんは病院の中庭で勉強をしつつ、他愛もない雑談をしながら時間を潰した。
「五十鈴さんって入院中、一度も病院の外に出たことないんですか?」
「ううん……実は七歳くらいの頃、外で遊んだことがあるの……」
「どこでどんなことをしたんですか?」
「公園で遊んでて……同い年くらいの子と出会って、一緒に遊べた……」
「じゃあいい思い出になったんですね」
「うん……でも、数日だけだったから……友達は作れなかった」
「そうですか…」
こんな感じでのんびりしている。
おまけにナースさんがお茶やお菓子をご馳走してくれて、至れり尽くせりだ。
「あ、そろそろ最後の授業が終わる頃ですね」
僕はスマホで時間を確認する。
時刻はもう夕方、中庭は夕日で赤く染まっている。
「サボり……成功。スリルがあって楽しかった……」
やりたいことをやって満足した五十鈴さんは、鞄からノートを取り出しペンで印をつける。
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1 学校に通う。 ×
2 友達を作る。 ×
3 男の子の友達も作る。 ×
4 輪になって雑談する。 ×
5 友達と一緒に下校する。 ×
6 放課後、友達と寄り道する。 ×
7 学校でお気に入りスポットを作る。 ×
8 友達と連絡先を交換する。 ×
9 自分から友達に電話をかける。 ×
10 授業をサボってみたい。 ×
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「一ページ目、コンプリートですね」
「……!」
五十鈴さんは嬉しそうにノートを抱きしめる。
「園田くん、ありがとう……」
そして僕に向けて深々と頭を下げた。
「いえいえ、友達なら手伝って当然です」
僕は迷わずそう返した。
「友達なら……当然……」
五十鈴さんは僕の言葉を復唱している。
僕が弱気になるのは、自分を守るためだった。
高望みをしなければガッカリした時のショックが少なくなる。もし僕が五十鈴さんを友達だと思っていたのに、五十鈴さんが僕を友達だと思っていなかったら…その落胆は凄まじいものだ。
そうやってずっと謙虚に生きてきた。
でも弱気になることで五十鈴さんが傷つくなら、そんな考え方なんて捨ててやる。周囲からどう思われようとも、五十鈴さんに相応しい友達になってやるんだ!
「あの……私も、園田くんの助けになりたい」
五十鈴さんは勢いよく身を乗り出してくる。
「え?」
「なんでもするから、何かあったら言ってね……?」
「…」
出ました、天然美少女のなんでもする発言。いくら弱気を捨てるといっても、五十鈴さんにあれこれお願いできるほど強気にはなれないぞ。
「指切り……助け合っていく、約束……」
そう言って五十鈴さんは小指を立てる。
指切りか…五十鈴さんってたまに幼い一面を見せるんだよね。ちょっと恥ずかしいけど、断る理由は見つからない。
「はい、約束です」
僕も小指を出して、五十鈴さんの細い小指と結んだ。
「…」
「……」
やっぱり恥ずかしいな。
みっともなく赤くなった顔が、夕日で誤魔化せていればいいんだけど。