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28 日ノ国さんの花器②




 日ノ国さんの家は古民家のような大きな屋敷だった。

 門を潜って石畳の道を進むと、その目に飛び込んできたのは広大な朝顔の畑だ。色も様々で100色以上は余裕であるぞ。外観はヤクザっぽいのに、敷地の中は古き良き日本の庭園って感じだな。


「…」

「…」


 玄関までの道を歩く途中、二人組とすれ違った。

 歳は僕らと同じくらいの男子二人で華岡の制服を着ている。一瞬だけ目が合ったけど、あまり良く思われてなさそうな視線だった。


 気になるけど今は無視しよう。


「よくぞ参られた」


 玄関まで辿り着くと着物姿の日ノ国さんが迎えてくれる。これが部屋着なのかな…普段の制服姿でも上品なオーラを放っているけど、和服姿だと印象がガラリと変わるな。


「お邪魔します」

「お邪魔します……」


 取りあえず挨拶してから玄関へ足を運んだ。

 おお、内装も時代がかかってるな。


「奥の部屋へ案内しよう」


 そして日ノ国さんの後に続いて長い廊下を進んで行く。


「今更なんですけど日ノ国さんってどういう家庭なんですか?」


 日ノ国さんとはあまり会話したことないから、この機会に色々聞いてみよう。


「日本の作法礼法などの教育に着手する家柄で、大きな染物屋や旅館なども経営している」


「へぇ~」


 まさに日本を代表する名家って感じだ。


「それでその…門の前にいた黒ずくめの人たちは?」


「両親の伝で雇っている警備員だ」


「警備の人ですか」


「うちは基本的に両親が不在だから、心配して用意したのだろうが…少し過保護に思えてしまう」


 なるほど…過保護な両親のせいで物騒な噂が立つのか。


「こちらの部屋を皆で好きに使ってくれ」


 そうこう話している内に広々とした和室に案内された。


「朽木さんと出雲さんが来るまでお散歩していい……?」


 荷物を下ろすと五十鈴さんがナイスな提案をしてくれる。


「うむ、良ければ庭を案内しよう」


「僕も朝顔畑を見に行きたいです」





 やっぱりこの朝顔畑は見ていて爽快だな。真夏の暑苦しい太陽光の熱気が、爽やかな風で流されてゆく。

 ここに宿泊できるなんて、その辺の旅館よりも贅沢だ。


「……」


 その風景に五十鈴さんが佇むと永遠に眺めていられる。


「…私は上手く出来ているのだろうか」


 すると隣にいた日ノ国さんがぽつりと呟く。


「出来ているとは?」


「初めて友人を家に招待する故、期待に応えられるか不安に感じていた」


「一人で悩む必要はありませんよ。こういうお泊まり会は招待する側もされる側も、みんな一緒になって楽しめればいいんですから」


「そういうものなのか…」


「それにこんな立派な朝顔畑に来られたんですから、期待以上ですよ」


「なら良いのだが」


 日ノ国さんは感情を表情に出さないけど、意外と繊細な人なのかな。そういうところが五十鈴さんに似てるんだよね。


 その話を聞いてふと気になった。


「そういえばさっき二人組の男子とすれ違ったんですけど、誰だったんですか?」


「ああ…私の幼馴染だ」


「へぇ~男子の友達がいたんですね」


「いや、友達ではない」


 …ん?

 幼馴染なのに友達じゃないとはどういう意味だ。


「確かに幼少期の頃は友人のように接してくれたのだが、進学するにつれて二人の態度が変わってしまった」


 日ノ国さんは遠くの空を眺めながら続ける。


「二人は両親の知り合いの息子なのだが、立場的には部下にあたる。そのことを知ってから二人は私を目上の者として丁重に扱うようになった」


「なるほど…」


「今回のお泊まり会に男性の友人も誘うと聞いたら、心配だから監視させてほしいと訪問してきた。もちろん断ったがな」


 ああ…それで睨まれたんだ。

 難しい交友関係だな。


「園田殿が信頼に値する人であることは、五十鈴さんから話を聞いていれば分かる」


「…因みに五十鈴さんはどんなふうに僕のこと話してるんですか?」


「ふむ…秘密にしておこう」


「どうしてですか…」


「ちょっとした戯れだ」


 そう言って日ノ国さんは無表情のまま五十鈴さんの元に向かった。まさかこの人にからかわれるとは思わなかった…


「この朝顔たちは草木染めに使えるから、後ほどハンカチ染めを体験してみるか?」


「うん、やってみたい……!」


 日ノ国さんと五十鈴さん、すっかり仲良しだな。

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