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30 日ノ国さんの花器④




 遠くの方から太鼓囃子が聞こえる午後。

 花火大会の前座、夏祭りが始まったみたいだ。


「うわ、すごい豪邸!」

「お邪魔します」


 少し遅れて朽木さんと出雲さんが合流して、屋敷に五十鈴さんグループが集結した。ここに筒紙さんが来れれば良かったんだけど。


「それでは支度をしよう」


 日ノ国さんは浴衣の準備をしてくれていた。


「ここからは男子禁制だぞ」


「わかっていますよ」


 僕は躊躇うことなく部屋を後にした。

 秘密の花園を覗いてみたい気持ちはあるけど、そんな大罪を犯す度胸はない。それより麦茶を飲んでトイレに行きたくなったから先に済ませておこう。


「うーん…お手洗いの場所、聞いておけばよかった」


 この屋敷はとにかく広い。間違って女子のお着替え部屋に入らないよう、注意しながらトイレを探してみよう。


 ここは…染物の作業部屋かな。

 こっちは大きな編み物機が置いてある。

 おお、高価そうな日本刀や鎧が飾られているぞ。


 こんだけ広いのに清掃は隅々まで行き届いている。警備の人を雇っているくらいだから、家政婦さんとかが掃除してくれているのかな。


 ちょっと楽しくなってきた…こっちの部屋はなんだろう。


「…え」


 次の部屋の襖を開けた瞬間、その光景につい声を漏らしていた。


「なんでこんなに散らかってるんだ…?」


 障子は破れており、タンスの引き出しも抜き取られ、置物も転倒している。誰かが大暴れした…いや、泥棒でも入ったみたいに荒らされている。


 何があったんだろう…


「…そろそろトイレの限界だ」


 思わぬ恐怖体験のせいでちびりそうだ。





 トイレを済ませている内に、女子たちの身支度が終わったようだ。


「おまたせ、園田くん……」


 五十鈴さんが浴衣姿で登場。

 去年も見たけど、何というか…ついに夏が始まったな。


「良い具合だな」

(五十鈴さんかわいい)

「汚さないように気を付けないとね」


 日ノ国さん、出雲さん、朽木さんの浴衣姿もよく似合っている。普段の日常なら女子組に混ざるのは慣れたけど、人混みの多い夏祭りだとやっぱり抵抗を感じてしまう。


「園田殿、退屈させてしまって申し訳ない」


 まだ支度をしている最中、日ノ国さんに話しかけられた。


「トイレを探しに屋敷の中を探検してたので退屈してないですよ」


「…もしかして奥の部屋を覗かれたか」


「奥の部屋って、あのすごく散らかってた部屋ですか?」


「うむ…お見苦しいものを見せてしまった」


「あの部屋って何があったんです?」


「何年も前に空き巣に入られたことがあるのだ」


 空き巣…やっぱり泥棒に荒らされたんだ。こんなヤクザの本拠地みたいな外観の屋敷なのに、根性のある泥棒もいたものだ。


「犯人は未だに見つかっておらず、あの部屋は事件の現場として立ち入り禁止となっている。証拠はもう残っていないのだがな」


「それで外の警備が厳重なんですね」


「この件で両親がすっかり臆病になってしまった」


「気持ちは分かりますよ」


 娘の家に泥棒が入ったなんて、親なら心配して当然だ。


「あの部屋だけ荒らされるのは不自然ですね…何を盗まれたんですか?」


「それは…」


 何やら日ノ国さんは言い淀んでしまう。


「ご、ごめんなさい。嫌な思い出を掘り返す必要はありませんよ」


「そんな大袈裟な事柄ではないのだが…」


 なんだか微妙な空気になってしまった。


「おーい、そろそろお祭り行こうよ」


 すると良いタイミングで朽木さんが割って入ってくれた。


「今の話は忘れて行きましょうか、夏祭り」


「うむ」


 さっきの幼馴染のこととか、空き巣に入られたこととか、妙に不可解な要素が気になってしまう。今日は遊びに来たんだから、余計なことは考えないで楽しむことに集中しよう。

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