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31 日ノ国さんの花器➄




 夏祭りと花火大会。


 都会の華岡駅周辺で開催される夏祭りに比べて、稲岡駅近くの神社で開催されるお祭りは雰囲気が違う。都会の方はとにかく人が多くて、最新の屋台やキッチンカーが並ぶ今風の祭りだ。対して田舎の方は人混みが少なくて、昔ながらの屋台が提灯をぶら下げている。


 田舎の風流な夏祭りの方が好きだな。


「華岡駅に比べて食べ物が安くていいわね」

「五十鈴さん、お見事なクジ運」

「楽しい……」


 僕は少し遠くから夏祭りを堪能する女子たちを眺めている。


「…監視するだけだと退屈しない?」


 近くに大山くんと西森くんもいたからつい話しかけてしまった。


「遊びに来たわけではないので」

「毎年のことだし…」


 二人は相変わらず気を許してはくれない。


「それより園田はこんな所で単独行動してていいのか?」


 逆に大山くんからそう質問される。


「僕みたいな男子が女子の輪に混ざるのも気を遣うんだよ。変に水を差さないよう、誰かがはぐれないよう、悪い虫が付かないよう、一定の距離で見守るのが男の役割だから」


「…慣れているな」


 西森くんは感心していた。

 僕だって伊達に五十鈴さんたちの友達やってないよ。


「折角の夏祭りなんだから、食べ物くらい買わないと屋台に失礼だよ」


「…それもそうだ」


「一理ある」


 奇しくも二人の立ち位置は僕とほとんど同じ。一緒に女子たちを見守りながら、食べ物の屋台でも回ろう。





「あんまり掘り返すつもりは無かったけど、日ノ国さんについて気になることがあります」


 僕は熱々のイカ焼きを食べながら話を振ってみた。

 楽しいネタがあればよかったんだけど、まだ大山くんと西森くんとは友達と呼べる間柄ではない。話題なんて他に思いつかなかった。


「二人は何をして日ノ国さんに罪の意識を感じてるの?」


「…話したところで仕方ないが」


 大山くんはラムネを飲みながら話し始める。

 少しは僕に対する警戒を緩めてくれたかな?


「俺たち二人は日ノ国さんの()()()を壊してしまったんだ」


「ある物?」


「詳しくは話せないが、日ノ国さんが大切にしていた代物だ」


 意外とシンプルな問題だった。


「日ノ国さんはそのことを今でも恨んでるの?」


「さぁ…でも俺たちは自分を許せない」


 僕の疑問に西森くんが即答してくれた。


「ふむ…」


 日ノ国さんが過ぎたことを根に持つ人物とは思えない。でも本人が許したとしても、自分を許せないのならどうしようもない。


 それにしても大切な物を壊されたか…空き巣に何かを盗まれたりと、日ノ国さんは見かけによらず災難に見舞われる体質なのかな。


「そろそろ失礼する」


「じゃあね」


 急に大山くんと西森くんはそそくさと退散してしまった。


「園田くん、お疲れさま……」


 すると五十鈴さんたちが合流してきた。

 そんな急いで逃げなくてもいいのに…


「…あの二人も来ていたのか」


 日ノ国さんは立ち去る二人の姿を見逃さなかったようだ。


「どうして一緒に遊べないのだろうか…」


「まだ罪の意識が残っているようですよ」


「罪?」


「心当たりがあるのでしょう?」


「…」


 日ノ国さんは少し考える。


「心当たりは何もない」


 そしてはっきりと断言した。


「え、何もですか?」


「幼い頃は楽しい思い出ばかりだったのに、突然距離を取られたからな…逆に私が知らず知らずの内に失態を犯していたのかもしれない」


「…」


 なんだか話が嚙み合わないな。

 大山くんと西森くんはどんな物を壊して、そんな思い違いをしてしまったんだ?そのことに日ノ国さんがまったく心当たりがないのも不思議な話だ。


「園田くん……?」


 混乱していると五十鈴さんが心配そうに覗き込んでくる。


「…実はですね」


 こうなったら五十鈴さんにこれまでの情報を共有してみよう。人の過去を詮索するのは気が引けるけど、上手くいけば日ノ国さんの幼馴染組の仲が直るかもしれない。

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